第36話 ミッドナスマイン
今回から第3章です
ミッドナスマインの街は以前と変わらず、近代的で美しい街並みで俺たちを迎えてくれた。
特にシグヴァールにとっては約10年ぶりの故郷ということもあり感慨もひとしおといった顔をしている。
俺たちはまずシグヴァールの生家を訪ねようという事になり、宿をとり馬を預けてから街の北東に向かう。
しばらく歩くと見覚えのある丘と綺麗に復興された街。
紛れもなく、俺とエリザベッタがヴァーロスたちと戦った場所だった。
「にゃあ、どの辺住んでいたか覚えているかにゃん?」
「うーん、もう街並みも変わってしまっているし…… もう10年も前の事だから正確な場所は分からないわ」
シグヴァールは何か感傷的になったり、ノスタルジックな気分になったり、複雑な表情をしていた。
あの時はもうすでに、赤龍によって街は破壊されていて、一刻も早くヴァーロスたちを止める必要があったとはいえ、もしあの魔術にシグヴァールが巻き込まれていたと思うとゾッとする。
いや、シグヴァールだけでは無いのだ。ひょっとしたら誰かが犠牲になったのかもしれない。
何か他の選択肢は無かったのか?
記憶がスコールのように降り注ぎ、あの時の戦いが脳裏にフラッシュバックする。
重苦しい空気を感じてか、シグヴァールは移動を提案してくれた。
俺たちは街の中心部に移動する。
目的は情報収集だった。
もちろんエリザベッタの事やこの国の動きについてだ。
他の都市より王都に近く、交通の要所になっている為、情報は集まりやすいはずだ。
「確か、冒険者ギルドが中心にあるはずよ」
「カッルフッドさんは冒険者にゃったっけ?」
「そうよ、鉱山で魔石を探したり、魔獣を狩って素材を手に入れたり、この国で唯一の冒険者ギルドがあるわ」
「にゃるほど。カッルフッドさんなら凄腕の冒険者だったに違いないにゃ」
街の中心部には例の如く修道院があり、一際目立つ大きな塔を備えていた。
冒険者ギルドはその並びの大きな建物だった。
石作りの3階建はありそうな立派な外装はおそらく土魔術を強化して作られたと思われる。
扉の前には衛兵が2人いて、威圧感を放っている。
決して部外者を寄せつけないようにする為か? それともこのギルドの権威を示すためか?
どちらにせよ入りにくい雰囲気だった。
シグヴァールが俺を抱えて入ろうとすると、衛兵に止められる。
「ギルドに何かご用か?」
「こんにちは、私はウルズヘイムから来たシグヴァール。少し調べたい事があって」
「なるほど。では依頼者か?」
ギロリと鋭い眼光で威圧する。
「依頼が必要ならそうするわ」
「そうか、入り口を入って右側に受付がある」
そういって、衛兵は扉を開けてくれた。
「なんだか感じ悪いにゃ」
俺はシグヴァールの耳元で話しかけた。
「そう? 厳格な武人ぽくてカッコいいけど」
「あー、ああゆうのがタイプかにゃ?」
「ちょっ……違うわよ!!」
耳を赤くして頬を膨らませている。
硬派で勝ち気なイメージがあるが可愛いところもある。
建物の中は結構広く中央に階段があり、右側が依頼用の受付、左側が冒険者用の受付になっていた。
衛兵とは逆に、受付のお嬢さんたちはラフな格好をしていて、その辺の町娘と変わらない。
依頼者用の受付はがらんとしていて、女性が1人退屈そうに書類を読んでいた。
「こんにちは」
シグヴァールが話しかけると、こちらを向き満面の笑みを浮かべた。
「かわいい猫ちゃんね。こちらは依頼者用の受付だけど」
「あ、この子はミカエルです」
「こんにちはミカエルちゃん」
俺はシグヴァールの肩にしがみついて、知らん顔をした。
あんまり人懐っこい猫というのも考えものだ。犬じゃないんだから。
「私達はこれから王都に行く予定なんですけど、王都の状況、女王陛下の安否が知りたくて。何か情報は無いかなって思って」
「ふーん、私達ってその猫ちゃんの事? それとも仲間が他にいるのかしら?」
「あ、いえミカエルとだけです。1人と1匹なんですよ」
「そう。猫ちゃんは家族ってわけね。王都の情報ね、あるにはあるけど情報はタダじゃないわ」
「えーと、いくらくらいですか?」
「そうねえ、王都の情報くらいなら新聞にも載ってるけど、女王陛下の情報となると下手すりゃ金貨ね。 それにクエストがらみとなると冒険者にでもならない限り教えられないわ」
「ぼ、冒険者!?」
いかん、シグヴァールの目が輝いている。
「冒険者にはどうやったら成れるのですか!?」
受付嬢はカウンターに前のめりになったシグヴァールを押し返す。
「2階に登録所があるからそこで受け付けてるわよ。その後簡単な試験があって合格したら晴れて冒険者よ」
「受けます!!!」
あちゃー、こうなったらもうテコでも動かなそうだ。
当初の予定を忘れてなければ良いけど。
「ふーん。どうせ暇だから2階まで連れて行ってあげる。こっちよ」
中央の階段を登って、2階に上がるとダンスホールのように広いフロアになっていた。
机やソファーが置いてあり数組の冒険者達が、談笑したり、真面目そうな話し合いをしていた。
受付嬢はカウンターの中に入ると、数枚の書類を持って来た。
「この書類に記入して。書けたらそこの受付に渡すと良いわ」
「ありがとう」
そういって書類を受け取った。
「本気かにゃ?」
俺は小声で呟く
「うん、こんなチャンス二度とないかもしれないし」
「だけど、魔術学校に行くんじゃにゃいのか?」
「行くけど、魔術の修行を兼ねて、ちょっとだけ。ね。いいでしょ!」
「……わかったにゃん」
魔術学校の入学まで時間もあるし、聖術の強化の為なら多少寄り道しても大丈夫だと思うんだけど、冒険者やったらハマりそうなんだよな、シグヴァールは。
書類を書いて受付に持って行くと、さっきまでいた人じゃない。
シグヴァールが書類を渡す際、俺と目があった。
その瞬間身体中に鳥肌がたった。猫なのに。
「こんにちはシグヴァールさん。ギルド長のエリス・ベネットです」
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