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第35話 転生

今回で『ミカエル回想編』は終わりになります。

ミカエルに過去を話させるのが、想像以上に難しくて、物語が単調になってしまいました。

私の力不足を痛感しました。

次回から『大森林の要塞編』が始まります。

まだ書いてないので、1週おやすみをいただきます。次回3/22予定。

 

 エリザベッタが女王に即位してから9年余りの月日が過ぎていた。

 日々の生活は忙しくも充実した日々を過ごしていた。


 この頃、エリザベッタと俺は王座を退いた後にどうするか?そんな話をよくしていた。

 俺はすでにエリザベッタと添い遂げるつもりでいたし、ずっと一緒にいる事が出来たら幸せだと思っていた。

 彼女がどうするつもりか聞いてないが、同じ気持ちでいてくれると信じていた。


 王都の城に長い事居ると、不思議に思う事があった。

 この国には外交というものが無い。

 港町は2つあって、漁が主要産業で王都にも魚介類を運んでいるが、他の国と交流があるという事は聞いたことが無い。

 国の高官に尋ねてみると、外海に出ようにも沖に出ると潮の流れが急で渦潮に飲まれて船が沈没してしまうらしいのだ。

 また国境は高い岩山が聳え立っている。数人の勇気ある冒険者が頂を目指して挑んだが、生きて帰ってきた者はいないという。


 歴史や公文書の記録を調べてみても、建国以前の物は存在が無く、この国以外の口伝や伝承もほとんど存在しないのだ。

 ほとんどの伝承は「ポアーン・ダヌ」が優れた魔術師で、神が如く慈愛で理想国家を建国したという内容になっている。

 しかしどこの誰と戦ったのか? 戦争の記録は一切残されていない。

 ただ、圧倒的な魔力で愚かな戦争を終わらせて、争いの無い平和な時代を作ったとしか書かれていない。


 俺たちに歴史を掘り返す気はあまり無い。

 知りたい事は外の世界が存在するかどうかだった。


 ひょっとして、海を行くと突然大きな崖の様な滝になっていて、滝壺に飲まれてしまうかもしれない。

 もしかすると、山を超えた先には何も無く、この国は空飛ぶ大陸の様になっているかもしれない。


 俺たちは暇さえあれば外の世界について議論し、考えれば考えるほど早く真実が知りたいという気持ちがどんどんと高まっていったのだった。

 そして任期が終わったら冒険者になって、この国の境を見てみたいと思う様になっていたのだ。


 退任まであと1年に迫ったある冬の日、王城に緊張が走った。

 王都サクラルーメンはまだ寒く、凍てつく様な厳しさだったが、少しずつ日が長くなり西日がわずかな温もりの残滓と共に消えていき、仕事の後の暫しの休息をこれから迎えようという時間だった。


 ……王城に侵入者を知らせる鐘の音が響く。


 普段から人の出入りが多い王城はさほど警備は厳しく無いのだが、要所には結界が張られ侵入は困難。

 王城の奥、すなわちエリザベッタの元に辿り着くには幾重の結界を破り、さらに護衛をしている王宮騎士たちを倒さなければならないはずだった。


 しかし、侵入者達はあっという間にエリザベッタの元に辿り着いたのだった。


 侵入者の5人組は全身が白い法衣のようなものを着ており、顔にはそれぞれ異なった仮面を着けていた。

 俺が急いでエリザベッタの所に着いた頃には、すでに護衛の騎士は倒されていたのだった。


 俺はすぐさま闇の牢獄を展開して5人組を檻の中に拘束し、大量の闇の刃で貫いたが、まるで瞬間移動をしたみたいに目の前に現れて光の矢を放つ。

 襲いかかる矢を魔法障壁でいなし、闇の執事(ダークサーバンド)を展開して制圧する。


 侵入者の1人がするりと抜けて、俺の目の前で大きな槍を作って投げる。


 槍は何の躊躇いもなく、俺の体を貫いた!!


 ……俺はあらかじめ 強制内省(リフレクションズ)を体に纏わせていたし、障壁も幾重に張っていた。

 まるで俺の魔法が始めから無かったように。


 エリザベッタの方を向くと、悲痛な表情をして何やら叫んでいた。

 脂汗のような冷えた汗が滲み出る。

 スローモーションのように絶望と死の恐怖が襲いかかる。


 胸部を滴る血がゆっくりと床に落ちる。

 エリザベッタの手が俺に届きそうだ。

「……逃げろ。そして生きてくれ」

 言葉になったか覚えていないが、俺はエリザベッタの手を押し返そうと手を伸ばし、薬指が触れた。


 その瞬間!!

 俺は真っ暗な空間にいた。

 朦朧とする意識の中、温かい手が頬に触れる。

 どうやらエリザベッタに介抱されているようだ。

 夢か現かわからない。

 起きあがろうとするが力が入らない。

 早く逃げろと言いたいが、言葉が出てこない。


 エリザベッタが俺の頭を軽く持ち上げた。

 柔らかい彼女の唇が押し当てられる。

「……また、逢いましょう」


 彼女は俺を強く抱き寄せると、周りに十数個の多重魔法陣が展開される。

 1日の仕事を終えたばかりでほとんど魔力は残されていないはずなのに。

 だめだ、君だけは生きてくれ。そんな思いは虚しく、俺は深い底なしの井戸に落ちていくような感覚に包まれ意識を失った。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そして気がついたら、猫になってたにゃあ」


「それで私に会って、今に至るって感じなのね? エリザベッタさんは無事なのかしら?」


「うーん。 ちょっと分からないけど、生きていると信じたいにゃ」


「……そうよね。もし死んでいたら発表されていると思う。それに次の王を決めないといけないはずでしょ?」


「そうだにゃ。長い歴史の中でも暗殺された事は無かったはずだにゃ。 王の魔術の引き継ぎが出来ないから発表して無い可能性もあると思うにゃ」


「もう半年近く、女王陛下不在で病の治癒が行われていないし、治療の魔法陣も限りがあるわ。王都の評議会はこれからどうするつもりなのかしら?」


「相当混乱しているはずだにゃ。傾国のピンチといった所かにゃ」


「それに侵入者は何者なの? 何か心当たりはあるの?」


「全く無い、、、はずだにゃ」


「……歯切れが悪い」


「見当はつかないけど、エリザベッタが王になるのを気に入らない連中は一定数存在したにゃあ」


「じゃあ、その人たちかもしれないの?」


「うーん。こればっかりは分からないにゃ」



 山の間から大都市ミッドナスマインの灯りがチラチラと見えるところまで来た。


 エリザベッタが俺にかけてくれた転生魔法のおかげで俺はこうしてシグヴァールと旅をすることができている。彼女は確かに『また逢いましょう』と言ったのだ。

 必ず生きているはずだ。彼女は今もどこかで俺を待っている。


 そう信じて、街道を進むのだった。

 

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