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第33話 大いなる遺産

 


 合成魔術とは一般的には近い相位の魔術を掛け合わせたものを示す。

 例えば水と氷を組み合わせ、より質量のある氷魔術を作ったり、光と聖を組み合わせて聖なる光で浄化作用を光に付加したりする事が可能だ。

 相位が近ければ相乗効果もあるが離れて行くと、相乗効果は弱くなり打ち消す効果が強くなる。

 水と火を掛け合わせてもお湯を作ることはできるが、火は消えてしまう。

 さらに逆の性質を持つ魔術を掛け合わせると、レジスト効果が働きどちらか片方が消えて、もう片方も小さくなる。

 これが今までの常識だった。


 しかし全く同じ魔力量で相位の真逆の魔術をぶつけたらどうなるのか?

 これを研究していたのがエリザベッタの生家「ダラゴナ社」だった。

 エリザベッタや俺の両親、その他大勢の命を奪った魔力災害は、この光と闇の合成魔術によるものだったようだ。


 俺とエリザベッタは密かに研究をしていた。子供の頃に起こったあの大爆発の正体を知りたかったからだ。

 ありとあらゆる魔術を掛け合わせてみたが、中でも光と闇は自然環境に左右される事なく同じ魔力量でぶつける事が容易いと気づいた。

 そして数千回以上となる試行の結果、魔力コントロールの優れたエリザベッタが後に放った方がより成功率が高い事が分かったのだ。



 ムラヤニドと赤龍の頭上で光と闇の光線を出す魔力の塊は、どんどんと小さくなっていった。


 失敗か? 何も起こらないじゃない?


 ムラヤニドがそんな表情を浮かべた時……


 大爆発が起こった。

 一瞬世界がモノクロームになってしまったと思うほどの強い光と共に、爆風は辺り一面を吹き飛ばし見事なクレーターを作った。


 俺たちはエリザベッタの土のドームと闇術の魔法障壁で避難しており、爆発には巻き込まれ無かった。

 影響をもろにくらったムラヤニドは跡形もなく消えた。

 頭が吹き飛び右半身が無くなった赤龍はその場に力無く倒れ込み、クレーターに血の水溜りを作っていた。


 ヴァーロスは咄嗟に出した土の防御壁でかろうじて原型をとどめているが、うつ伏せで倒れたままピクリとも動かない。

 生死は不明だ。

 しかしもう起き上がることは出来ないという気がした。



 俺達はヴァーロスの近くに行った。


「どうしようか?」

 エリザベッタに聞いてみた。


「どう?って、獲らえるか殺すかって事よね」

「うん。殺さないと街に放った骸骨兵やゾンビが止まらないのかと思って」

「……そうね。早く止めないと被害者が増えるわ」

「そうだね」


 俺は妖術を練って半透明の女の子を作り出した。


「食べろ、バアル……」

 半透明の女の子はヴァーロスを包み込むと、体に抱き込んだ。

 シュワシュワと音を立てて、あっという間に存在は消えてしまった。

 せめて痛みが無く、あの世という物があるならば旅立ってほしい。


 なぜこんな事をしたのか?

 もっといろいろな事を聞いてみたかった。

 魔術もすごかった。

 石板に召喚魔法陣を組み込むアイディアなど思いもつかないアイディアだ。

 赤龍だって、一体いつから準備をしていたのだろう。

 それから英雄? だっけ?

 あと王の魔術というのは何だろう?


 そんな事をエリザベッタと小一時間ほど話をしていたら、アン・ジェームス校長がガルーダに乗ってやって来た。

 ヴァーロスの作った骸骨兵やリッチーが急に動かなくなり土に還ったので、終わったことを覚ったそうだ。

 それで急いでこちらに向かって来たそうだ。


 アン校長に赤龍が暴れて街に多大な被害が出てしまった事や、ヴァーロスやムラヤニドが強敵で合成術を使った事。

 そして合成術で街の一画を吹き飛ばして更地にしてしまった事を謝った。


 アン校長は苦笑いをしていたが、よくやったと労ってくれたよ。


 それからしばらく街の復興や被害状況などを調べて、王都に戻る事になった。


 ~~~~~~~~~~


 シグヴァールは黙って聞いていた。

 少し真剣な表情をしていて、馬の規則正しい足音だけが鳥の鳴き声と共に空に吸い込まれていった。


 話が終わった頃にはもう辺りは暗く、今日は野宿になりそうだ。

 左側には鬱蒼と続く大森林があり、右側は王の台地に続く崖がそびえ立っている。

 もう少しでミッドナスマインのエリアに到着する。


 王選の儀が原因で街に大量の魔獣が溢れ、母親が犠牲になった赤龍もヴァーロスが作った物だと知ってしまった。

 シグヴァールの内心はきっと割り切れない気持ちがあふれているに違いないと思う。

 たらればを言っても仕方がないが、俺が遠因の一つで間違えないのだ。

 何か気の利いた言葉を探すが、言葉が浮かんでは何か間違えだらけのパズルを解いている様な気分になる。


「お母さんはレッドドラゴンにやられたと言っていたわ。 今の話に出てくる赤龍の事かしら?」


「……たぶん。知ってる限り赤い龍は1匹だけだにゃ」


「そっか。」


「その時の事を覚えてないのかにゃん?」


「私はお母さんの研究室で気を失ってたみたいなの。あとその周辺の記憶がぽっかりと抜け落ちているわ」


「カッルフッドさんはどうしてたにゃ?」


「お父さんは鉱山に護衛で行っていて、すぐ還って来たけどもう全てが終わった後だったそうよ」


「……うーん。俺が言うべきことでは無いかもしれないけど、すまなかったにゃ」


「ミカエルは何も悪く無いでしょ。それにレッドドラゴンを倒してくれたのはミカエルとエリザベッタさんだったのね」


「そうだにゃ、エリザベッタがいなかったら厳しい戦いだったとおもうにゃん」


「あ、……王選の儀はミカエルが勝ったのに、何でエリザベッタさんが王になったの?」


「続きはまた明日話すにゃん。今日は遅いから休めるところを探して野宿の準備をしようにゃ」


「はい、じゃあ落石の心配のないひらけた場所を探しましょう!」



 俺たちはもうしばらく進んだところに程よい丘を見つけたのでそこで夜を過ごす事にしたのだった。


 

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