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第29話 王選の儀5

今年に入って忙しくなんとか書き上げました。

応援してくれたら励みになります。


 女神像が放った黒い球体にエリザベッタは包まれ、中に閉じ込められてしまった。

 中の様子は見えないし、無事かどうかも分からない。

 よく考えてみると、ムラヤニドの動きは不自然だった。

 おそらくわざとあの女神像の近くに誘導されたのだ。


「くっくっく……」

 女神像の後ろの柱から男の声がする。

 透明のカーテンが剥がれると男がが出てきた。

 俺たちのクラスの元担任、ヴァーロス・ハブビルだ。


「待っていたよヘリオス君。私の一族は代々この国の王を歴任している家系で、この王選の儀に関して君よりも一日の長があるのだよ」

 ヴァーロスはそう言ってムラヤニドの肩を抱き寄せた。

 ムラヤニドはトロンとした表情をしてヴァーロスを見つめている。

「彼女は私の協力者で時期王妃となる予定だよ」

 ヴァーロスはニヤリとして話を続けた。

「こうなったら2対1だ。さすがの君でも勝ち目は無い。勝負を降りてもらえないだろうか?」


「冗談だろ?」

 俺はそう言って魔力を練った。


「まあそうなるよな」

 ヴァーロスはムラヤニドを抱くのをやめて、髪をかき上げる。


 ムラヤニドも戦闘体制に入る。


 俺は左手で闇の執事を作り迎撃体制をとった。


 先制はムラヤニドだった。

 水滴を大量に大気に放出して、冷気を纏わせる。

 水の粒は大量の氷の矢となって俺に降り注ぐ。


 闇の壁を作り全て受けるが、表面に氷が張り付いて視界が悪い。

 そこに円錐状の黒い槍が数本飛んできた。

 俺の闇の壁は音を立てて割れた。


 視界が開けた先には、驚いた事に巨大なムカデが数匹、ズルズルと音を立てて俺に襲いかかる。


「すまない、2対1と言ったがあれは嘘だ。私の専門は魔獣召喚なのだよ!」

 ヴァーロスは召喚魔法陣が描かれた土の板に魔力を込めるとさらに巨大ムカデが現れた。


 巨大ムカデは地面を気持ち悪いくらいのスピードで這い、獲物を見つけた猛禽類の様な速さで俺に襲いかかる。

 闇の壁を出し攻撃を防いでも、巨大な顎で挟まれ空中に飛ばされてしまう。

 そこを狙いすましたかのようにヴァーロスの闇術の槍が俺の防御壁を壊しにくる。


 ……このままではジリ貧、そう思い俺は蜃気楼の透明なカーテン「不可視の衣」を纏い距離を取る。

 しかしヴァーロスの石礫、ムラヤニドの猛吹雪という全体攻撃を受け、すぐに居場所がバレてしまう。


 闇の壁を大きく展開して、猛吹雪を防いだ隙に闇の執事を作る。

 それを妖術のミラージュで分身体を作り、2体、4体、8体と展開させる。

 それぞれ防御壁と闇の剣で個別に足止めを狙う。

 俺の闇の執事は自律魔導兵としては最高の戦闘力を誇り、消費魔力も相当だ。


 ヴァーロスも負けじと魔獣を召喚する。

 吸血蝙蝠にリッチ、ドラゴンゾンビが新たに召喚された。

 それにしても気持ち悪い魔獣ばかり召喚しやがる。


 俺のサーバントは闇の剣を手に魔獣達を確実に仕留めて行く。

 なんの躊躇もなく、澱みない動きで確実に標的を屠って行く様は見事としか言いようがない。

 しかし厄介なのはヴァーロスとムラヤニドだ。

 距離をとっての遠距離魔法攻撃は嫌がらせとしては十二分に効果的で、ヴァーロスの魔獣を召喚をしながら奥の手を隠している不気味さも一歩踏み込むのを躊躇させる。


 まずはムラヤニドを追い詰める!

 左手で魔力を練り、紫色のオーラを練り上げ向日葵の様な可愛い女の子を作った。

「アリーナ」と名付けた太陽の化身は大きく息を吐くと、暖かな熱風がフロアを包む。

 ムラヤニドの猛吹雪を押し返し無効化に成功した。


 ムラヤニドは水蒸気を集め、天井付近で大きな氷の塊を作る。

 落盤事故さながらの巨大な質量を持った氷の塊が俺の頭上に降って来る。

 ヴァーロスが召喚した魔獣や俺のサーバントもろとも押し潰すつもりだ。


 俺は一気にムラヤニドめがけて走る。

 流石に本人の場所は氷の落ちてこない安全地帯のはずだ。

 太陽の化身も一緒にムラヤニドの付近に距離を詰めて再び熱風を吐く。

 氷が若干溶けて水滴が天井から落ちてくる。

 そして氷がついに落ちてきた。

 まるで獣を駆除する無慈悲な罠の様な一撃は俺には当たらず、サーバント達にもさほど被害はなかった。


 ムラヤニドが距離を取ろうと、動こうとするが動かない!

 ムラヤニドから伸びた影が俺の足元まで伸びている。

 影に忍ばせ放ったダークバインドが足首を掴んでいた!

 次々に襲う無数の手にムラヤニドは気を失った。


 ヴァーロスは不機嫌そうな表情で

「勝手に動きやがって!」

 などとブツクサ言っている。

 冷静だった男にも若干の焦燥が見える。


 ヴァーロスは召喚魔法陣付きの土板を再度展開した。

 さっきの魔獣達は氷の下敷きになってしまったからだ。

 俺のサーバントの残りは3体、相手にするのは若干きついかもしれない。


 空中に放ったヴァーロスの黒い球を合図に一斉攻撃が始まった。

 召喚された魔獣はコボルトという獣人とドラゴンフライという大型の昆虫が群れで現れた。

 黒い球は分裂して鋭い針の様な形状に変化して一斉に俺めがけて飛んでくる。

 栗のイガが自分の意思を持った様に。

 俺の闇の壁に刺さった針は確実に障壁を破壊して突破して来る。

 まるで対闇術用に特化した魔術みたいに闇の壁の壊れた隙間を狙って。

 追撃を狙い魔獣達が襲いかかる。

 サーバントが対応しているが、なんせ数が多い。

 劣勢に立った俺の手元には妖術で作った「鎌鼬」が大きく背伸びをしていた。


 鎌鼬が作った真空刃が次々にドラゴンフライを撃ち堕としていく。

 サーバントがコボルトを熟練のアサシンの様な動きで屠ると、俺は一気にヴァーロスへ距離を詰めた!


 闇術の魔力を凝縮して弾丸の様に「闇弾丸(ダークバレット)」を放つ。

 ヴァーロスの障壁を貫通してみぞおち付近を直撃したが、土術の金属プレートに当たりフロアに壊れた鐘の様な耳障りな音が響き渡る。


 わずかだがヴァーロスの口元が笑っている様に見えた……


 ……違和感!!


 そう、フロアの奥にいたはずの女神像がすぐ俺の後ろにいた。

 女神像の目が怪しく赤い光を放つ。


 大きい黒い球体が俺に向けて放たれる。

 エリザベッタを拘束したこの術はおそらく回避不能のチート級!!

 そして女神像はヴァーロスの作り出した魔導兵なのだろう。


「リフレクションズ!!!」

 俺の体を包む紫のオーラが黒い球体を受け止め、さらに大きな黒い球体となってヴァーロスに向けて発射された。


 

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