第28話 王選の儀4
先に進む魔法陣で転移すると、炎と氷のマークがついた分かれ道があり、俺は氷の方を選んだ。
奥にはさらに転移魔法陣があり、着いた先は息が凍るほど冷えたフロアだった。
宮廷魔術師の服を着た女が先に着いていて、こちらに一瞥をして魔力を練る。
確かキグナスという名前だった。王宮官僚の娘だというのを聞いた気がする。
礼儀正しい人だなあと感心したが、油断大敵である。
俺が魔力を込めると、奥の方から白い狼の群れが現れた。
どうやら魔力に反応して召喚だか転移だかしてる様だ。
魔獣たちもこのようなところに呼び出されて迷惑に違いない。
狼は毛先に霜が付いており、それで白い狼に見えた様だ。
「ぐるるる……」と喉を鳴らしながらゆっくり距離を詰めてくる。
これまでの傾向ならば炎の魔術が特効でありそうだが、どうだろう。
狼たちが咆哮すると、体感気温が一気に下がり冷たい風が俺たちを包む。
フロアの水蒸気が一気に凍り、ライトボールに照らされキラキラとしている。
口を開けると粘膜が凍ってしまいそうだ。
このままだと魔力変換が使えなくなってしまう。
ふとキグナスを見ると、全身が氷漬けになっている。
もうやられてしまったと思ったが、氷の人形は動き出す。
床の上を滑る様に狼に向けて突撃すると、腕から生えた鋭い槍を突き刺す。
分厚い毛皮に阻まれたと思ったら、槍の当たった辺りから狼は凍って行く。
キグナスはさらに強い冷気を体に纏って、狼を凍らせたのだった。
フロアの気温がどんどん下がる!
キグナスは狼の冷気を利用して力を増幅している。
さすがにこのままではまずいと思い、妖術の魔力を練り大きな紫のオーラをだす。
オーラは次第に凝縮して1匹の大きな妖狐を作った。
俺は妖狐の背中に乗り、ポンと首を優しく叩くと狐は口から蒼白い焔を吐く。
狐の周りだけ温度が上昇して、空気が揺らめき視界が歪んだ。
「行け!!」
俺がそう命じると、妖狐は風を纏い狼の群れに突進した。
1体また1体と、鋭い爪で狼を屠って行く。
最後の1体を切り裂くと同時に、キグナスが氷の魔獣の様な姿で突っ込んでくる。
妖狐は氷の槍を爪でいなすと、本体を牙で噛み砕こうとしたが、妖狐の動きが止まった。
地面の方からとてつもない冷気が妖狐を襲い、あっという間に凍りついてしまった。
「終わりね……」
キグナスが歩き出すと、妖狐が砕け散る!!
おかしい、砕けるほどの魔力は込めていない。
ヘリオスが死んでしまっては失格になってしまう。
キグナスが慌てて振り返ると、足元から無数の黒い手が襲い、彼女は地面に縛り付けられた。
空間に現れた透明なカーテンの中に俺と妖狐は居た。
戦っていた妖狐と俺は蜃気楼で作られた分身だ。
闇術で縛り付けられ意識を失ったキグナスに俺は
「妖術は人を化かすんだぜ……」
そう言って次のフロアに進む魔法陣に乗った。
次のフロアは魔法陣を出ると大きな扉があり、扉に魔力を込めると人が入れる位開いた。
俺が扉に入るとまたゆっくりと閉じた。
フロアは大きな神殿の様な作りになっていて天井が高い。
もう既に先客がいて、激しく衝撃音が響いていた。
片方は金属の剣を2本両手に持ち、土術で足場を空中に作りながら相手を圧倒している。
そう、間違えなくエリザベッタだ。
相手は魔術学校で先生だった、ムラヤニド・ビタール。
氷の魔導兵を次々に作り物量で対抗しているが、正直言えば時間の問題だろう。
勝負が終わったらエリザベッタとの本気の戦いを楽しみたいなどと考えて、俺は余裕の高みの見物をする事にしたのだ。
フロアの奥には大きな女神像があった。
女神像は黒曜石の様な光沢のある素材で出来ており、胸の前で手を組み祈る様なポーズをしている。
荘厳な雰囲気でいかにも最終フロアの雰囲気がある。
俺はエリザベッタが負けるはずが無いと思い、実を言うと相当気が緩んでいた。
本来この違和感に気付かなくていけなかったのだ。
エリザベッタがムラヤニドをフロアの奥に押し込んだ。
土の壁を作り彼女を捉えようとしたその時、女神像が放った黒い大きな球がエリザベッタを包み込み飲み込んだのだった!!
今回登場した魔獣は『雪狼』です
フェンリルの下位互換くらいだと思っててください。
作品を読んでいただいてありがとうございます。
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