第22話 魔術戦実習3
エリザベッタが床に叩き落とされた。
俺は思わず飛び出したがムラヤニドの氷の壁に阻まれて、拘束された。
「落ち着けヘリオス、勝負はまだ付いてはいない」
ムラヤニドにそう言われてエリザベッタの方を見ると、彼女はゆっくりと起き上がった。
しかし頭から流血していて、表情は暗い。
「完全に死角からの一撃だったのに防御壁に阻まれた。ゴーレムの時も思ったが防御壁に完全自動を付加しているのか?」
ロビンは完全に見下した様な表情でニヤけながら言った。
してやったりの一撃だったのだろう。脳内麻薬で満たされて今にも絶頂を迎えそうな表情をしてる。
「たしかに攻撃は防いだはずだけど?防御壁を破って貫通してきた。その鎚に秘密があるのね?」
エリザベッタはボソボソと呟く。
「まあ、わかったところで防ぎようが無いわ」
ロビンはエリザベッタに襲いかかる。
エリザベッタは一瞬で剣を生成して、ロビンを迎え撃つ。
1合、鎚と剣が打つかると、剣が砕けた。
咄嗟に防御壁を張るが、それも一撃で壊された。
ロビンの鎚がエリザベッタの右脇腹を捉える。
エリザベッタは吹き飛ばされ地面に転がる。
後で知ったのだが、『ゴヴニュの鎚』と名付けられたこの魔法鎚は、土や金属で作られた物の形を変えたり破壊したりする事が出来るらしい。
つまりエリザベッタとは相性最悪のロビンのとっておきだった。
エリザベッタは半円状の黒いドームを出して自身を覆った。
これは旅の時に使った、カーボン状のコテージで強度はダイヤモンド並だ。
ロビンが号令をかけると、ガメゴッキが大火球で攻撃した。
黒いドームは燃えているが形は保っている。
続いてクンフィスカが水術で水を大量に放水したところに、コープの聖術で身体強化したロビンが突っ込む。
黒いドームにヒビが入り砕け散った。
うずくまるエリザベッタを4人が取り囲む。
「くっくく、いいざまね。さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」
ロビンはそう言いながらエリザベッタに滲みよった。
鎚を右肩に乗せエリザベッタを見下している。
その時……エリザベッタの近くの床から4体の金色に輝く人形が現れた。
床から生えてきたように見えるが、実際はエリザベッタの周りに充満させた魔力から生まれてきたのだった。
身長は1メートルくらい。頭はツルッとしていて、手足は短く子供の様な体型だ。
みんなの意識が、集中力が途切れた……次の瞬間、ロビンは人形に殴り飛ばされていた。
次はガメゴッキが蹴り飛ばされて、壁まで吹っ飛ばされた。
クンフィスカは距離を取るために水術で逃げる。
事態が飲み込めないコープは人形に喉を抑えられて、訳がわからないままに制圧させられた。
エリザベッタはドームで隠れている間に4体のゴーレムを作っていたのだ。
このゴーレムはフィレンツェの街で建築作業の仕事をする時にエリザベッタが使役していたが、今回作り上げたものは強度も行動も違う。
4体に複雑な命令を付与し、最高硬度の金属で作られていた。
ゴーレムは自律して動き、それぞれの相手に向かって行く。
体勢を立て直したガメゴッキはフレイムウイップで、拘束しようとするが全く効かず、すぐに制圧された。
クンフィスカは距離を取りながら攻撃をする。
流石に対人戦には遠慮していた、強酸による攻撃をするが一切溶けることない。
首を掴まれクンフィスカも制圧された。
ロビンの対土術用の鎚も当たらなければ意味がない。
身体強化されていても、体術で遥かに劣るロビンはなす術なく床に押さえつけられた。
ゴーレムを一体作るだけでも大変な魔力と精神力がいる。
エリザベッタは同時に4体、しかも敵を制圧して身柄を拘束するという高度な術式を組み込んでいた。
この結果にはムラヤニドも驚きを隠せないで、何やらぶつぶつ言っていた。
エリザベッタはロビンに近づく。
「残念だったわね。そういえば、痛覚があるのを後悔させるんだっけ?」
「ちょ……ちょっと、何する気?」
ロビンは足をバタバタさせているがゴーレムはびくともしない。
「この部屋の魔法陣はすごいわ。私の傷はもう治ってしまった。頭を叩き割っても治るのかしら?」
エリザベッタは剣を生成して振り上げる!
「や、やめて。ごめんなさいごめんなさい、お願いだから許して!」
青ざめた顔で早口で捲し立てる。
「やめろっ、もう終わりだ」
ムラヤニドが慌てて止めに入る。
ガキンッ!!
エリザベッタの剣が振り下ろされた。
……ロビンの髪の毛を削げ落とし、耳の一部を切り飛ばした。
ロビンは白目を剥いて気絶している。
じんわり床が濡れてきている。
どうやらあまりの恐怖で失禁してしまったらしい。
ムラヤニドが駆けつけた時には、ロビンの傷はもう治っていたが、誰の目にも明らかなほど水たまりは床に広がっていた。
「エリザベッタ、実習はもう終わりだ。ゴーレムを解いてくれ」
ムラヤニドが力無く言う。
思わぬ結果にみんな唖然としていた。
ゴーレムが解かれ、砂となって消えていった。
俺はエリザベッタに駆け寄ったが、なんて言葉をかけていいか分からなかったよ。
口籠もっていると、エリザベッタは俺にとびきりの笑顔を見せたんだ。
「私達の番は終わったわ。邪魔にならない様に端っこに行こう」
そう言っておれの袖を引っ張って行った。
次の組み合わせの魔術戦が始まったが、とてもじゃないが身が入らない様子だ。
コープやガメゴッキも落ち込んで項垂れていた。
まるで彼らだけ違う重力の空間にいる様な、そのまま地面にめり込んでいきそうだった。
クンフィスカはバツの悪そうな表情をしながら、ロビンを介抱している。
こうして魔術戦の授業は終わった。
そして次の日の朝、学校長に呼び出されたのだった。
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