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第20話 魔術戦実習1

回想編は佳境に入りますが、私の筆が遅いです。

ヘリオスの回想だとエリザベッタは無口で寡黙な印象になってしまいますが、私の中のイメージは明るくて誰からも愛されるようなヒロインです。

 

 入学が決まって俺たちは王都の郊外に小さい家を借りる事にした。

 特に家賃も高くはなく、空いた時間に仕事をすれば問題ないという判断だ。

 必要最低限の家具だけ揃えて、王都での生活が始まった。


 王都は国の施設や行政府などが王城を中心に並んでおり、ミッドナスマインの様な賑やかさは無い。

 しかし整った街並は美しく、抜ける様な青空がよく似合うと思った。


 学校のクラスは、新入生が約半数の16人のクラスだった。

 クラスメイトは地方出身者は少なく、王都の職員の子女がほとんどだった。

 みんな、最初は親切に接してくれたが、次第に俺たち2人は孤立していった。


 俺たちの担当の教師はエリートを鼻にかけた、嫌味な男でヴァーロス・ハブビルといい、王を何人も輩出した名家の出身だった。

 授業の度に何かと地方出身で孤児である俺たちの事を嘲る様な事を言ったり、嫌味たらしい言動が多く正直言って腹立たしいやつだったのだ。


 クラスメイトで火術使いのガメコッキは直情型の性格で、そんな教師の言動から俺たちを庇ってくれたりしていたのだが、それは正義感で無くエリザベッタへの下心からだった。

 輪にかけて厄介なやつがいて、聖術使いのコープ。こいつは少し年上の男でナルシストだった。本気かどうかは知らないが、何かとエリザベッタにちょっかいを出していた。

 俺は基本的にノータッチだったし、エリザベッタも上手い事あしらっていたと思う。


 そんな中、1ヶ月もしないうちにエリザベッタへの嫌がらせが始まったんだ。

 最初は持ち物が無くなったりする程度だった。

 次第にエスカレートしていき、ヘリオスと出来てるのに他の男に色目を使う淫売だの、学校に通う為にいかがわしい仕事をしてるだの噂を立てられ、次第に教師たちもその噂を信じる様になった。


 ヴァーロスは教師でありながら、授業中に下品な言葉でエリザベッタの事を罵る様になり、クラスメイトはそれを聞いて嘲笑した。

 正直言って我慢ならなかったが、エリザベッタは「何もするな」と言って俺が何かをする事を許さなかったんだ。

 嫌がらせの中心は1人の女生徒だったんだ。

『ロビン・シベリスク』はクラスで中心となる存在で、次期王選の儀での最有力候補とも言われ、学校の生徒だけで無く先生達からも一目置かれていた。

 エリザベッタと同じ土術使いで、かなり高度の魔術と豊富な知識と魔力量を持っていた。

 彼女の親も現女王『シャーロット・フレデリク』の側近で魔術士として重鎮だった。

 そしてあろう事か女たらしのナルシスト、コープに惚れていて、彼の女癖の悪さに振り回されていたんだ。

 ここまでくれば分かると思うが、女の嫉妬心を猛烈に燃やして、この学校から追い出してやろうとなりふり構わず攻撃して来たというのがこの嫌がらせの原因だった。

 そしてタチの悪いことに彼女にはその政治力があったのだ。


「なにもするな」というエリザベッタの判断は正しい。

 もうすでに生徒も教師も俺たちの味方はいなかった。

 それどころか俺にまで懐柔戦略をしてくる様な厚顔無恥さには辟易とした気分になった。


 もういっそ、学校を辞めてしまおうか。俺はエリザベッタに何度も言った。

 2人ならどこでも生きていけるから、こんなくだらない場所から離れようと。

 しかし彼女は首を振った。

「せっかくたどり着いた場所なんだから、頑張ろう。たとえみんなに嫌われていても魔術については学べる」と言った。

「しかし、エリザベッタが傷つくのを見ていられない」と俺が言うと

「大丈夫。ヘリオスはずっと私の事を守ってくれているから」

 と言った


 正直、何もしてない。あえて言うなら何もするなと言うのを忠実に守っただけだ。

 しかしエリザベッタの望みが学校を無事卒業して、より多くの知識を得る事ならば下手に騒ぎを起こすよりは良いのかもしれないと思ったのは間違いなく本心だった。


 〜〜〜〜〜


「うー何それ! 聞いてるだけでもかなりムカつくわね。今からそんな学校に行くとなると不安だわ」


「うん、俺も話してて思い出して腹が立って来たにゃ」


「それで、そのイジメみたいなのは続くの?」


「そうだにゃ、ある出来事から嫌がらせは無くなったにゃ。それがきっかけとなって俺たちにとって、かけがえのない時間を得る事ができたんだ」


 〜〜〜〜〜


 学校の授業には色々な種類があって、物理や歴史、数学に心理学と多岐にわたっていたが、魔術を使った魔術戦というものもあった。

 卒業後、ハンターや冒険者などになる生徒もいるし、戦う事で得られる魔術のコントロールは貴重な経験となるからだ。

 学校内には魔術戦専用の小ホールがあり、壁には魔法障壁が張られており、床には王の加護という部屋で負った怪我などがすぐに治る特別な魔法陣が描かれている。


 授業はムラヤニド・ビタールという若い女性教師が講師となって行われていた。

 ある日、先生がパーティ戦を行うと言った。複数のグループを作っての集団戦だ。

 パーティ編成は任意で募ったので、当然俺たちは2人のパーティしかできなかった。

 目的ははっきりしていて、俺たちへの嫌がらせ以外に考えられない。


 ムラヤニドはニヤけた笑みを浮かべながらこう言った。

「なんだお前ら随分と仲が良いな。たった2人で大丈夫なのか?」


 俺は正直言って怒りで気分が悪くなっていた。

 視界が狭くなり、平衡感覚が失われて、今にも吐きそうな気分だったよ。

 しかしエリザベッタは違った。笑みを浮かべながらこう言った。

「もちろん大丈夫です。なんなら私1人でも良いくらいです」


 ムラヤニドは眉毛をピクリと動かし言った。

「ほう、それは剛気だな。良しそれならば1人でやってもらおう」

 続けて

「相手はそうだな……ロビン、コープ、ガメゴッキ、クンフィスカのチームにやってもらおう。異論は無いな?」


『始めから決めていたのにわざとらしい』と思い、吐き気を抑え加勢したいと言おうとすると、エリザベッタは首を横に振りこう言った。

「大丈夫だから、ヘリオスは休んでて」


 ロビン・シベリスクは顔を紅潮させ、鼻を鳴らした。

「……本当に生意気な女ね」

 ロビンが小さな声で呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


 こうして波乱の魔術戦の授業が始まった。

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