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第2話 ホードゥが家に来た

 

 イエネコになってから一週間ほどたった。


 俺は『ミカエル』という名をいただいた。どうやら俺は三毛猫だったらしく、ミケ→マイク→ミカエルということらしい。生まれてから自分の全身の姿を見たことがないので、三毛猫だと気づかなかった。

 俺はオスなのだが、確か相当珍しいはずだ。前世の世界が今の世界と同一であればの話だけど。

 しかし思ったような反応がない。この世界では珍しくも何ともないかもしれないし、ご主人様が無頓着か知らないという可能性も否定できない。


 さて、この家は城壁の中の街にはなく、水路を畑に流す水門のそばにあった。

 俺の他の家族は、50歳前後の白髪まじりの男が1人。ご主人様からは『おじさん』と呼ばれているので父親ではないようだ。

 優しそうと言えば良いが、気の弱そうな男で、この前も農地の持ち主らしい肥った男にヘコヘコしていた。


 ご主人の仕事は、魔物から農作物や家畜を守るのが仕事らしい。いわゆるハンターだ。

 この国の広大な農地を全て請け負っている訳ではなく、各地主に数名雇われている。農夫や流通させる人も同様に雇われていて、昼間に数名、仕事でこの家を訪ねてくる人もいた。

 最近は小鬼の様なモンスターが作物を食い荒らすことが増えているそうで、昨日も芋を喰われたと農夫が話していた。

 俺の母猫や兄弟を襲ったのもそいつらだろうか?流れの早い水路を登らなくては街には入れないので、小鬼では街に入れないはず。どこか違うルートなどがあるのかもしれない。

 農作物を運ぶ人達は街の入り口から運ぶらしい。城郭を流れる水路をわたる橋があり、そこに関所があり、城郭の門を通り街に入る。


 一番の楽しみは食事の時間だ。今日の晩飯はご主人様達は魚を干したものを野菜と煮込んだスープと薄く焼いたパンを食べている。食べ物は現地調達のものが多いらしく、野菜を豊富に使っている。トマトとニンニクが入ってるらしく小屋中にいい匂いが漂っている。

 俺のゴハンはヤギのミルクを沸かして冷ましたものと、出汁を取って柔らかくなった川魚をほぐした物だ。マスの子供なのか?実に味わい深い。噛めば噛むほど味が出てくる。


 食事が終わると「おじさん」は農地の見回りにランタンと杖を持って出掛けていった。夜の見回りはおじさんが担当している様だ。おじさんは魔術師なのかな?


 これでご主人様と2人っきり、遊んでくれても良いんだにゃ。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ご主人様と遊んでいると玄関をノックする音がした。どうやら来客の様だ。


「ホードゥだ」扉の外で男は言った。地主の息子でご主人様たちの雇い主でもある。2〜3日前にも農夫達と一緒にいる所を作業場で見かけた。

 

 ご主人はドアを開けると「こんばんは、何かあった?」と言って左手で「さあどうぞ」というジェスチャーをした。男はご主人様より一回り大きい巨漢で、腰には剣を差していた。歳は20代前半という感じだろうか。

 ドシンドシンと音を立てながら無遠慮にテーブルの方に歩くと、俺の存在に気付いた様で「これが噂の三毛猫か」などと言って近づいてきた。


「シャアァァァ」俺は威嚇した。特に怖い訳でもないが気に入らない。もう一度「シャア」だ。


「おっと、ごめんごめん」男は両手を軽く上げ後退りすると、椅子に座った。

 

 この男ご主人様とのスイートタイムを邪魔しやがって、魔法で作った爪で頭をスイカの様に割ってやろうか。


「この前、街に納品しにいったついでにパウンドケーキを買ってきた、食べてくれ」男はそう言うと紙袋を机に置いた。


「ありがとう、ここのパウンドケーキは大好物なの。それで用事は?」


「なんだい?用がなければシグに会いにきてはいけないのかい?」


「いえ、そう言う意味では…...」


「ははは、冗談だよ」男はそう言うと机の上で手を組んで続けた。


「魔物が増えているらしいな?」


「そうなの、まだ被害は大したことないのだけど、広範囲で被害が出ているの。今は叔父さんが見回りに行ってるわ」


「最近、街の方でも出ているらしい、君の親父殿が対処に尽力してくれてるそうだ。」


「そう……」ご主人様の顔が陰りを見せる。お父さんと何かあったのだろうか?


 男は眉間に皺を寄せて、少し申し訳なさそうな表情で「まだ魔術学校は諦められないのかい?」


「……ええ」


「それで、魔術の方は使える様になったのかい?」


「まだ……ダメみたい」


 なんと、ご主人様は魔法が使えない! 魔力の大なり小なりはあってもほとんどの人は魔法を使える。魔力を何かの力に変換するのが魔法で、より強力に応用したものを魔術と呼んでいる。

 例えば、魔力を燃える物質に変えて火を放つのが魔法。魔力を一点に留め炎を作り鍋の湯を沸かすのが魔術だ。つまりご主人は魔力を何かに変換することができていない。これは精神的な問題の可能性の場合があり、一生使えない場合もある。火傷を負った子供が火魔術を使えない様に。そして適正というのは変えることができない。その人が持っている魂の色みたいなものなのだ。


「それならば親父殿が言うことも理解できるがね」

 ホードゥは真剣な顔をして言った。


「それはそうだけど、叔父さんも魔術は得意だし、何よりも母の母校でもあるのよ」

 伏せ目がちに苛立ちを隠している様に見えた。自分への怒りか? 聞かれたくないことをズケズケと聞かれたからか?

 重い沈黙が訪れる。誰か時間の経過が遅くなる魔術でも使ったのか?


 ご主人様が先に口を開いた。「もうこの話はやめましょう、話はこれだけ?もうすぐ叔父さんが帰ってくるわ」


「あ、ああ。そうだな、すまなかった。今度親父殿と魔物の討伐について相談する事になりそうだ。もちろん討伐には俺も参加する予定だ」


「わかったわ、何か決まったらまた教えて」


「ああ」そう言うと男は立ち上がった。少し残念そうな表情である。


 

 このあと、ご主人様は遊んでくれなかったにゃ。


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