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第19話 王都に到着

 

 その日の夜はこの旅で初めての野宿となった。


 街道沿いにある、簡易宿泊施設は先客がいて、あまり安全ではなさそうだったのでトラブル予防の為回避した。

 簡易的なテントと寝袋は持ってきたのだが、どこからともなく沸いてくる虫にあまり睡眠は取れなかった。

 そこで早めに出発して、ハイデルへの到着を今日中に強行する事にした。

 なんのトラブルもなければ、日が落ちる前には到着する予定だ。


 魔術の訓練も続行中である。

 シグヴァールはタンポポの綿毛程の魔力を手の中に作り、ポイと投げる事が出来るようになって来た。


「ねえ、見て!できる様になって来たよ」


「じゃあ、もう少し大きい塊を作れる様に魔力の流れを制御してくれにゃん」


 もう少し大きい塊が投げれる様になったら、次は魔力の硬度と形を変化するのをやってもらう予定だ。


「じゃあ、昨日の続きを話すにゃん」


「待ってました!」

 シグヴァールはパチパチと手を叩いた。


 〜〜〜〜〜

 前回はミッドナスマインが素晴らしく発展した街だというところまでだったけれども、俺たちは結局3泊ほどした。

 楽しかったのはもちろんだけど、良い休養になった。

 これからは王の台地を登る過酷な山道が続く。

 後ろ髪を惹かれる思いを振り切って、早朝に出発した。


 シグヴァールもこれから通るのだけれども、ミッドナスマインからの道は山間の谷を登って行く。

 街道は整備されていなく、大きな岩がその辺でゴロゴロしている。もちろん落石の危険は常にあるし、雨が降れば鉄砲水や土石流の可能性もある。

 要するに天然の要害となっているのだ。

 まあ、それは生身の人間であるからであって、この国の人間はほぼ全ての人が魔法が使えるのだ。

 エリザベッタの土術は非常に有効に働いて、足場のない崖に階段を付けたり、岩を削ってショートカットすることが出来た。

 俺たちも危険な事は何もなく10日ほどの日程で王都に辿り着いた。


 山道を抜けると眼下に王都の姿が現れる。

 王都の西側には田園が広がっており、新緑の初々しい草が風になびいて美しい波を作っている。

 王都サクラルーメンは中心にシンメトリーデザインの王城が鎮座していて、そこを中心として色んな建物が放射線状に並んでいる。

 建物の屋根や壁の色は統一感が無く、緑や青や赤などとってもカラフルで不思議な風景だった。

 街自体はそこまで巨大では無く、フィレンツェと同規模くらいの人口だろうと想像できた。


 俺たちは宿や下宿になんの伝手もなかったので、取り敢えず王立魔術学校を訪ねてみることにした。

 入学試験は常に受け付けていて、年に2回編入されると聞いている。

 願書を出して試験日までの間は短期で宿泊して、受かった時に下宿なり家を探せば良いだろうという予定だ。


 道をゆく行商人風のおじさんに魔術学校の場所を聞くと、王城の側の南東区のあると教えてくれた。

 王都は王城を中心に円形の構造をしているので、区画が8つに分かれている。


 王城へのメインストリートは広く、タイルが引き詰められ綺麗に舗装されている。

 観光客か巡礼者かはわからないけど、人通りは多い。

 王城付近は混雑していた。これは王城にて難病や怪我の治療も行われてるためだ。


 王城すぐそばまで来ると魔術学校を見つけることが出来た。赤い煉瓦作りの建物だった。

 門には守衛が立っていたので、編入願書を出したい旨を伝えると事務局まで案内してくれた。

 事務局にて必要な手続きを済ます。試験は3日後の午後3時から行われると告げられ、開始30分前位に事務局に来るようにと言われた。

 俺たちは学校のそばに良い宿屋や、学校の寮の様なものは無いか聞いてみた。

 残念ながら寮は無いが、治療などで王城に来る人々の為に宿屋は沢山あるので、試験日まではそこに泊まるのが良いと教えてもらった。

 確かに王城の周りには宿屋が多くあって、にぎわいをみせていた。

 少し歩いて探索してみたが、結局学校のそばにある南東区の宿屋に決めた。

 すぐ試験なら良いが、3日後と言われると落ち着かない。

 街を歩いてもソワソワして楽しめないので、結局宿屋に篭りっきりで3日過ごした。


 そして編入試験の日がやって来た。

 学校に入ると、授業が終わった生徒たちが歩いていた。制服を着てとても優秀そうに見える。

 試験は授業が終わった誰もいない教室から始まった

 まずは簡単な筆記のテストだ。

 一般的な学力と魔術についての問題だった。シグヴァールでも問題ないと思う。

 次に実技の試験があった。

 まあ、これも俺たちにとっては容易かった。

 魔力総量と魔術の正確性を見るだけのテストだったと思う。

 その後、校長先生のアン・ジェームス先生と女王陛下のシャーロット・フレデリク陛下との面接があった。

 実はここが一番キツかった。何より緊張してしまって何を答えているかよく分からなかったよ。

 エリザベッタはスラスラと淀みなく答えていた。

 まるで寸劇の一部を観ている様な気持ちになったよ。


 〜〜〜〜〜


「ふーん。私、試験大丈夫かしら?」


「まだ時間はあるし、きっと大丈夫だと思うにゃん」


「本当? それにしても女王陛下まで面接に来るなんてすごいわね」


「この国の魔術師育成の最高機関にゃん。分野は魔道具や合成術など多岐にわたるから、国を支える人材を育成する機関になってるにゃ」


「なるほどね、それで面接では何を聞かれたの?」


「そうだにゃ、将来魔術を使って何がしたいとか、そんな内容だったと思うにゃ」


「それでなんて答えたの?」


「俺は『人の役に立つ事をしたい』と、エリザベッタは『親の会社を再興して魔道具を作りたい』と答えてたにゃ」


「あははは、随分と対照的ね」


「頭が真っ白だったにゃん」


「で、2人とも受かったのよね?」


「にゃ、7月から始まる新学期に編入したにゃん」


「じゃあ次は学校の話ね!」


「そうだにゃ」


 〜〜〜〜〜


 学校が始まってしばらくすると俺たちの環境は良いといえないものになっていった。


 

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