第18話 初めて
俺たちは朝日が上ると起床して、チェックアウトした。
宿屋の食堂でパンを受け取って、街道を南西に向けて出発した。
今まで、左側に見えてた王の台地が右側に変わった。
王の台地は麓に豊かな森林を蓄えており、尾根は夏でも雪が溶けない。
ノコギリのような険しい岩山が長々と続いていてこちら側からは登山道はないのだ。
俺たちはこれから3日かけて交易都市ハンデルまで行く。
そこから山麓沿いに街道を行き、鉱山都市ミッドナスマインを経由して王都に入る予定だ。
俺は馬の上で朝食の煮干しを齧っている。
シグヴァールはパンを齧っている。
「めぇーミカエル、昨日のおふぁなしの続き聞かせてよ」
パンを食べながら喋るので、ところどころ聞き取れない。
「ご飯食べ終わったらのんびり話すにゃ。きょうも時間は沢山あるにゃあ」
この後、少し魔術の訓練と講義をした。
シグヴァールの聖術は、身体強化や付与はさほど訓練は必要ないのだが、魔力を体から離して使うことが難しい。
シグヴァールには、まず魔力の小さい球を手の中に作る事を出来るようになってもらう。
それから、その球を放り投げる事が出来るようになれば第一段階はクリアだ。
「じゃあ、そのまま練習を続けるにゃ。その間に昔話の続きをするにゃん」
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俺たちはフィレンツェの街を旅だった。確か春の暖かい日だったから、4月になっていたと思う。
フィレンツェの街は、グディナガーラッド王国の北西に位置していて王都とは直線距離では近い。
しかし王の台地の2000m級の山に阻まれ、王都に行くためにはミッドナスマインを経由しないと入れない。
フィレンツェの街からは街道が整備されている、街道には小さい街も宿屋もあったが、俺たちは基本的に野宿が多かった。
理由は3つ。第一にお金の節約、十分な路銀は持っていたが、この先いくらお金がかかるかわからない。
第二に俺たちは16歳になっていたが、2人とも見た目が幼く駆け落ちのように見えてしまうかもと心配したからだ。今考えると心配しすぎだった。
第三にエリザベッタの土術で、簡易的にコテージが作れたからだ。
夜になると街道沿いとはいえ、魔獣と戦闘になる事もあったが、はっきり言って相手にならなかった。
でも、結構楽しかったかな。
2週間位でミッドナスマインに着いた。
鉱山都市でもあり、王都への玄関になっている為に街は発展しており、初めて見る大都市に俺たちは驚いた。
旅の疲れを癒す為に初めて宿屋に泊まる事にしたんだ。
俺たちは長旅で服がボロボロだった。少々小綺麗にした方がいいんじゃ無いかという事で服を買いに行った。
そこでのエリザベッタのはしゃぎっぷりは今思い出しても可愛かった。
「これはどうかしら?」とか「ちょっと派手で変じゃ無い?」とか、それはもう楽しそうだった。
エリザベッタは何を着ても似合っていたよ。
長い黒い髪は美しい烏羽色で、肌は雪のように白く、睫毛は長く小さい鼻はツンと上を向いている。
きっとどんな服でも似合うのだろう。
俺たちは一着ずつ服を買って、お店で着替えさせてもらった。
それから街の中心部にある新しい建物の宿屋に泊まる事にした。少し緊張したけど何の問題もなくチェックイン出来た。
宿屋の近くのレストランで食事もした。なんの変哲もない料理だったけど、今まで食べたどんな料理よりも美味しく感じた。エリザベッタはゆっくりと噛み締めるように食べていたよ。
街を歩いてみたけれども、何もかもが新鮮で刺激的でまるで異世界に迷い込んだような気持ちになったのを覚えている。
エリザベッタの事を女性として意識したのがその時が初めてだった。
〜〜〜〜〜
「え、ちょっと待って! もしかして恋人だったの、女王陛下と?」
「うーん、これは複雑な事情が絡んでくるのだけど、はっきり言えば恋人同士にはならなかったにゃ」
「なんか含みのある言い方ね。で、キスはしたの?」
「にゃにゃ、興味津々だにゃ。ミッドナスマインでは何にもなかったにゃあ」
「ふーん。ミッドナスマインは私の生まれ故郷よ。どっかですれ違ってるかもね」
「ちょうどこの時は王国歴311年にゃ、シグヴァールはにゃん歳だったにゃ?」
「今が324年だから5歳位ね」
「シグヴァールは18歳にゃったのか!」
「あははは、それはどうゆう意味よ」
「もっと大人かと思ってたにゃ」
「……まあ良いわ。で、女王陛下のどんな所に惹かれたの?」
「惹かれたというか、俺たちはずっと一緒にいたし、兄妹のようでもあり、同志でもあったにゃ。でもよく見たらただの綺麗な女の子で、その辺の年頃の女の子となんら変わり無い事に気づいたという感じかにゃあ」
「それが恋心? ストレートに好きとかそういう感情ではなくて?」
「そうだにゃ、特殊な関係性から普通の思春期の男女に戻ったと言った方が正確かもだにゃ」
「そっか。じゃあ発展するのはもう少し先なのかな?」
「うむ、乞うご期待だにゃ」
「楽しみね。お昼も近づいて来たから少し休憩しましょう」
シグヴァールは近くの小川に馬を引いて行った。
馬は美味しそうに水を飲んでいる。
この辺は街道の左側には森林地帯が広がり、右側には田園風景が続き、遠くの方に王の台地が険しい尾根をのぞかせている。
暫しの休憩を雄大な大地に見守られながら、旅はまだ続いていく。
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