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第14話 四家会議

次回でウルズヘルム編は最終回です

次回来週10/12日に更新します。


 

 一体どのくらい寝ていたのだろうか?

 戦いの中でご主人様の顔の前に『強制内省(リフレクションズ)』を張ったところまでは覚えてる。

 その後意識が朦朧としてから猛烈な眠気に襲われた。

 これが魔力切れなのだろうか?

 なんとか意識を保っていたがアザエルが消えかけた頃、夢の帳の中に誘われた。


 何かとても幸せな夢を見ていた気がするが思い出せない。


 俺は大きく欠伸をして、体を伸ばす。辺りを見渡すが見覚えがない部屋だ。

 俺はクッションをひいた木箱の中に寝かされていた。

 部屋にはベットにタンス、木の小さい机と椅子が置かれている。窓から見える景色からは1階ではなさそうだ。壁には漆喰が塗られていて全体的に年季を感じる趣のある部屋である。

 部屋の扉は開いているので、探索してみようと木箱から出る。

 それにしてもお腹がすいた。水も飲みたい。カッルフッドさんがご馳走してくれると言っていた『アマゴ』と言うのはなんだろうか? ウルズヘルムの名物との事だったが。

 部屋を出るとすぐ右側に階段があった。降りるとそこは居間になっていて、ご主人様が出かける準備をしていた。

 どうやらここはご主人様の実家、カッルフッドさんの家の様だ。


 階段から降りるとご主人様は嬉しそうな顔をしながら駆け寄って来た。

「良かった!ミカエル起きたのね。起きて来なかったらどうしようと思った」


「にゃー」


「ちょっと……なんで喋らないの? もしかして元に戻っちゃった!?」


「あ、その設定忘れてたにゃ。とりあえずゴハンが食べたいにゃー」


「……なんか感動が薄れたわ。はいはいゴハンね、お猫様」


 そう言ってご主人様は笑った。やっぱり笑顔が可愛い。ゴハンを用意してくれる姿はもっと可愛い。


「今日は鳥肉を茹でたものと、いつもの山羊のミルクよ」


 俺は飛びつく様に貪った。美味すぎる。やはり空腹は一番の調味料なのだ。


 食べ終わる頃、ご主人様が話しを切り出した。

「これから父の警備隊の事務所で、事件の報告とこれからの対応について話があるわ。ミカエルも一緒に行く?」


「うん、俺もいってもいいのかにゃん?」


「もちろん良いわよ。ただ喋れるのは内緒にしてた方がいいかも」


「と言う事はカッルフッドさんとハインさん以外の人も来る予定なのかにゃ?」


「そうね、だいたいの事は調べ終わったそうなので、街の主要人物は来るはずよ」


「……ところで俺はどれ位寝てたのかにゃ?」


「そうね、大体丸1日といったところかしら?事件は2日前よ」


「なんと、3食も食べ損なったにゃ」


「ふふっ、ミカエルって食べることばっかね。それとも大概の猫はそうなのかしら?」


「むむ、俺は食べ盛りのわんぱくにゃん」


「じゃあ、頑張って大きい猫になってね、ミカエルちゃん」

 そう言ってご主人様はミルクがついた俺の顔を拭いてくれた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 警備隊の事務所は水路沿いの道にあり、中央広場から西に少し行ったところにあった。

 事務所の1階の練兵場の土間に机や椅子が並べられており、簡易的な会議室になっていた。

 机は『コ』の字型に並べられていて、4人の初老の人物達がすでに座っており、数人の参謀の様な者を後ろに立たせている。

 俺は小太りの男だけは見た事があった。

 ホードゥの父親、グリッブ・ロースクッドだ。

 という事は他の3人も四家の代表者なのだろうと想像できた。

 ホードゥはいない様だ。あの怪我ではしばらくは安静にしてた方がいいだろう。命があっただけでもラッキーだ。

 その他にはハインさんや討伐に参加したホードゥ隊のメンバー、カッルフッド隊のメンバーなどが壁側に立っていた。

 ご主人様もそちらに並ぶ。俺は入り口付近にある階段に座る事にした。


 しばらくするとカッルフッドさんが1人の女性と入り口から入って来た。女性は40歳前後で、シックな黒を基調とした装いだ。少しお堅い印象を受ける。


「今日はお集まり頂きありがとうございます。これから先日起きた魔物討伐に関する事と、この街の被害状況について報告いたします」

 カッルフッドさんが話し出した。

「本日は判断が難しい事案も含みますので、ウルズヘルム修道院院長及び中央評議員のディアナ・スチュアート女史にお越しいただきました」

 女史は一礼をして机の端に座った。


 カッルフッドさんはコの字型に並べられている机の中央に立って話し始める。

「我々警備隊は一連の事件の捜査で明らかになった事をお話しさせて頂きます。事件の発端となった魔物討伐はロースクッド家のホードゥ殿が計画し実行されました。これにあたりホードゥ殿は数ヶ月前から魔物を農作物と一緒に街に運び込んでいました。こちらは昨日ホードゥ殿の自白と倉庫に魔物を捉えておく檻が大量にあり、ホードゥ隊の証言も確認しております」


 ホードゥの父親は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 しかし何か発言を遮ったり反論する事はしない様だ。ある程度の事を覚悟の上、受け入れるつもりなのかもしれない。


 カッルフッドさんは続けた。

「次に討伐計画の自作自演を知った、ハルホスニ家のハンター『ドーフ』と『クラッグ』がホードゥに協力を申し出て、アザエルの召喚を画策し実行、大きな被害が出ました。こちらはクラッグの方に尋問を行いましたが大筋認めております。しかし誰からの指示かと言う点で証言が二転三転する為、ダルグ・ハルホスニ殿にこちらで証言して頂けたらと思いますがいかがでしょう?」


 鼻を鳴らして男は立ち上がった。この男がダルグ・ハルホスニのようだ。白い口髭を蓄えていて頭は側頭部のみ髪の毛が残っている。おそらく50代後半といったところだろうが、眼光は鋭く背筋もまっすぐしており、やり手の経営者といった雰囲気だ。


「発言の機会を頂いて感謝する。単刀直入に言うとほとんど何も知らないと言うのが正直な所だ。たしかにドーフとクラッグの方から街の為に魔物討伐に参加したいという申し出を受け、許可をした。しかしそれ以上の事はハルホスニ家としては何も預かり知らないと言うのが真実だ」

 ダルグ・ハルホスニは顔色も変えず、澱みなく発言した。


「なるほど、ではうちの娘のシグヴァールの誘拐については、どう説明頂けるのかな?」

 カッルフッドさんは低く落ち着いた声で問う。


「こちらの方も我が家と無関係、ドーフが達が死んでしまった以上、真相や目的を知れなく私も残念だ。しかし不可解なのだ。ドーフ達は何故死んだのか、そのシグヴァールが殺していないと言うなら、一体誰が殺したと言うのか?」

 ダルグ・ハルホスニは大袈裟な身振りをつけこう語った。


「シグヴァール、発言を許可する。証言しろ」

 カッルフッドはご主人様に証言させるつもりらしい。

 うちの猫がやりましたって言うつもりは無いよね?


 ご主人様は一歩前に出て発言する

「実は、私は気絶していて気がついたらドーフ達は死んでいたのです。それから必死に縄を解き街に逃げだしたのです。昨日そちらのディアナさん達と現場を確認したところ、同士討ちの可能性が高いという結論が出ました」


「そんなの信じられるわけ無いだろ。うちのハンターが同士討ちなどするはずが無い」

 ダルグ・ハルホスニは大声を出した。

 部屋に緊張が走る。


「私が発言してもよろしいでしょうか?」

 ディアナ女史が声を上げた。


「もちろんです。証言をお願いします」

 カッルフッドは答える。


「それでは。昨日の現場の魔力痕を調べた結果、使用された魔術は闇術のみなのです。そこにいるシグヴァールさんは聖術しか使えないと聞いております。ですので同士討ちか第三者の可能性しか無いのです」

 さらにディアナ女史は続ける

「シグヴァールさんが気絶してる間に、突然凄腕の闇術使いが現れて交戦状態になって3人死んだ。このような馬鹿げた話はとてもで無いですが信じられませんし、証拠もありません。よって同士討ちの可能性が高いと判断しました」


 なるほど、考えたな。第三者(ディアナ)を入れる事でより難解な事件になる。ひょっとしてこの女とも握ったのだろうか?


「ダルグ殿、納得頂けないと思いますが、状況から推察するしか無いのです。それで街への損害とシグヴァールの誘拐の件、どの様に責任を取るおつもりなのでしょうか?」

 カッルフッドさんの口調が強くなった。


「ぐぬ、責任と言われても当家とは全く関係ないっ!」

 両手で机を叩いた。結構大きい音がしたので、手が痛かったんではないかと俺は思った。


「このままでは平行線だな」

 白髪頭の男が発言した。


「ラクス殿、何かご提案がありますか?」

 カッルフッドさんは聞いた。

 この男がアールクラン家の当主、ラクス・アールクランらしい。


「うむ、ハルホスニ家にも使用者責任というのもある。ここはロースクッド家と街の修善費用を折半して頂くというのはいかがだろう? 誘拐事件の件はとても奇妙な事件だ。同士討ちにしても、何か悪魔憑きの様な事でもないと説明が難しい。ここは新たな証拠が出てくるまで棚に上げた方が賢明ではないだろうか?」


「なるほど、ではエブル殿は何かご意見はありますでしょうか?」


 机の中央に座っている少し渋いロマンスグレーといった感じの男。彼がエブル・アリゲッツ、アリゲッツ家の当主のようだ。


「私もラクス殿の意見に賛成だ。ただ街の被害状況の報告と修繕費の概算がまだ分からない。費用負担の割合は我々が決めると紛糾するのでディアナ殿に一任した方が良いのでは?」

 穏やかな口調で発言した。


「ロースクッド家、ハルホスニ家がご納得頂けるのであれば」

 ディアナ女史は二人に問いかける


 先にグリッブ・ロースクッドが発言する

「我々は何の異論も無い。決定に従おう」


 ダルグハルホスニは立ったまま答える

「大きく異論はないが、負担割合によってだ。理不尽な決定には従えない」


「分かりました、私の考えを述べさせて頂きます」

 そういってディアナ女史は立ち上がる。

「まず家屋の破損などの被害が19軒、浸水などの被害が227軒ありました。こちらの修復費用をロースクッド家、ハルホスニ家に4割ずつ負担を頂きましょう。残りの1割ずつをアリゲッツ家、アールクラン家に負担願いましょう」


「なんだと!」

 ラクス・アールクランは不満そうに立ち上がったがディアナ女史は話を続けた。

「次に人的被害は重軽傷合わせて35人といったところです。幸い街の住人に死者は出ませんでした。こちらの治療などの費用は修道院で責任を持ちましょう」


「しかし、全く責任のない当家やアリゲッツ家、ましてや修道院に負担を頂くのはどうなのか?」


「ラクス殿は建国の理念をお忘れか?」


「建国の理念?」


「そう、我が国『グディナガーラッド王国』は324年前『人を愛し、与え合い、調和せよ』という理念によって建国され、以来この崇高な精神を守って来た。その理念が危機に瀕した今、力ある者が皆を助け合うべきだと思う。四家の皆さんは如何だろう?」


 四家の当主は黙っている。それぞれの思惑はあるがそれを口に出してはいけない。そんな雰囲気が支配している。


 ディアナは続けた。

「今我が国は、エリザベッタ女王陛下が行方不明になって4ヶ月になる。国内の情勢がとても不安定だ。だからこそ我々は一つにまとまり助け合って、国難に立ち向かわねばならない。」


 俺は耳を疑った。思わず立ち上がってしまったが、猫の気まぐれだとみんな気には留めていない様子だった。


 エリザベッタが行方不明。


 俺を転生させた女王(あいつ)が!!

作品を読んでいただいてありがとうございます。


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