第13話 シグヴァール・ホルデ
次回は10/5土曜日になります。
第二部書き始めました!
☆シグヴァール視点
アザエルの足元に水が沸きあっという間にアザエルを飲み込み水の竜巻になった。
あれはホードゥ達をやった高圧の水弾の魔術だ。
私は落ち着いている。
街に馬で向かっている時、ミカエルから魔法が使える可能性を教えてもらった。
捕まっている時、魔力が漏れて私の身体を包んでいたらしいのだ。
ミカエルに操作のコツを聞いて、実際見てもらうとそれが聖属性の魔法である事が分かった。
聖術は身体や攻撃を強化するのが得意で、不死生物などに抜群の効果があるそうだ。
それから、聖なる力を剣に付与したり、身体に纏わせ強化する方法を習った。
ほんと、この猫は何者なんだろう?
聖なる魔力を体に纏うと、不思議と心が落ち着いた。母の様な温もりと力強さが確かにそこにあった。
母が守ってくれた私の命。今度は私の大切な人達を守るために使おう。
ミカエルが肩に飛び乗って来た。
「準備はできてるかにゃ?」
「いつでも行けるわ」
私は剣に聖なる力を纏わせた。
「身体強化してれば、多少のダメージは問題ないにゃ。致命傷になるものは俺の魔術で防ぐから安心して攻撃するにゃ」
「ありがとう、じゃあ行くよ!」
私は地面を蹴って飛び出した。
アザエルは水の竜巻から攻撃態勢に入っている。
「水の城攻砲」
最初の一撃が父に向けて発射された。
父は剣を離し、咄嗟に両手でガードする。しかし2メートル近い父の巨体は簡単に吹き飛ばされる。
次の弾はハイン叔父さんに飛んできた。
叔父さんは水術で相殺させようとするが、腕が弾かれ態勢を崩す。
次の弾が飛んでくる!!
間一髪!!
私のレイピアは水弾を切り裂いた。
次から次へと飛んでくる水弾を私は距離を詰めながら切り裂く。
斬る、斬る、切り裂く!!
至近距離からの攻撃は、近づく程威力が増し綱渡り状態は難易度を増していく。
《大丈夫だ、私には当たらない。ミカエルが付いている》
自分にそう言い聞かせ、一歩一歩距離を詰めてついに水柱にレイピアが届くところまで来た。
水流を断ち切る様に斜めに切りつけると、ヤギの頭が見えた。
自然と突きが吸い込まれる様に放たれた。
巻き上げていた水が一気に落ちる。
私の一撃はアザエルの胸の中心を貫いていた。
その胸部は、まるで生木が燃える様にバチバチと音を立てて少しずつ崩壊していく。
ガクンとアザエルの頭が垂れた。
殺気!?
わずかな違和感を感じ、咄嗟に後ろに飛ぶ。
「ググググゥー」という唸り声と共に、頭部のツノから一筋の水撃が私の顔をめがけて放たれた。
私は反射的にレイピアで斬りつけたが、刀身が折れ宙を舞う。
おそらく超高圧の水撃なのだろう。最後っ屁なんていう生ぬるいものではない。
もうダメだと思った。
水の先端が顔のほんの数センチまで迫った時、紫のオーラが水撃を包み込んだ。
水を全部受け止めみるみる大きくなる。
『ドゥーゥウン』という音と共に水撃はアザエルの頭部のツノを吹き飛ばした。
ドーフを倒したミカエルの魔術だ。
私はレイピアの柄に魔力を込め、聖魔法剣を作り出しアザエルの体に斬撃を刻み、眉間に剣を向けた。
アザエルはどかっと胡座をかき、胸の辺りを右手でさすりながら地響きのする様な声で話し出した。
「せっかく肉体を得たと思ったら、案外早かった。呆気ないものだな。まあ、どちらにせよあの魔女が黙って無いだろうがな」
「あの魔女?」
「そうだ。300年以上前、我の肉体を滅ぼした……魔女だ」
「300年も前ならもうとっくに死んでるんじゃない?」
「いや、この国の、何処かに、いる……はずだ……」
アザエルの胸の痕が大きくなり、声が聞き取りにくなって来た。
「剣士よ、なまえ……教えてくれ」
掠れた声で絞り出す
「シグヴァールよ」
「シグ……ヴァール、見事な……闘いだった……ぞ」
私はアザエルの肉体が灰になり、消えていく姿を最後まで見届けた。
自然と父が隣に来て私の肩を抱いてくれた。
ハイン叔父さんはホードゥ隊の生存確認や傷の手当てを率先して行っていた。
ミカエルは丸くなって眠っている。
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本当に今日は色々あった。
劇的に人生が変わってしまったと言っても過言ではない。魔法が使える様になったのは、喉のつっかえが取れたみたいに清々しい。
一方でロースクッド家、ハルホスニ家との関係はどうなるのだろうか?
父達はどの様に後始末をつける気なのだろうか?
こちらは考えるほど鬱々とした気持ちになってしまう。
平穏で、良く言えば長閑な田舎街の日常はたった一晩で崩れてしまった。もっともホードゥは数ヶ月前から魔物を街に運んでいた様だし、その計画に気付いたハルホスニ家の連中も綿密な筋書きを用意していたに違いない。
一体なぜ、平和で恬淡な人達がまるで悪魔に取り憑かれた様に、利己的で貪欲な事をするのだろう?
数ヶ月前に王都で起きた女王陛下への襲撃事件といい、何かきな臭い不穏な雰囲気がこの国に流れてる様な気がする。
そういえばミカエルは大丈夫だろうか?
あれからずっと寝てるし、ドーフには吹き飛ばされていた。自分ではワザと痛いふりをしたので問題ないと言っていたが……
ミカエルのところに行き背中を撫でる。
ピクリと鼻が動いたが、めんどくさそうにもっと丸くなってしまった。
「ミカエル帰ろっか?」
私はミカエルを抱き上げ、頭にキスをした。
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