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第1話 ご主人様との出会い

 

 俺は猫に生まれ変わった。名前はまだ無い。


 生まれてからすぐ、子鬼のようなに魔物に襲われ、母親や兄弟達と逸れてしまった。街の水路に流され、必死に這い上がり、母猫たちを探したが、どうやら街の外まで流されたらしく、ここが何処だか分からない。

 街の城郭の外にいるらしく、目の前には豊かな田園風景が広がっている。

 もう1週間は経っただろうか? 未だに入口らしきものが見つからないのだ。俺が流されてきた水路は城郭に沿って流れ、堀の様な役目をして、それから広大な農地の方に流れていた。

 南東に見える雄大な山脈からの伏流水が街を潤し発展させてきたのであろう。


 俺は街への入り口を探すのを諦め、城郭とは逆の方向にある農地の方に向かって歩き出した。

 農地には少なくとも農夫や管理をしている人がいるはずだし、街の中に住んでいる人もいるかも知れない。後をつければ街に入れるかもしれないし、それに見つかったとしても子猫の姿の俺なら悪い事にはならないだろう。


 正直めんどくさいのだ、メシを探すのが。


 俺は前世では魔術師だった。そしてこの姿になっても若干の魔法が使えることに、水路に流されたときに気付いたのだ。早く気づいていれば魔物ごときに遅れを取ることもなかった。

 とはいえ、使える魔力量は人間だった頃の数百分の1だ。これから増えるのかは分からない。

 魔力を刃に変えて、野ネズミや野鳥を狩って食べた。あまり美味しいと思わなかった。

 人間だった頃の記憶のせいか? 俺の体がまだ小さく合わないのか? わからないが、もっと柔らかくて火の通ったお肉が食べたい。魚でもいい。

 俺は火の魔術は使えない。適性がない魔術は身につかないのだ。

 だが、魔道具に魔力を注いだり、詠唱して魔力を火に変える術式を組めば誰でも使える。なのでこの国の人間は誰でも自分の魔力でお湯を沸かしたり、グリルでお肉を焼いたりする事が出来る。

 猫の俺は喋れないし魔道具も持っていないのだ。

 早く人間の家にやっかいになって美味しいものが食べたい。


 俺の頭よりも高く育った青々とした麦のような植物の畑の畦道を抜けると農作業場なのだろうか? 茶色く寂れた大きな建物が見えた。

 牧草などを丸めた物や、肥料を溜めているであろう大きい長方形のマスが無造作に置かれている。

 ここで農作物をまとめて街道を通って運ぶのだろう。轍の跡が何本か地面に残っている。


 建物の横を通り抜けると人の姿を発見した。


 彼女は木刀を振っていた。

 金髪を後ろで束ね、紺色のブラウスに草木色のガウチョパンツに身を包み、正中の構えから左右の切り返し、袈裟斬りなどを組み合わせ、実戦を想定したような訓練をしているように見える。


 剣士というのは珍しい。というのは単純な戦闘では魔法の方が強いからだ。もちろん魔法にも適正があって、攻撃に向いて無い魔法しか身につかない場合もあるので、剣術を修める人もいる。しかし多くの場合心身を鍛える目的で剣術をはじめとする武術を習う。


 訓練の邪魔はしたくないので、しばらく様子を見てみる事にした。

 幸いお天道様はまだてっぺんにたどり着いてはいない。そのうちお昼の休憩をするだろう。その時がチャンスだ。あの蔓の籠の中身はお弁当だろうか?お弁当だったらいいにゃあ。 

 期待に胸を膨らましながら、木陰で体を休める。


 お弁当の中身が気になるにゃ。


 訓練を終えたらしく、顔をタオルに埋めて汗をぬぐっている。小麦色に焼けた腕にも汗が滲んでいる。顎まで垂れた前髪が頬にへばりついているが、長い睫毛に切れ長の目。造形の整った鼻筋に上唇はツンと上を向き、桜色をしている。彼女の横顔は美しいと思った。


 さてここからが腕の見せ所だ。あまりにも突然に人懐っこい猫を演じても可愛げがない。

 最初はあくまでも人を警戒しつつ、少しずつ近づき、懐柔された風に演じ、この剣士の自尊心を満足させ、母性本能をくすぐるのだ。

 目に入れても痛くないほど可愛がってもらい、あわよくば街にまで連れて行ってもらいたい。

 とりあえず、メシだメシ。メシにありつきたい。


 木陰から出ると、彼女はすぐ俺に気づいたらしく、視線を合わせないようにしながら、しゃがみ指をくるくる回してる。

 俺はトンボに見えるのか?

 一瞬そう思ったが、どうやら歓迎ムードのようだ。

 近づいていって、1メートル位の距離で止まり、首を傾げながら「にゃあ」と鳴いてみた。


「子猫ちゃんどこからきたんでちゅかー?」

 と言いながら、指をクイクイとやっている。

 

 もう一度短く「にゃ」と鳴き、指先をあえて遠回りして足元の方に近づき、必殺のほっぺたすりー攻撃だ。彼女の左足に顔を擦り付け、また正面に出て顔を見上げてみる。


 彼女の鼻が膨らむ。ニヤついた顔をこちらに向け、もう触りたくてウズウズしてるという雰囲気だ。


 指先が俺の喉元を撫でる。

 ああ、触られてみると気持ちいいものだ。自然と目を閉じて顎を上に向ける。

 猫の本能か、人間だった頃の心が残っているのか分からないけど、思わず「にゃあー」と声が出てしまった。


 

その日、俺はお持ち帰りされたのだった。



作品を読んでいただいてありがとうございます。

これから時間を作って投稿していくつもりです


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