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15.指先と境界線


『ほんま、なんも知らへんなあ、ほーら、力抜いてな? スクラブは優しく撫でるのがコツなんやで』


ガーネットの指先が、たっぷりのスクラブをのせて私の背中を滑る。

「あ……、うん……」


ジャリ、とした不思議な感触。でも、彼女の手のひらが密着するたびに、そこだけ体温が上がっていくのがわかる。

『……れみたそ、肌めっちゃもちもち。マヂで触り心地ええわぁ』

「そ、そうかな……」

『ほんまにモチモチ!……あ、ここ、くすぐったい?』

脇腹のあたりを指がかすめて、思わず肩が跳ねる。

「っ、ん……!ガーネット、そこ、じ、自分で洗えるに」

『ええやん、減るもんやないし。ほら、前も失礼しまーす』

くるりと私の体を自分の方へ向かせると、ガーネットの顔がすぐ近くに来た。


湯気の向こうで、濡れた髪をかき上げた彼女の瞳が、いつもよりずっと大人っぽく見える。

『れみたそ……顔、真っ赤やで? のぼせた? それとも……ウチにドキドキしてくれたん?』

「それは、その……」

ニヤニヤとからかうような、でもどこか真剣な視線。

ガーネットの指先が、私の鎖骨から胸元へ、ゆっくりとスクラブを伸ばしていく。


トクン、と私の心臓が跳ねる。

あれ…なんでドキドキしてるんだろ…いけないいけない…っ。



なんとかお風呂を済ませて私たちは揃いのバスローブを羽織って洗面台の前に並んだ。


「ふぅ……、なんか、一気に疲れが取れた気がする!」

『やろ? でもな、こっからが本番やで。れみたそ、戦闘準備はええか?』

鏡の前にズラリと並べられたのは、見たこともないようなキラキラしたボトルの数々。


「これ……全部、顔に塗るの?」

『当たり前やん! まずはこれ。導入美容液。これを塗るか塗らへんで、その後の化粧水の吸い込みがマヂで変わるから!!』


ガーネットは手際よく手のひらで液を温めると、私の顔を包み込むようにハンドプレスしてくれた。

「あ……、すごい。スーッと入っていく感じがする」

『そうそう、肌もありがとう言うてるわ!次に化粧水! これはケチらず、ちゃんと使ってな。はーい!れみたそ、もっと顔あげて?』


言われるがままに顔を向けると、ひんやりとした化粧水が肌に染み渡っていく。

お風呂での火照った肌が、潤いで満たされていく感覚は、仕事のストレスでガサガサだった頃には味わえなかった贅沢だ。


『次に美容液をして…その次に乳液で…はい!鏡、見てみぃ!』


恐る恐る鏡を覗き込むと、そこには。

「え……、これ、本当に私……?」

お風呂上がりの血色の良さもあるけれど、肌が内側から発光しているみたいにツヤツヤしている。

『めちゃくちゃ可愛い!』

ガーネットはにこーっと満足げに笑って、私の肩をポンと叩いた。


スキンケアを完璧に終えた私たちは、広々とした寝室へ移動した。


なんだか、ベットまでふかふかで気持ちよく感じる。

今まで私はこんなに自分をいたわれてなかったのだろう。


「今日、本当に色々ありすぎたなぁ」

『ほんまにな! れみたそに基礎を教えれてよかったわ!』


電気を消すと、窓から差し込む月明かりが、隣に横たわるガーネットの横顔を照らした。

昼間の賑やかな彼女も好きだけど、静かに目を閉じている彼女は、どこか神秘的な「宝石」の面影を感じさせる。


「ねえ、ガーネット……」

『ん? なんや?』

「ありがとう。私、ずっと”真面目にしなきゃ”とか”周りに合わせなきゃ”って…そんなことばっか考えてて。自分の肌がふわふわになっただけで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて、知らなかった」

布団の中でそっと手を伸ばしてみる。


すると、ガーネットの温かい手が、迷わず私の手をぎゅっと握り返してくれた。

『れみたそはな、もっと幸せになってええんよ。っていうか、ウチが絶対にしたるから。覚悟しときや?』

冗談っぽく笑う彼女の声は、少しだけ震えているようにも聞こえた。


繋がれた手の温もりを感じながら、私はゆっくりと目を閉じる。


「……おやすみ、ガーネット」

『おやすみ、れみたそ』


明日はどんな”ハピネスプラン”が待っているんだろう。

そう期待しながら、私は久しぶりに、心の底から深い眠りに落ちていった。

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