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12 学びを得る

毎日二話更新。こちら二回目です。

 講習は地元ではなく、数駅離れた所で開かれた。いわゆる県庁所在地である。ハローワークが提携しているカルチャースクール、なのだと思う。地元はこれらが採算とれるほど人がいるかと問われると自信を持って頷けないレベルなのだ。


 週五日間、土日と祝日以外は毎日開催された。流石ハローワーク主催、甘え無しである。一年以上怠けていた私にはなかなかハードだった。社会人なのだからしっかりしなさいと今なら言える。


 電車で移動し、学校までは歩いていく。かつてなら全く問題のない距離だったが、義足の私にはなかなかに厳しいものだった。しかしこれも社会復帰、リハビリの一環であると頑張った。実際、衰えていた体力を戻すのに役立った。


 講習を受ける生徒は二十代後半から三十代後半まで。男女比は3:7で女性の方が多かった。人数は二十人程度だったか。やはり、人が集まれば差というものが見えてくる。まじめに就職のために励む者もいれば、その年まで何をしてきたんだという人もいて……まあ私も人の事を全く言えた立場ではないのでこの辺で口を閉じる。


 専門の学校だけあって、講習は大変分かりやすいものだった。最初はパソコンの電源の入れ方からスタートするのだから、徹底していた。知っている知識であったため、最初はだいぶかったるいと思った。しかしあっという間に知らない技術の話が出てくる。


 え。ウィンドを画面一番上に持っていくと全画面に自動的に広がるの? し、知らんかった。十年以上パソコン触ってたのに。思えば、正式にパソコンの使い方を学んだことはこの時まで一度もなかった。せいぜい高校の頃、正しい電源の入れ方と落とし方を教えてもらった程度だろう。


 その後は、エクセルやワードの本格的な使い方に移った。全く知らない技術が多く、テキストを読みながら必死で食いついていった。ここで覚えたものは、就職後でもしっかり役立った。就職のための拍付け以上の価値があった。


 さて、講習はこういった技術だけに止まらなかった。ハローワークの提携という事もあり、面接やプレゼンについても授業があった。こちらはなかなか面白かった記憶がある。特に覚えているのがプレゼンだ。毎日、指定された一人が十五分という枠で自分の持って来た話題を生徒に説明するのだ。


 人前で話し、説明する。これもまた練習しなければ身につかない技術だ。私としては割と得意分野だった。伊達に創作活動はしていない。当時は小説をまだ書いていなかったが、某掲示板では長く遊んでいた。人に情報を伝えることの難しさは理解している。


 自分が出した話題に、興味を持ってもらうための方法。どれだけ聞いているものを引き込むか。とりあえず私は、相手にイメージさせるという手法を取ってみた。話題は、ちょうど良く当時発売が迫っていたプレイステーションVRについてだった。


 VR。バーチャルリアリティ。ゲームや映画が、目の前で起きているかのように見せる機器や技術の事。なろう小説ではおなじみのジャンルではあるが、一般的にはほとんど浸透していない。せいぜい映画の「アバター」で触れているかどうかというレベルだろう。


 それを、オタクでも何でもない人々に伝えるのだ。なかなかに骨が折れる。仮想現実とはどういう状態か。それが現実となると自分たちにどういう娯楽が提供されるのか。そんな話をした。


「現在のVR機器は、臨場感のある画像と音声でできています。この技術がより洗練されていけば、自分がテレビのスタジオやライブコンサートにいるかのように体験できるようになります。もちろんそれはまだ先の話ですが、こういった機器が開発され販売されていく先に、そのような未来が待っています。夢のある話だと自分は思いました」


 確か、こんな感じで。幸いなことに、反応は上々だった。やはりテレビや映画、ライブなどの身近な娯楽を具体的な例として出したのが功を奏したか。講師の先生からもよい評価をしていただいた。


 エクセル、ワード、パワーポイント、就職活動のあれそれ。それらを学んでいるとあっという間に時は流れて行った。気温が上がり、駅からの移動だけで汗がしたたり落ちる。義足の装着に使うシリコンカバーを足から取り外してひっくり返すと、ぎょっとするほどに水滴が落ちてきた。衛生を保つためにふき取るのも大変だった。


 暑さといえば、エアコン問題があった。講習は女性が多かったと述べた。女性はエアコンの寒さが辛い。なので設定は女性のそれに合わせられる。男にとってその温度は、講習に集中できないレベルの温さだ。設定変更を希望しようものならクラスからヘイトが一気に上がる。


 幸い、席替えというありがたいイベントがあった。その時にエアコンの一番当たる場所があるけどその場所を希望する人はいるか、と講師が全体に質問。速攻で手を上げた。女性にとっては全力でお断りだろうが、私にとっては天国だ。他の男性陣も、おおむねそのような場所を選んだ。無事に、勉強に適した環境を手に入れた。素晴らしきかな。


 夏が来れば終わりもあっという間にやってきた。講習は終了。残念ながら試験そのものは教室で受けることができなかった。各自で調べて申し込み、結果を報告するという形になっていた。


 さっそく私も地元で試験を受けた。そして無事に、試験に合格。資格を獲得することができた。……思い返せば、一部まったく馬の合わなかった同窓の人々。まじめに学ばぬあの人たちと同じにならぬためにと、努力した覚えがある。それもまた、資格獲得に寄与したのだから感謝の一つも捧げておこう。正直顔も名前も全く思い出せなかったりするのだが。


 ともあれ、無事に目的は達した。となれば、改めて就職活動を開始する。……が、最後まですんなりとはいかないもの。もうひとイベント、神様は私に用意していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういったセカンドチャンスを支えるのが国民健康保険及び年金となります。払おうね!(高額医療費200万ぐらい払ってくれたのマジ感謝。)
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