11 社会復帰
毎日二話更新。こちら一回目です。
退院してから、定期的に通院していた。足の穴がふさがったあたりから、診察はとても簡素なものだった。ほんの数分で終わるのだ。で、一月のある日。いつもの調子で主治医の先生はこうおっしゃった。
「状態が固定されたね。お疲れ様」
足を失っているので、治療終了という言い方はしないらしい。もうこれ以上変化しないよ、という話なので状態が固定されるという言い回しをするそうだ。ともあれ、これにて通院終了。先生や入院中お世話になった病棟にお礼を言って、病院を後にした。
さて、治療が終わったとなればもはや怠け者生活はしていられない。社会復帰に本格的に動き出さなくてはならない。まず最初は前職を退職する事だった。これについては特に手間もなかった。義足があっても前職を続けられないというのは、関係者は皆分かっていた話だったので。
次は、障害者手帳をもらうための手続きである。これを持っていると、公共サービスや各種移動手段を使用した時に割引が受けられる。加えて、社会復帰にも大きな影響がある。企業は健常者だけでなく、障害者にも労働の機会を与える努力をしなくてはならない義務がある。なので一般の雇用枠とは別に障害者用のそれがある(一般従業員数に対して2.3%)。
障害者手帳を貰うと、その枠で就職活動ができるようになる。また、割り振られる仕事もその人物の障害に配慮されたものになる。まじめな話三十分以上立ったり歩いたりするのが辛い私としては、一般人と同じように働くのは難しい。配慮のある職場に入る事は、雇用者被雇用者双方にとって必要な事だった。
こちらは、労災等の手続きに比べて大分楽だったように記憶している。……そうだ、一時金の返金が始まったのもこの頃だったか。
大きな事故を起こしたため入院や手術、生活にまとまったお金が必要になるケースがある(私はそれほどでもなかった。一応貯金もしていたから)。その為、保険や労災などは事故直後にまとまったお金を支給してくれる。
兎に角急ぎである場合があるから、支給が優先される。その後、状況を見て多かったか少なかったかを調査する。私の場合はだいぶ多かった。その場合はどうなるかというと、その後にもらえる労災等の給付金から分割で引かれることになる。
私の場合は、五年近く返金が続いた。現在は返金も終わっている。二か月に一回の給付だが、生活を十分に助けていただいている。こういった制度があり、正しく運用される日本には本当に感謝しかない。怪我の治療の事でもそうだが、日本でなければ今頃どうなっていた事か。
障碍者雇用も含めて、これによって私は身体の事を第一に考えた社会復帰を考えられるようになった。諸々の手続きと並行して、ハローワークに通い始めた。そうそう、ハローワークといえば忘れてはいけない。失業給付の話だ。
会社を辞めたのでこれを受け取れるようになったわけであるが、それの給付には簡単ながら面接を受けなければならない。今どのような就職活動をしているかを、ハローワークの職員に伝えなければならないのだ。
何せ給付を受けるには『求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思がある』ことが条件とされているのだ。ぐーたらしていたら貰えない。改め調べてみたら、理由もわかった。この給付はあくまで『就職をするための活動費』なのだ。働こうとしないやつにくれてやる道理はないというわけだ。
給付についてはいったん置いておく。さて、私は社会復帰について一つの希望を持っていた。今度の仕事は建物の中がいい。エアコンの利いた場所がいいと。なにせ、ゲームセンターやコンビニでバイトしていた頃を除けば、社会人としての労働環境は常に過酷だった。こんな体になった事だし、それら負担のある場所は避けたいという思いを抱くのは普通の事だろう。いや、障害者でなくても考えは同じか。
しかし、望んだだけでは手に入らないというのは子供でも分かる事。相応に努力しなければならない。この場合は何をするべきか。資格勉強である。幸いにもハローワークには、施設が主催する資格講習が沢山開かれている。求める資格もしっかりとあったので、これに応募することにした。……締め切りが目と鼻の先だったので、申込書を慌てて書いた。
私が取得しようとしたのは、エクセルやワードのそれである。事務仕事を求めるのだから、これがあればよいだろうと考えたのだ。……振り返ると、もっと求人募集の資格の欄を見ておけばよかったなと思う。これで入れなかったらどうするつもりだったんだ、私。目論見が甘い。
締め切りギリギリで出した申込書は無事に受理された。これで講習が受けられる……とはならなかった。なんと、面接を受けることになったのだ。失業者は私だけではない。学んでより良い就職先を求めるものは他にも山ほどいる(資格を取ろうという気概があるのは素晴らしい事だと思う)。そして、一度にすべての人を受け入れられるほどの枠はない。講習を受けるための教室の収容人数的な意味で。
久方ぶりに背広に袖を通し、面接に挑んだ。前職に着くまで、沢山の面接をこなしていた経験がここで生きた。変に緊張することもなく、自分の現状と技術を学ぶ必要性を面接官に伝えることができた。
その甲斐があったのか、障害者枠が別で用意されていたのか。私は無事に講習を受けられることになった。四月から八月のはじめまで、講習を受けた後に資格試験に挑むことになる。
ここで、給付の話に戻る。先ほど述べたように就職に対する積極的な意志と活動が無ければ給付は受けられない。ハローワーク主催の資格教室に通う事は、これに該当する。なので私は講習を受ける間、問題なくこれを受けることができた。
人には様々な事情がある。仕事を止めて別のそれにつかなければならない場合もあるだろう。慌てて変な場所に入らずに、己の価値を高めてから挑むという選択肢もある。これを読んだ方の役に立てば幸いである。
もちろん人には様々な状況があるので、そういったサービスが受けられるかどうかは分からない。ハローワークの職員さんに相談してほしい。