1:ここで運命の出会いはしたくなかった
夕暮れ時、太陽が沈みゆく世界。俺はいつもどおり上り坂の頂上から1人で太陽が終わり深淵なる夜が始まるのを見つめていた。
「ふ、今宵も始まるか。カオスな混沌が!!」
さぁ、学生という仮初の身分を捨て、今一度解き放とう!この封印されし漆黒の右手をな!
「我が名は星水ゼロイチ!真の名をワン!世界に復讐する者なり!!」
少年が暗くなった空に向かって叫ぶと、それに答えるように足元から謎の光があふれだした。
「・・・え、・・・・・・は?」
光は少年を包み込むと、この世界から”星水ゼロイチ”という存在を消した。
♢ ♢ ♢
「んあ?・・・朝か」
懐かしい夢だな、俺が異世界に転移される前の時か・・・・・あー恥ずかしい、過去の自分ぶん殴ってやりてぇー。
もう一度いってやる。過去の自分ぶん殴ってやりてぇー。
「やばい黒歴史で死にたくなってくる。今日は散歩でもするか」
知ってるか?中二病って思春期に起こりやすいとか言われてるんですけど、あれウソです。
ほんとは思春期の次の青年期に発症する、過去の思春期の想いでによって心が狂い死にそうになる病気なんですよ。
ちなみにこの理論はゼロイチの勝手な言い分である。
♢ ♢ ♢
うん、こうして久しぶりに散歩してみると物事が客観的に考えれるし気分がいいな。
しかし異世界に初めて来た時の俺はスゴいテンションだった。あれは初めてサンタさんからプレゼントを貰った時の喜びの5倍は喜んでたな。今にして思えばアホだな。
「あ、いたいた。おーい!」
?!
「悪りぃな待たせちまって。今日のクエストどうする?」
あ、うん。まぁそうだよね。
こういう時、物語の主人公だったなら道を歩いていると仲間に声をかけられるという王道なパターンだが、あいにくと俺に友達は・・・いるにはいるが、昔に別れたきり会ってない。
今の星水ゼロイチに身近な友達はいなかった。
俺は世界のどこにでもいるモブだ。
まぁだからなんだ?って話なんだけど。
そりゃ昔は主人公に憧れてた時もあったさ、異世界に来た時とかはね・・・・・やっぱあの時の過去の自分ぶん殴りてぇ〜。
ゼロイチは過去の中二病に頭を悩ませる。
♢ ♢ ♢
人気のない薄暗い道を歩いていく。
ここは基本的に治安があまりよくない。
まぁ戦争のせいとはいえ・・・
「日本ってほんっとに治安がいい国だったんだなぁ」
日本にいた時は当たり前すぎて気づかなかったけど、本当に平和だったんだな。
だったら犯罪が起きてるのは矛盾してはいるが。
「ちょっと、見てアレ」
「え・・・うわ 」
ゼロイチの後ろの方で2人の女性が何かを話している。
え、もしかして俺のこと言ってる?!
ゼロイチは自分の悪口を言われてると思って体が固まる。
彼は被害妄想がすごかった。
「あれってさ・・・」
「うん、ハッピー薬の使いすぎだよね」
お、俺の悪口じゃなかったか・・・よかった〜。
ハッピー薬。
使用者の気分をハッピーにさせることができる薬・・・・・なのだが同時に強い副作用があって使用しすぎると精神が壊れるらしい。
要するに麻薬だ。
人前では話せないが、俺は麻薬に否定的ではない。
容量よく守って使用すればちゃんと薬になるし、精神の安定は人生に彩りをもたらす。
だが問題なのは人間の心が弱いということだ。
別に人類みんな弱いわけじゃない。
ちゃんと心が強いやつもいる、が!そんな人は麻薬なんか使わない。
基本的にハッピー薬を使うのは決まって心の弱い人だ。
そうした人間の末路は薬に依存して終わる。
かくいう俺も心が病んだ時に手を出しそうになった。
「麻薬の危険性を知ってる」という、知識無双ができてるはずの異世界転移の俺がだ!
俺の心が弱いのがいけないんだけど、そこはもうしょうがない。
そういう性格に生まれちゃったもの。
それでも俺は踏みとどまった。
なぜなら俺には目標があった。
復讐
身を燃やすような自分勝手な怒りがあった。
俺は必ず復讐して安心して眠れるようにするんだ。
相手の顔は覚えてる、すごく可愛いかったからな!たしか・・・・・
「見てあの娘、バイオレット色の瞳の焦点があってないわ」
そうそう、すみれ色の綺麗な目だったな。
「茶色の髪もボサボサ・・・」
この異世界では地味な茶髪だけど、それがまた良くて!
「白い肌もあんなに汚れて・・・」
肌が少し色白で綺麗だったなぁ。
「あ、どうしよ!?目が合っちゃったんだけど!」
・・・・・。
「ね、ねぇ、あっち行こ・・・」
・・・・・・・・・。
♢ ♢ ♢
ゼロイチは道端に布切れ1枚で死んだように座っている少女にフラフラと近づいていく。
嘘だ、ありえない。
目の前の光景が信じられず、ゼロイチは気が動転している。
まるで世界の天地がひっくり返ったような衝撃だ。
ボロボロの女の子にフラフラと近寄るゼロイチ。
もしこの光景を周りの人が見たなら、周りの人は警察に通報する。
だが周りに人はいないし、そもそも女の子は逃げようと・・・・・いや、逃げる力がなかった。
「あの、えっと・・・」
ゼロイチは目の前にいる、体も心もボロボロの少女に対して困りながらも話しかける。
「あ・・・うぅ・・・・・」
少女は口を開けっ放しにしながら声をあげる。
あごが外れて話せなくなったのではない。
今の彼女には「口を噛む」という思考がなかっただけなのである。
「な、なぁ・・・・・」
とりあえず少女と会話をするために、壁に死んだように座ってる彼女に目線を合わせようと腰を下ろした瞬間・・・・・
「・・・」
「?!」
ぞっとした
目線は合っている、合っているはずなのに、少女の目にゼロイチは映っていない。
まるで彼女の目は深淵になったのでは?と勘違いしてしまうほど、どこまでも落ちていってしまいそうな穴があった。
♢ ♢ ♢
「ふぅ、疲れた~。あ、いや、別に君が重かったとかじゃなくてね?!単に俺の体力がないだけだから!」
「・・・・・」
「は、反応ナシっすか。ひょっとして怒ってる?ハハ・・・とりあえず、ソファに座らせるね」
「・・・・・」
あの後、俺は彼女を自分が住んでる部屋まで運んだ。
もちろん傷つけないよう、捨てられた子犬を大事そうに家に持ち帰るように両手でお姫様だっこでだ。
最初はおんぶして行こうかなと思ったけど、おっぱ・・・・・胸が当たるのでやめた。
いやなんで連れ帰ってきたーーーーーーーー?!
バカじゃねぇの?!バカじゃねぇの?!
あれか、探偵もののドラマやアニメで犯人が「こんなことをするつもりじゃなかったんだーーー!」とか意味不明に叫んでたアレか。
人間って感情が爆発すると奇行に走るんだなぁ、気を着けよ・・・・・ってもう遅いけどなぁああああ?!
ゼロイチは現実逃避がしたくなってきた。
いっそ夢であってくれ、もしくはこのまま地球に隕石が降ってきて自分の愚かな後悔ごと地球を滅亡させてくれと願う。
♢ ♢ ♢
ふぅ、とりあえずやっちまったもんはしょうがない・・・・・明らかに犯罪者の思考になってる。
いや、いいのか。だってこれから復讐するんだから実質大丈夫か。
ちなみにゼロイチの頭は大丈夫ではない。
あれから彼女はソファに座ったままだ。
ずっと上を向いたままピクリとも動かないぜ・・・クソ、人形みたいで可愛いな。
いやそうじゃなくてぇ!
ゼロイチはテンションが変になってきたので、自分が今やるべきことを考えることによって気分を落ち着かせようとする。
♢ ♢ ♢
よし、とりあえず俺がやるべきことは・・・・・彼女を幸せにすることだな!
今は復讐しようとしても無駄だ。なにせ彼女の感じを見るに俺のことは絶対に覚えてない。
それじゃあダメだ、達成感がない。彼女にはなるべく傷ついてもらわなければいけない!!あれ、今の彼女は傷ついてるよな・・・・・・・・・
星水ゼロイチの復讐 ~完~
いや、それはダメだ。俺の手で復讐しないと気が済まない。
やってやるよ、俺は絶対に「生きるのがツライ」っていう状態の彼女を必ず「生きててよかった」って思わせて!俺は彼女に復讐してやる・・・!
彼女を傷つけるために彼女を幸せにする、ゼロイチの戦いが始まった。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
多分「???」な感じの人もいると思うと思いますが、この作品における男主人公の星水ゼロイチの行動理念は
「復讐してやる!」 です。