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厨二くんはチェリーボーイ

作者: 黒楓

このお話のふたり 『桜井洋輔くん』と『佐藤美咲さん』は拙作『ラブコメを地でやらされる不条理』の二人とは別人格です。







 重要な事は、チョコを貰ったかどうかではない。男として気持ちを伝えるかどうかだ。


チョコを貰ってないから(こく)らないとか、『チョコを貰った』と言う担保と優位性の上でホワイトデーのプレゼントをあげるなんてのは、男が廃る(すたる)!!


係る理由で、オレとしてはホワイトデーの方が先であって欲しいのだが!


どうしてバレンタインデーより先にホワイトデーが無いのか?


それは、女子からのチョコ欲しさにあざとく立ち回るオトコ除けに他ならない。


と長々と前置きを垂れたが、オレは今からホワイトデー用のチョコを携え告りに行く。相手は佐藤美咲さん!!

チョコは物騒な手作りではなく中学生としての分を弁えたそれなりの物を買い整えた。

これに(ちょっと恥ずかしかったが)100均で買った女子ウケしそうな可愛らしいレターセットに認めた(したためた)手紙を添えて、いざ!出陣だ!!



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「どうしてバレンタインなんてあるのだろう」


思わず独り言ちた。


何と言うか…『チョコくれ』圧力?? それがひしひし来て…ホント困ってしまう。


仕方無いので同じグループの千景と結衣(ゆい)と安原君と高見君には渡したけど…


私を含めたこの5人『一軍』って呼ばれてる…


 そりゃ、下に見られて軽く扱われるのはイヤだけど…こうした『チョコくれ』圧力の排除にも一軍男子の力を借りなきゃいけないのも不自由だ。


第一、私が一軍になった理由って何??


千景(ちかげ)に訊くと


美咲(みさき)の見た目でしょ」


って予想通りの答えが返って来た。


 この子、歯に衣着せぬ物言いするから基本的には好きだけど、こう言われて…さすがにちょっと落ち込んだ。


『私の見た目』って…たぶん、平均よりは大きめの瞳と歳不相応に膨らんだ胸の事だ。


でも、この二つは私にとっては決して良い事では無い。


 瞳は…小4の時、『暗闇で光るネコの目』みたいと男子から言われて『ネコ目オンナ』って蔑まれたし…胸に至っては事あるごとにヤラしい視線が絡みついて来てイヤでたまらない!!


私がもっと大人になれば、この居心地の悪さも解消されるのかとも思うけど…


結衣からは『贅沢は敵!! せっかく安原君や高見君と付き合えるチャンスなのに』と言われた。


チャンスなのかなあ。

そんなにいい事なのかな。

第一、付き合ったら色々大変な気がする…



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 昼休み、佐藤さんはたむろしている一軍の群れから早々に抜けて中庭の花壇のお世話をしに来る。


 中庭の花壇は1年の頃からずっと佐藤さんの手が入っていて、夏のひまわりに囲まれて輝く笑顔を見せていた彼女に思わず目を奪われた。

で、その年の秋…合唱コンクールの練習の合間に音楽室で『バッハのイタリア協奏曲 第1楽章』を弾いている彼女…オレみたいに嫌々ピアノをやらされていたヤツには到底手の届かないこの難曲を無心に練習してた。そう、昼休みには土いじりしていたはずの指は鍵盤を触る為に綺麗に整えられてて…

そんな彼女の清々しさをオレは好きになったんだ。



そこまででオレは頭を振って夢想を振り切った。


意を決して花壇に屈みこんでる佐藤さんに声を掛ける。


「ちょっといいかな?」


声を掛けられてこちらを振り返った佐藤さんはジョウロを足元に置いてスカートを整えながら立ち上がった。


「えっ?! えっ?! どうしたの?」


「邪魔だった?」


「いや、そんな事ないけど…ちょっと、ビックリしたかな! 『どうして?』って」


「うん、まあ、昼休みに佐藤さんが花壇の世話してるの知ってたから」


「ああ、そうか、そうなんだ。だよね、1年からやってるもんね。目に付くよね」


「『目に付く』って言い方、可笑しくね? オレ、ウザいとか思った事ないし、逆に3年間続けているのを見てすごいなあ!!って思って…」


「あ、ありがとう」


オレ、思わずツバ飲み込む。

視線、変なトコ行ってないよな、誤解されてないよな。


「でさ、これ!」


汗ばんでも大丈夫なように、キモく思われないように手袋をした手で持っていたチョコを佐藤さんに差し出す。


「ええ??」


そりゃそういう反応だよな!でも、ここ勝負だ!! オレ!!


「ん、もちろんオレ!佐藤さんからチョコ貰ってないよ。安原とかとは違うから。だからこれはオレの意志! 本命チョコです!!」


こう言って思いっ切り下げた頭に佐藤さんの言葉の鉄槌が落とされた。


「あの、桜井君、ごめんね。私、友チョコあげた人にも言っているのだけど、お返しとかそういうのも関係なしで、ホワイトデーお断りしてるの。ごめんね、だから…」


下げた頭からの目線でカノジョの手が小刻みに震えているのが見えた。


オレは何て事をしてしまったのだろう!!



でもその時、声がした。


「美咲~!! 安原君が探してるよー! 早く行ってやんなよ!」



ああ、結局!! この女もそういう事か!!



オレはクルリと踝を返して無言で歩き始めた。


誰が振り返るものか!!



--------------------------------------------------------------------


 千景から背中を押されて安原君の前に突き出された。



「ったく、皆で探してたんだぜ! もう授業始まっちまう! もういい加減、キモい虫つかねえようにオレと付き合えよ」


「キモい虫って?」


「皆まで言わせんなよ。それよっか待たせられたからよぉ」


と安原君、私の肩を掴んで目を半閉じにして顔を近付けて来たから、思いっ切りぶっ叩いてやった。


「ああそう!! 『キモい虫』ってアンタの事ね!! よ~く分かった!!」


 安原をそのままうっちゃって置いて花壇に駆け戻ってみると、持ち主を無くしたチョコが誰かの気遣いでジョウロの上にそっと置かれていた。


私はその包みを胸に抱きしめると、何かに押されて涙をこぼした。



--------------------------------------------------------------------


所詮、女と言うのはこういうものなのだ。

でも男だってそう!


見目麗しければ、胸が豊かなら

目が行く。


口でならいくらでもキレイ事は言える。


オレが正しく(まさしく)そうじゃねえか!!


もう中三なんだし、いい加減“厨二”は卒業しなきゃ!



『洋輔! フロ空いたぞ!』


オヤジの大好きな大滝詠一さんの『カレン』の唄を調子っぱずれに歌われて、オレのセンチメンタリズムは台無しだ。


それでも…オレの耳にもタコの“その唄”がお風呂場のエコー効果か、頭の中で鳴り響いて…

あの唄に照らし合わせたような妄想を作り出す。


まだまだ厨二から抜け出てないなと、浸かっているお湯でジャバジャバ顔を洗った。



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桜井くんの事、なんとなく気になってた。


目で追ってる…事もあった。


だからホワイトデーのチョコを差し出されて


『本命です』って言われて


戸惑い断ったけれども…


そのチョコと添えられた手紙が今、私の目の前にある。


部屋の鍵を閉めて


ドキドキしながらその可愛い封筒を開けた。



。。。。。。



佐藤美咲様


突然の、予告無しの告白をお許し下さい。


僕らは教室ではロクに接点も無いから…


一軍とか二軍とか三軍とか

ホントめんどくさいです。


でも僕は確信してます。


佐藤さんがそんな事にこだわる人では無いって!!


僕には、あなたが“今”に居心地の悪さを感じてるって、思えてしまうのです。

安原たちと話してるあなたがそっとため息をついたのを見てしまったから。


ずいぶん前からあなたの事を目で追ってました。


ストーカーみたいですみません。


でも、あの一昨年の夏の日。一年生の夏期登校日に、久しぶりに出会った花壇のひまわりたちにお水と一緒に振り撒いていたあなたの笑顔に心奪われてしまったのです。


そのとても幸せそうな笑顔でひまわりたちを慈しんでいたあなたに釘付けになってしまったのです。


あなたは毎日毎日、花壇のお世話をしていますよね。


でもピアノに向かう時のあなたが、綺麗に洗い清められ、丸く摘まれた爪の指先で、僕などは到底弾く事のできない『イタリア協奏曲 第1楽章』を繰り返し繰り返し練習していた事も見ていました。


すごいなあ!!って思いました。


そして、あなたに惹かれました。


僕は“厨二”を患ったキモいヤツかもしれません。


でも、あなたなら…


例え、僕の事を受け入れるつもりが無くても

『サクラチル』(笑)だったとしても


『身の程しらず』なんて言う事は無いと信じるから


手紙を書きました。



あなたが好きです。



                                 


                  桜井洋輔



。。。。。。




ポーン!って


青空に


心を投げ出された気がした。



心は白いボールになって


あなたへ…桜井くんに向かって落ちて行く。



もう遅いんだろうか??


背を向けて去って行った“桜井くん”は


“桜井君”になってしまったんだろうか



考えたら


ぶわっと涙が溢れて


エンエン泣いてしまった。



--------------------------------------------------------------------


校門の脇の桜の木の下に…目で追っていた人が居た。


きっと、めでたく付き合う事になった安原を待っているのだろう。


無理に気付かない振りを装って通り過ぎようとしたら詰襟の裾を掴まれた。


半ば引きながら振り返ると、佐藤さんは凄味のある充血した目でオレを睨んでいた。


で、昨日のオレみたいに言った。


「ちょっといい?」



ひょっとしたらオレは一軍…安原辺りから制裁めいたものを受けるのかもしれない。


厨二の愚かな自信かもしれないけど、オレ、結構“細マッチョ”だし、力の限り跳ね飛ばしてやろうか…でも、もし佐藤さんに迷惑が掛かるなら…

もしかして佐藤さんがオレの思っているような人じゃなく、オレをなぶり物にするような人だったら…

それもそれ!

殉じよう。それが厨二の意地だ!


校舎の陰に引っ張り込まれ、いよいよかと覚悟したら


誰も居なかった。


目の前の佐藤さんはすーっと息を吸い込んだ。


「サクラチルなんて、桜井くん、気が早過ぎ! でももし、あなたの桜が散ったとしても私がサクランボの桜を咲かせるよ」


「サクランボの桜?」


「うん、ウチのマンションの庭に植わってるからよく知ってるんだ! 白いお花でね。遅咲きなの」


オレはまだ…桜井さんの心を図りかねていた。


「それって??」


尋ねると、佐藤さんは一所懸命に笑顔を作った。


「私の名前は美咲だよ! ふたりでゆっくりゆっくりお花を咲かせよう!そして…」


そう言って佐藤さんはオレの腕を巻き込んで隣に並んだ。



「ふたり、サクランボみたいにペアになって色づこう!」



『言われたオレ』と『言ったこの子』


勢い余ってくっ付いて




すぐさま赤く“色づいた”






                               おしまい


『ラブコメを地でやらされる不条理』の『桜井洋輔くん』と『佐藤美咲さん』が不幸フラグしか立たないので、可愛らしく幸せな物語を書いて見たくなりました。



タイトルを見て、万一、『スケベ』を期待なさった方がいらっしゃったら…ごめんなさい<m(__)m>




ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!<m(__)m>




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[良い点] はい、タイトルにつられますた!www  いやー、若いっていいですね〜♪ (*´艸`*)
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