第六話
『お父さんに捕まっているみたいだね。帰ってくるついでに病院内での放送かけて。よろしく。』
『わかりました。営業時間と場所だけでいいですよね?』
『いいよ。』
『了解です。』
頻繁に連絡が来るわけではないが、ちょくちょく結さんから連絡が来るようになった。こっちから連絡することはまずないが、自分のスマホに通知が来ることがあまりないので少し嬉しい。まあ、送られてくるのは業務連絡ばかりだが。
連絡先は100人以上持ってはいるのだが中学高校大学の友達とは連絡を取ることはない。もともと人付き合いがいい方ではないし、大学時代もレポートの期限や、提出物の内容など業務連絡でしか使っていなかった。今もあまり変わってはいないのだがスマホゲーム以外でスマホを開く理由があることが嬉しかった。
「結からかい?」
「そうです。病院内で花屋の宣伝をしてほしいと言われまして。放送してもよろしいでしょうか?」
「そうかそれなら、うちの秘書に頼もう!!君とはもっと話したい!!おーい!!館内放送で花屋のこと宣伝してくれ!!」
「はぁーい。」
扉の奥から声がする。まぁなんとかなりそうだ。とは言ったものの、いい加減戻らなければならない時間にはなっている。
「しかし、もうそろそろ戻らなければいけないので失礼しようと思います。話はまた今度でお願いします。結さんも交えてお話ししましょう。」
「そうか。仕方ないかな。残念だがまた今度、時間のあるときにでも色々話させてくれ。君には色々と期待してるから。君に頼みたいことが色々あってね。面白い発想を持っていて、なおかつ、人を見る目もある。負担をかけることもあるかもしれないが結のことよろしく頼むよ。」
「はい。こちらこそ全力を尽くします。よろしくお願いします。」
頼みたいことがある、というのが引っかかったのだが、時間的に教えてもらえそうもなかったので聞くのは今度にしよう。何より時間がない。開店してから1時間も結さん一人に任せてしまっている。はやく戻ってこいとかの連絡がない分、後で何言われるかわからない。急がなければ。
『皆さーん!!今日から医院長の娘さんのお花屋さんがオープンしまーす!!是非足を運んでみてくださーい!』
随分と明るい告知だった。あの秘書の方、かなり明るくて有名らしい。医者で秘書をつけるのはなかなか珍しいらしいがそれほどお父さんは忙しい人なんだろう。一緒に仕事していて楽しそうではあるがしんどそうでもある。二人の性格だからこその相性があるのだろう。てか、今の放送の内容には頼まれていた営業時間、場所が含まれてはいなかった。確かにこういうことを言って欲しいとは言っていなかった。まあ、場所は病院内の駐車場の一角だし、営業時間は来ればわかる。問題はないだろう。結さんに今戻ることを連絡しよう。
『今から戻ります。館内放送は秘書の方がしてくれました。』
『そう。まだ人来てないからゆっくりしてればよかったのに。』
『お父さんなにか話したいことがあるって聞いてたから。』
『それはまた今度、ということになりました。』
メッセージを送っているともうすでに花屋付近についていた。
「遅くなってすいません。」
「別に。人来なかったからいいよ。」
そう言いながら、レジ横で本を読んでいた。この風景も見慣れてきた。絵になる。最初に会った時は殺風景だったが、今は花に囲まれているため、絵画のようだった。
「絵になりますね。」
「そう?ありがと。褒めても給料は上がらないからね。」
「いいえ、思ったことを言っただけですから。そんな腹黒くないですよ。」
「そう?むずかしい顔してること多いから、色々と考えてるのかなと思ったから。給料とかに不満があったら言っていいからね。」
「ないですよ。満足してます。」
「ならよかった。改めてよろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。」
まだお客さんが来たわけではないが、家からも近いし労働環境は整っている。二人しかいないことは、最初の準備は大変だったのだが、これからバイトも募集するだろう。不満は現状ない。お父さんに挨拶まで行ったし、母のメンツもある。すぐにはやめられる環境ではない。
「そうだ。お願いなんだけど、そこにある花一色、病院に飾ってきてくれない?せっかくの太客が目の前にいるのにもったいないじゃない。お金は後でお父さんに請求しておくから。」
「は、はい。わかりました。病院側の許可は取れてるんですか?」
「さっき、連絡してOKだって。花瓶も用意してもらえるらしいから。」
「わかりました。行ってきます。」
「いってらっしゃい。」