第五話
「真由さんがきましたよ。」
「失礼します。真由です。入ります。」
「おおー入れ入れ。じゃあ真由にもコーヒーを。」
「了解しました。真由さんは確か砂糖とミルクも必要でしたよね?」
「はい。よろしくお願いします。」
「では、改めて長女の真由だ。ここで産婦人科として働いている。真由も、こちらが佐々木さん家の寛くんだ。今日オープンの結の店で働くことになっている。」
「そうなんですか、、、よろしくお願いします。」
「あ、こちらこそお願いします。」
お姉さんはあまり自分を歓迎しているようには見えなかった。そもそも人付き合いが苦手なタイプだったのかもしれなかったが、どこか冷めた目で自分を見てきた。目の前にいるやつなんかよりもっと別の誰かを見ているようだった。
「挨拶も済んだので、すぐに診療に戻ります。失礼します。」
「あれ?コーヒーはいいのですか?」
「すいません。すぐに診療があるので。」
そういってお姉さんは出て行った。この姉妹は・・・
「すまんなぁ。どうもうちの姉妹は人見知りが激しいらしくてなぁ。早くに母親を亡くしているからかもしれない。真由に関してはあまり手のかからない子だったし、結のことしっかりと面倒を見てくれる優しいお姉ちゃんだったけどね。まっまぁ、暗い話は置いておいて、今日から結のことよろしく頼むよ。あの子はああ見えても優しい子なんだ。」
「はあ、そうなんですか。」
「君から見てどうだいあの子は?お母さんから君は人を見る目があると聞いていてね。人をみすぎて人間不信なところが惜しいところらしいけど。」
余計なことまで言ってしまうのが母の悪いところだ。人を見る目があるとだけ言えばいいものを、短所まで言ってしまう。母らしいと言ったら母らしい。正直嘘をつくのは得意だがお父さんは自分にはいい印象があるっぽいので正直に話した方が今後の関係性で役に立つかもれない。変に嘘をつく方が後々めんどくさそうだ。
「そうですね。正直ここまでの印象はあまりよくはないです。」
「おう・・・実の親を目の前にして結構なこと言うじゃないか。」
「いいえ、下手に嘘ついてもいいことはないかと思いまして。」
「そうか。なら続けてくれ。」
「人見知りもかなり激しいですし、態度はそっけないです。質問しても一言しか帰ってきません。本当に接客業をしようとしている人なのかなって思いました。それと、」
「も、もういいよ・・・いいところはなかったのかな?」
「もちろんありましたよ。少しばかりの気遣いも見えました。特に結さんは見えないところでの努力があるんだと思います。努力を人に見せたくないといいますか。開店にあたっての準備は何も店頭のセッティングだけではありませんし、様々な書類の準備は全て自分でやってたみたいですしね。」
「そうかそうか。」
お父さんの顔がかなり満足げだった。ニヤニヤしてる。
「何より結さん綺麗ですし。」
「あれ?寛くんもしかして結のこと狙ってる?」
「そんなわけないじゃないですか。それに自分には・・・」
「そうなんだよね。まあ寛くんがいいならいいんだけどね。」
「どこの馬の骨かわからない人間に可愛い娘やってもいいんですか?しかも結さんの気持ちも聞かなくても。」
「いいの、いいの。多分君は結が好きなタイプの人間だから。君を採用したのもその証拠だよ。男の人となんか話しているところを私は見たことないし、色恋沙汰の噂も聞いたことないしね。どこの馬の骨かは、君のお母さんからいろいろ相談を受けていたから分かっているつもりだよ。お父さんとも仲がいいから君なら任せられると思ったんだけど、君には君の事情があるからねぇ。」
お父さんは自分の顔を見ながらニヤニヤしている。そんな話をしていると、結さんから連絡が来た。