第四十四話
翌日。退院の時、日向さんや中村先生、他数人が見送ってくれた。
「皆さんありがとうございました。お世話になりました。」
「こちらこそありがとう。決して無理しないこと。まあ佐々木さんがいるから大丈夫だとは思うがね。」
「それと日向さん。正式に依頼を受けたいのですが。」
「そうかい。なら再来週からでいいかな必要なものがあったら言ってくれなんでも用意するから。」
「ありがとうございます。」
先に車の中で待っていた母さんが自分を迎えに来た。
「ほらいくよ。今日の午後には帰ってくるから。」
「わかった。」
体はまだ痛い場所はある。でも、少しだけ体は軽かった。
「思いの外元気だね。体は痛いはずなのに。」
「彼にとって体の痛みなんてどうでもいいんです。怪我はすぐに治ります。でも、精神的な傷は自分の過去と一緒に一生背負わなくてはいけないものだと彼は知っている。それに今から帰ってくるのは彼の傷を癒してくれる人たちです。彼も今まで孤独と戦ってきた者ですから。1人でないということの価値がどれほど大きいものなのか知っています。」
「随分と大人びた子だね。まだ22歳だろ。精神はまるで50歳みたいだよ。」
「そうでもないですよ。彼の精神はまだ子供です。だから、頭を使って自分のことを守る。自分が傷つくのが怖いから。かなり身勝手な子供です。でもだからこそ少し人より言葉に力があるんだと思いますけどね。」
「今日はいつも以上に冷静に彼のこと見てるじゃないか。彼のことが少し精神科の医師として羨ましいのかい?」
「いいえ。彼のことを羨ましいと思ったことはありません。むしろ、ああなりたくはないです。自分は耐えることができそうにありませんから。」
「そうかい。なら自分でできることをしようか。」
「そうですね。」
5日ぶりに家に帰ってきた。家の中は意外にも片付けられており母さんが頑張ってくれていたのだなと少し感動した。よく見ると母さんの手は少しあれていた。
しばらく、荷物の整理をしているとチャイムがなった。帰ってきたのかな?玄関に向かうと鍵が開いた。
「おかえりな・・・。」
そう言いかけると同時にお腹に強い衝撃が走った。
「おかえりじゃないもん。お兄ちゃんが死んでたらやだもん。心配したから。」
愛が自分に向かって勢いよく飛びついてきた。愛は自分よりかなり小さいくて軽いので吹っ飛ばされることはなかったが、流石にちょっと痛かった。
「ごめんよ。」
そう一言言って愛の頭を右手で撫でた。愛の後ろにはもう1人鼻水を垂らして泣いている真心がいた。愛より身長が高くスラッとしていて落ち着きのある印象だ。愛が抱きついているから我慢している感じだった。真心に手招きをすると愛の上から自分に抱きついてきた。
「ばか。」
と、ひとこと。自分の肩に顔をうずめて泣いていた。
「真心、愛、ここ玄関だから。」
「うるさい。少し黙って抱きつかれてろ。」
愛に言われ仕方ないく2人が離れるのを待った。少しすると遅れて父さんがきてようやく2人は離れてくれた。
「じゃあ改めて、おかえりなさい。心配かけてすいませんでした。」
と、3人に向けて頭を下げた。
「そうか。退院できたんだな。よかった。今回のお前の行動は英断にはなるかもしれないが我々からすれば決して褒められることではない。ちゃんとこの2人に説明すること。誠心誠意をもって謝罪をしなさい。まあ、とにかくお前が生きていてよかった。ただいま。」
父さんは自分の頭を撫でて家の中に入っていった。少し厳しいようだが自分に対しての愛情を感じられるものだった。
父さんが家の中に入り、残ったのは真心、愛、自分の3人。兄弟でありながら恋人でもある3人。なんか気まずい。1ヶ月以上も合わなかったり、連絡を取らなかったのは初めてだったから。
「じゃあ、心配させた罰として片付けるの手伝ってね。」
そういうと愛は自分の部屋に荷物を置きにいった。愛に続いて真心も、
「手伝ってね。」
といって自分の部屋に向かった。
うちの家族の性格は極端で、母さんと愛が似ていて、父さんと真心が似ている。人と話していても明るく目立つタイプの愛とあまり自己主張しなくておとなしいタイプの真心。タイプが違うからこそ自分たちはうまくいっていると思う。




