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第三十三話

お店も軌道に乗り始めた開店から3週間後の4月の下旬。あれだけきれいだった桜も散り始めていた。客足もいつも通りほとんど病院関係者かお見舞いの人。自分も仕事に慣れてきて余裕ができてきた。結さんも最初の頃とはまるで別人のようになって、接客業をする人の顔になっていた。動画サイトで勉強していた甲斐あって自分の紅茶も人に出しても恥ずかしくないレベルまできていると思った。おかげでここ1週間めちゃくちゃな量の紅茶をのんだとおもう。もともと苦手な紅茶もたくさん飲むとそこそこ味に慣れてきた。


そろそろ店を閉めようかという時に、1人来店してきた。


「結、いる?」


と一言。久々に少し悪寒が走った。振り向くと、結さんのお姉さんだった。


「真由さん、いらっしゃいませ。結さんなら裏にいます。」


「あっそ。わかったわ。」


真由さんの目はあからさまに敵意むき出しだった。最初に会った時よりさらに鋭い顔で自分のこと見ていた。別に何もしてはいないし、嫌われる理由もわからない。内心複雑だった。数分後に裏から真由さんは威圧感たっぷりで出て行った。また睨まれた気がする。閉店準備をしていると、裏から結さんが出てきた。明らかに落ち込んでいる感じで。


「お姉さんに何か言われましたか?」


考え事をしていたのか、突然の自分の質問にビクッとしていた。


「なにもないよ。大丈夫。」


嘘をついているのはバレバレ。これは何か言われたのだろう。そういえば自分は結さんとお姉さんの関係性はあまり知らない。あまり家庭内の話をズカズカ聞くのも失礼だろうと思っていたが、ここまで敵意むき出しで見られたり、結さんの落ち込みようを見ていると気にはなる。


この日以降、閉店間際になると必ず真由さんが来店するようになった。そして、毎回自分を睨んで結さんの元に向かう。結さんもあからさまにおかしくなっていた。就業中もミスが増え、せっかく増えてきた笑顔も無くなってしまっていた。寝れていないのか目の下に隈が目立つようになった。心配になって声をかけるが大丈夫の一点張り。失礼だと思いつつも少し核心に触れるようなことを聞いてみた。


「お姉さんと何かありました?」


結さんは何も答えない。聞こえてはいるが答えたくないのだろう。ここで自分は冷静さを欠いていたと思う。明確に向けられる敵意に少しイライラしてしまっていたのだと思う。


「何も言わなかったらわからないじゃないですか。ここ最近の結さんみたら誰でもおかしいこと気付きますよ。今まで全くミスのなかった結さんが会計のミスに始まり、花束の注文のミス、発注のミス、不注意で花瓶も割りましたよね。何かあったなら相談してください。自分も力になりますから。」


「ああ、もう。うるさいうるさいうるっさい。大丈夫って言ってるでしょ。話しかけないで。」


初めて結さんに怒鳴られた。言った本人もやってしまったと言ったような顔をしていた。怒鳴られて自分も冷静になった。


「すいません。デリカシーのないこと聞きました。少し外の掃除してきますね。」


この場の雰囲気に耐えられなくなって精一杯の作り笑顔をしてその場を去った。この日はそれ以降会話はなかった。



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