第三十話
「両親と妹のお葬式の時に寛をどうするのかを親戚で話し合ったらしいわ。多額の保険金が入るわけではなかったから親戚中で幼い寛を押し付けあったの。そこで寛を引き取ったのは私の親友で寛にとって2人目の母になる渡邉小百合だった。」
両親は火葬して散骨、香は保険金を使ってある会社に頼み骨から琥珀を作ってもらいペンダントにした。いつでも自分と一緒にいれるように。
2人目の母は1人目の母のいとこだった。お葬式まであったことはなかったけど葬式の時はずっと自分の隣にいてくれた。自分が泣いた時には優しく頭を撫でてくれた。優しかった。母さんは結婚していたけど、子供に恵まれなかった。2人揃って不妊治療をして、ようやくできた赤ちゃんを流産してしまった直後だったらしい。本当の自分の子供のように自分を愛して、育ててくれた。
「小百合とは中学校からの同級生で大学までずっと一緒にいたの。学部も同じ看護学科で部活は美術部。私は卒業後、看護師になって、小百合は数々のコンクールで賞をとっていたからその才能を認められて画家に。結婚しても家が近所だったからよくあっていたわ。私が長女を妊娠したことも自分のことのように喜んでくれた。だからこそ、小百合たちに子供ができないのが私も辛かった。」
うちには、自分を挟んで2人姉妹がいる。もちろん自分とは血は繋がっていない。姉は一つ上、妹は一つ下。2人の母さんが花のことが好きだったということもあって、姉はタンポポの花言葉から真心、妹はマリーゴールドの花言葉から愛という。今は父さんと一緒に海外へ行っている。
「うちの子供に名前をつける時に相談に乗ってくれたのも小百合。もし男の子ができたら、寛って名前をつけようって話していたの。そしてこの子が小百合の家に来たの。寛が小百合たちの家に来る時に、精神科の先生の勧めで名前を変えることを裁判所に許可を取りに行った。あの事件は幼かった寛にはあまりにもショックな出来事。今後トラウマになってしまう可能性だってある。だからこそ、全く違う人間になってもらうために名前を変えることを勧められたの。そこからこの子は正式に渡邉寛という名前の人間になったわけ。」
自分の名前は白い紫陽花の花言葉から来ている。2人で話していたもしもが自分になったわけだ。ちなみに渡邉は父型の姓だ。
「もちろん名前が変わったからと言って、そう簡単に過去の清算ができるものではなかった。何年も精神科に通ったり、一緒の時間を共有したり。時間がものすごいかかったわ。真心と愛ともよく遊んでくれた。小百合が『1人より2人、2人より3人。この子の傷を癒すためにはたくさんの人の協力と愛とつながりが必要なの。真心ちゃんか愛ちゃんが香ちゃんの代わる存在になってくれれば私は嬉しいんだけどね。』ってよく言っていたわ。父親同士も仲が良くて、2人でよく飲みに行ってたらしいわ。」
2人目の父の渡邉亮介は医者だった。母さんの就職先の大学病院に新人医師として勤務していた。年齢も2つ上というだけで、母さんの持ち前の明るさと人懐っこさですぐに仲良くなった。今の父さんは2人目の母さんと仕事の依頼で出会った。
「歳も近かったし、念願の子供と男の子だったから寛の事2人でとっても可愛がっていたわ。嫉妬しちゃうくらいにね。この子が野球を始めたのは2人の影響ね。でも幸せは長くは続かなかったの。月日が流れて寛がようやく壁を乗り越えかけた中学校3年生の8月だった。県大会の応援のために2人が試合会場に向かっている時だった。」
この時にはすでに複数の高校から声がかかっていた。進学先も決まっていて、大会に向けてかなり熱を入れていた。父さんも母さんもそんな自分を応援したくて病院を休んでまで応援にきてくれるということだった。




