第三話
次の日にはよろしくお願いしますと結さんには返事をした。ただし条件として、自分の他の仕事をできるだけ優先させてもらった。常に仕事があるわけではないし、家でできるものばかりなので問題はないだろう。母さんにも外に出なさいと言われたのでちょうどいい。何より必要とされたことが嬉しくてたまらなかった。
日を追うごとに店の内装はできてきた。次々に送られてくる大きな荷物を自分が店の中に運び、結衣さんがどこに置くのかを決める。自分は結さんの指示通りに物を運んでいった。最終日の7日目には全体の雰囲気ができてきた。花壇の配置や、種類別に綺麗なグラデーションになるように並べていった。背景が黒一色なので花の色が良く映える。なんとか店らしくなってきたが、正直まだ片付いていないところの方が多い。この時点で日はもう傾き始めていた。時刻は6時を少し超えたくらい。
「後は私が少し調整するから帰っていいよ。」
「いやまだ終わってないので手伝います。せっかくここまでやったので最後までやらしてください。」
本当は帰りたいのだが、ここまでやったのに最後までやらないのは、プライドが許さなかった。2時間後にはほとんど片付き、なんとか間に合いそうな雰囲気になってきた。
「もうこれくらいにして、もう8時だから明日からちょっとずつ整理していくことにしたから。今日はもう帰っていいよ。」
「わかりました。」
「明日は10時オープンだから9時にはこっちにきておいて。制服はこっちで用意してあるから、出勤したら奥の部屋で着替えて。」
「わかりました。明日からお願いします。」
「ん。」
話し方は素気なかったが結さんはどこか嬉しそうだった。自分の店が完成して嬉しかったのだろう。
翌日、少しの緊張感を持ちながら、店に向かう。朝食もしっかり食べたし、睡眠もしっかりとった。トイレも済ませ、コーヒーと栄養剤も飲んできた。何かが始まるのはいつも緊張する。緊張しいの自分を落ち着かせるため、8時半には家を出た。季節的なものもあり桜が咲いている。桜の好きな日本人は多いだろう。かわいい花の割にどことなく色気がある。幼い顔なのに年齢が30代みたいな感じだ。キャバクラもロリ顔の方が、人気が出るらしい。大学時代の友達が言っていた。大人の店で、幼い感じの子。雰囲気とあってないというのもあって、ギャップにやられるのだろう。ギャップに弱い日本人は多い。私にしか見せてない顔が好きみたいだ。まあ、ギャップを認識できるようにしている人間は計算高い人が多いので、自分は逆にひく。普通に怖い。
桜の話に戻ろうか。今年は4月に雪が降るなどして、開花がかなり遅れた。今朝のニュースでは例年より1週間ほど遅れているらしい。異常気象だと騒ぐ人もいるが自分的には大した問題ではないと思ってしまっているところもある。気候の変動なんか長い歴史上何度もあっただろう。その時代に生きているだけ、それだけのこと。人間の進化も自然の一部なら、科学の発展も自然なことなのだろう。自然についていけていけない生物が絶滅していく。少し冷めた残酷な考えだろう。命を軽視するわけじゃないが、生きている以上仕方ないことだと思う。こんなことを考えながらゆっくり通勤路を歩く。