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第二十六話

準備が終わり、11時半。中村先生が家まで迎えに来てくれた。


「寛くん、迎えに来たよ。」


「すいません、わざわざ。今すぐに向かいます。母さんいってくるね。」


「いってらっしゃい。中村先生、この子のことよろしくね。お医者さんいっぱいいるから怪我はしないと思うけど。寛は無茶しないこと。わかった?」


「大丈夫ですよ。自分がついてます。」


「あら、頼もしい。よろしくお願いしますね。」


「中村先生早く行きましょう。みなさん待ってます。」


「そうだね。じゃあ行きますか。ではお母さんお子さんお借りします。」


「いってらっしゃい。」


そういって家を出た。車中では母さんの話で盛り上がった。


球場に着くと早速、日向医院長が出迎えていた。


「寛くん、待ってたよ。今日1日よろしくね。」


「日向医院長も今日うちに来るんですよね?」


「そうだよ。お邪魔するね。夕飯楽しみでね。寛くんのお母さんがいつもうちの息子のご飯は美味しんだよって自慢してるから。」


「医院長の要望が聴けなかったんで中村先生のリクエストで唐揚げなんですけどいいですか?」


「医院長はやめてくれよ。日向さんくらいにしてくれ。知らない仲じゃないんだし、仲良くしようよ。唐揚げね。良かった。好きだよ唐揚げ。今日ご飯抜いてきて良かったよ。楽しみだな。」


そういって、中村先生の肩に腕を回した。


「そうですね。自分も楽しみです。」


中村先生は3年前に医学部を卒業後すぐにこの病院にきたため、日向さんより自分の方が歳が近い。歳の差を感じさせないこの仲の良さは日向さんの人柄だろう。ちなみに中村先生を日向さんに推薦したのは、うちの母さんらしい。自分は中村先生が大学生の時からの付き合いで、大学在学中に色々と面倒を見てもらっていた。その関わりもあり、母さんは中村先生を日向さんに推薦したのだと思う。故に、中村先生はうちの母さんに頭が上がらない。就職先を進めてきてくれた人だからだ。すぐに就職先が決まって、じっくりと論文を仕上げることができ、医師免許の勉強も捗り、見事一発合格だったらしい。


「大丈夫ですか?何も食べてないって。これから運動するんですよ?」


「問題ないよ。朝はもともとスムージーしか飲まないから。」


どこのOLだよとツッコミを入れたくなるが、お医者さんが健康に気を使うのは当たり前のことなのかもしれない。お医者さんが不健康なら患者さんに対して説得力がなくなる。


「そうなんですか。でもしっかりと水分補給だけはしてくださいよ。まだ4月なのにかなり暑いですから。」


「わかってるよ。今日倒れてしまったらせっかくの寛くんの料理が食べられなくなるからね。」


そういって自分の方に向けてウインクをしてきた。綺麗な、もしくは可愛い女の子のウインクだったらご褒美だが、いい歳のおじさんのやつはちょっと・・・


「なら準備しよっか。もうみんなグラウンドで待ってるだろうから。」


そういうと、せっせとグラウンド内に入っていった。グラウンド内に入ると、見たことある顔がちらほら。あまり話したことはないが、日向さんとよく一緒にいるところを見られていたり、花屋に来店してくださった人もいる。自分が打ち解けるのはあまり時間がかからなかった。


「寛くんってさ、甲子園出たことあるんだろ。」


野球好きが集まると当然この話題は出てくる。全国で野球をしている人にとってはそれほど憧れの地なのだろう。改めて甲子園に出るってことはすごいことなんだと実感した。


「21世紀枠でしたし、3回戦で負けてしまいましたけど。」


「でもすごいよ。実は実際に見てたんだよ。テレビでだったけど。近所の高校が甲子園にでるってだけでかなり興奮してさ。応援してたんだよ。」


「ありがとうございます。改めて今日はよろしくお願いします。」


一通り会話を済ませ、アップを始めた。


今日の対戦相手は、近所の商店街のチームらしい。久々に野球ができるということで自分はかなり興奮していた。しかし、無理はしないようにと母さんから念押しがあったため、投げるのは80球前後、全力投球はなるべく避けるようにしなえれば。


試合は進み、6回から自分がマウンドへ。そこそこ打てれてしまったものの、試合には勝つことができた。


「いやー、寛くん大活躍だったねえ。」


ニヤニヤしながら日向さんが近づいてきた。


「みなさん上手でびっくりしましたよ。自分も打たれてしまいましたし、本当に助かりました。」


「そうだろう。なぜかうちの病院には野球好きが集まってね。みんなそこそこの高校で真剣に2年半野球してた人ばかりだから。」


「いや、日向さんが面接するときに野球好きかどうか聞いてるって、中村先生から聞いたことありますよ。それで合否が決まることもあるらしいじゃないですか。問題にならないんですか?」


「あらバレてたか。まあいいのいいの。経営者は私だしね。寛くんもわかっているだろうけど組織を動かすにはみんなに何か共通点があることが望ましいでしょ?目標とかそんな堅苦しいものではなくて好きなスポーツがうちの病院での共通点なわけよ。長く一緒にやるには硬い共通点では長くは持たないからね。自然に会話も増えるし、先生の連携もうまくいくのよ。」


日向先生の言うことはたまに芯をくっていることがある。確かにこの病院の先生方は仲が異常にいい。

「そういうものですかね。自分はあまり会社の方に行かないのでわかりませんけど。経営自体は他に任せてますし、うちがそういう組織だったら嬉しいですけどね。」


「寛くんそろそろ。君のこと送らなきゃいけないから。」


「わかりました。すぐに向かいます。」


中村先生に呼ばれ、病院の先生方、試合相手の方々に挨拶をして一足早く家に帰った。家に着いたのは、5時半ごろだった。


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