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第二十話

ふと時計を見ると時刻は8時をまわっていた。いつもなら家に帰り、料理を済ましているところ。話に夢中になりすぎて時間を忘れていた。家で待っている母は怒っているだろう。宅配ピザでも頼んでいてくれるとこれから帰ってから料理しなくて済むから助かるのだが。


「すいませーん。寛いますか?」


聞き慣れた声が店内に響いた。なるほど、これは予想外の行動だ。前々から店に行きたいとはいっていたがまさか本当に来るとは思いもしなかった。一番反応に困るパターンのやつだ。学生の頃体験した授業参観の気分。生徒側から見ると親が来るのはとても嫌な気分になる子供も少なくないだろう。学生のころ、真面目な方ではなかったので親がいても授業中寝るくらいの度胸はあったのだが、真面目に働いているところを見られるのはなぜか恥ずかしい。


「母さんなんできたのさ。ピザでも頼んでくれればよかったのにさ。てか、ご飯もう食べたの?」


「あっ、寛。遅い。お腹すいた。早く帰ってきて、料理して。今日は和食の気分。トンカツ食べたいトンカツ。」


よりによって時間のかかる和食。しかも、トンカツだと。今から帰って作ったとしても、9時半になってしまう。無理だ。食べたいものを言ってくれるのはメニューを悩まなくていいのだが時と場合を考えてほしい。作る方にも配慮してほしいものだ。


「お母さん、初めまして。日向結と言います。」


「あっ、結ちゃんじゃない。実は初めましてじゃないのよ。覚えてないのも無理もないけれどね。まだ結ちゃんが2歳だったから。けど、お父さんとは頻繁にあっているのよ。」


「はい。父から聞いています。」


「ところでどう?うちの息子。そこそこ使える人材だとは思うんだけど。」


「はい。とても助かっています。」


「そうでしょう。優秀なのよこの子。まあ器用貧乏なのが玉に瑕ではあるんだけどね。」


正直やめてほしい。自分の目の前で親が自分のことを褒めるのは。恥ずかしいことこの上ない。親バカ丸出しではないか。


「やめてよ、母さん。恥ずかしい。」


「あら、恥ずかしがらなくてもいいのに。事実だし。褒めてあげているんだから素直に喜びなさい。難しいことではないわよ。ニコッてするだけなんだから。ほら笑って笑って。」


「お母さん、まあそのくらいにしてあげてください。寛くん顔真っ赤にしてますから。」


「あら本当に真っ赤。笑える。普段感情を表に出さないからこういう時に恥ずかしくなるのよ。」


「これでも昔よりはいいだろ。そんなに無表情でもないし、思ってることも口に出すようになってきてるだろ。」


「何言ってるの。まだまだよ、母さんと比べるとそんなの無表情と変わらないわ。思ってることもあんた闇が深くて何考えてるかわからないから口に出してないようなもんでしょ。」


笑顔でなかなか心をえぐってくるではないか。でもあまり嫌な思いをしないのは母さんのマジックだろう。母さんの笑顔には癒しの効果でもあるのかと思ってしまうほどに場が和む。結さんも最初は母さんに対して緊張していたようだが、約1ヶ月の間で見たことのない笑顔をしている。母さんは自分が1ヶ月かかって超えた壁を簡単に越えていった。


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