第十七話
病院を出てすぐに結さんのもとに向かった。時間的にはそんなに経ってはいないはずだが、閉店時間は過ぎている。閉店準備もおそらく、結さんが1人でやってくれただろう。店に着くと案の定閉店準備は終わっていた。
「本当に申し訳ないです。閉店準備結さん1人でさせてしまって。」
「いいよ、いいよ。こうなることは予想できてたから。今度からは事前に連絡してもらうことにするから。重要なことは時間をかけてお互いに話したいだろうし。」
「お気遣いありがとうございます。今日お父さんの連絡先をいただいたので今度からは自分に直接連絡がくると思います。」
「そう。一応私からも念押しで言っておくから。私がいると話しづらいこともあるでしょ。ところで何の話だったの?」
言っていいことなのかはわからなかったがどうせお父さんからは話は行くだろうと思い、隠し事なく話すことにした。
「病院内の子供に向けて週3回授業してくれないかと頼まれました。今の状態では受けられないと一応保留という返事をしました。」
「そうだね。今の状態じゃ受けることは難しいね。正直受けたかったでしょ?その仕事?」
「そうですね。受けたいのは山々ですが、今はこっちが優先です。まだ自分が慣れてないのもありますし、何より結さんに迷惑かけてしまいますから。中途半端なことはできません。」
「私の心配はいいよ。それよりもし受けることになったら、アルバイトの件真剣に考えていかないとね。1週間様子見てから考えてみようか。ある程度候補はあげておいて。」
「そうですね。もう、誰を呼ぶのかは決めてあるので、今度連れてきます。こっちの都合で店には迷惑かけないようにします。」
「まあ、片付けをすぐにでも終わらせて帰りたいんだけどお父さんとながーく話して、手伝ってくれなかったのは迷惑じゃないのかな?」
「すいません精進します・・・」
最後に毒を吐かれたが結さんの顔は笑顔だった。
「じゃあお疲れ様。ちゃんと休んでね。」
「お疲れ様でした。」
そうして今日の営業は終わった。すでに周りは暗くなっていた。これから夕飯を作らなくてはいけないのは少し憂鬱だ。こう言ったときは鍋に限る。材料も家にはあるし、何より切って煮えるの待つだけ。主婦の味方だ。母さんも鍋が好きなので文句はないだろう。
「ただいま。」
「おかえり。遅かったじゃない。お腹すいた。早くご飯。」
お疲れ様の言葉もなしに、すぐにご飯と言ってしまう。なんとも母さんらしい。少し子供っぽいからこそ、いい絵が描けるのだろう。母さんは無邪気という言葉がよく似合う人だ。
夕飯を食べ終わり、後片付けは母に任せ、朝言われていた父からのメールを確認しに言った。メールでは、
『お疲れ。日向さんの所で働いているらしいじゃないか。ママから聞いたよ。くれぐれも迷惑をかけないように精進してな。ゴールデンウィークには帰れるから。それまでにこれ仕上げてくれ。よろしく頼む。寛の料理を2人とも楽しみにしているよ。PS.お土産はそれぞれ買ってくるからどれがよかった言ってくれ。』
メールには添付されたファイルがあった。そこには白黒で書かれた服のデザインがあった。ゴールデンウィークまでというとあと3週間ほどある。まあ問題はないだろう。集中して週末にでもやろう。疲れているし、久々にお酒でも飲んで寝ようと思う。そうして、キッチンにあるウィスキーを炭酸水で割った、少し度数の高いハイボールをコップ一杯分飲んだ。自分はあまりお酒に強くない。少しの量でほろ酔い気分になる。実に気持ちがいい。フワフワするというのが正しい表現だろう。ほどよく酔えるからこそお酒の美味しさに気づくってもんだ。強すぎると酔わない。弱すぎると飲めない。程よいっていうのが大切だ。気持ちがいいのでそろそろ寝ようと思う。