第十二話
お昼時になると昨日同様、看護師の人たちが続々と来店してきた。今度はお医者さんも同行してきた。なにやら診察室に置く花が欲しいらしい。
「あのー、渡辺くん?」
「あ、中村先生。どういったご用件で?」
この人は中村先生。自分が一時期お世話になっていた精神外科の先生だ。
「今度さ診察室に花を飾りたいんだよね。なんかオススメのお花ないかな?」
「なら、結さんに花束作ってもらいましょうか?花粉とか生花だと問題ありそうなので造花の方がいいかと。」
「わかった。結ちゃんに頼んでみるよ。」
そういって中村先生は結さんの元に向かった。店内は看護師さん達でぎゅうぎゅうだった。この病院の看護師さんは11時と1時で昼休みが分かれている。12時台は患者さんの昼食があるので休めない。この病院は小児科がメインのため子供が多くいる。ここに勤めている人は、看護師の資格とともに保育士、もしくは保育士の資格を持っている人が多い。そういった人を積極的に採用しているらしい。さらに、看護師という仕事の都合上、朝早く出勤し、遅番まである。看護師さんも楽な仕事ではない。子供相手になるとなおさらである。奇想天外なことをたまに子供はする。ここに来ることは癒しになるのだという。花の香りにはリラックス効果もある。いい休憩所になっているのなら働いている身として少し嬉しい。
「寛くん、レジ任せるね。」
「わかりました。」
どうやら、中村先生の花束を作るようだ。レジに向かうと中村先生が待っていた。
「渡辺くん、お疲れ様。」
「お疲れ様です。結さんの花束待ちですか?」
「そうだよ。笑顔で受け入れてもらえたよ。前まであまり喋ったことがなかったんだけどね。最近まで他の先生から気難しい性格だからと言われてたから、意外だったよ。」
「そうですか。今でも気難しい方だとは思いますけど。まあ初めてあった時よりは話してくれるようにはなったとは思います。」
「渡辺くん効果かな?前会った時よりはずいぶん明るくなってると思うよ。」
「そんな、そうだと少し嬉しいですけど。」
「渡辺くんも初めて会った時よりかなり変わったよね。」
「それはそうですよ。先生の診察のおかげです。かれこれ5年はお世話になりましたから。」
「こらこら、君も心理学を大学で学んできたんだよね?」
自分は大学はで教育学科だったのだが、時間に余裕があったため、教育学と並行して心理学も中心的に学んできた。大学では時間の許す限り、知識を貪った。それが楽しくて仕方なかった。知識が増えるだけでなく、教育学、心理学を併用することによって人間の深い部分まで見えている気がしていた。成績は決していいものではなかったのだが大学の教授の中ではかなり有名だったらしい。時々自分の話をしていると、ゼミの先生からは言われていた。教授から見ると自分は面白い生徒だったらしい。普通の人にはない着眼点があったのだとか。いわゆる変な子だ。
「そうでした。カウンセラーや精神科の人は感謝されてはいけないんでしたっけ?」
「そう。心の病は結局、自分で治すしかないから。僕らはその手助けをするだけ。自分で治したっていう自信が完治するためには必要なんだよ。感謝されてしまったら僕らにとっては失敗になるんだよ。」
「大学の先生も同じようなこと言ってましたけど、自分はやっぱり先生には感謝しかありませんよ。自分がこう今ここに立っていることができるのは先生のおかげです。感謝されるって大切なことですよ。感謝できるっていうのも治療の効果だと思いますけど。」
「そうかな。ならありがたくその言葉受け取っておくよ。結局渡辺くんは先生にはならなかったんだよね?」
「そうですね。先生になってたらここにはいませんし。教育実習で失敗してそれがトラウマになってまして。」
「いままで多くの時間を使ってきたものが失敗してしまうとそう言ったことになるよね。渡辺くんの性格上、考えすぎちゃうところがあるから。余計に落ち込んで頭から離れないんだろうね。実習の成績はどうだったの?」
「実習先の先生が優しかったのか、最高評価をしてくれたんですが・・・」
「そうだね。自分が失敗だって思っているのに、他の人からいい評価を受けてしまうと自己評価と他者評価の差で悩んでしまうからね。渡辺くん理想もプライドも高いからね。その割には自分に厳しすぎて自分傷つけて苦しんじゃうっていう困った性格持ってるからね。」




