悪役令嬢改めゾンビ令嬢
しん、と部屋が静まり返る。元々ゾイもフィズも、ルスヴィエートだって口数が多い方ではないけれど、ルナマリアは知る由もない。
ルナマリアの頭は完全に停止した。
「……え」
正直に言おう。ルナマリアはルスヴィエートの顔がめちゃめちゃタイプだった。いや、彼女は恋などしたことが無いので、異性にタイプもタイプじゃないも無く、これがタイプなことにも気が付いていないのだけど、どちゃくそタイプだった。すっっっっごく、好きな顔だった。
顔だけじゃない。低いが甘く、心に染み入るような声もタイプだった。身体も。いや、身体なんてそんな服着てるんだからそんなの分かるわけないしそんなこと考えるのはしたないし全然全く一切考えたこともないのだけど、わりとラフな服の上から見る限り細身ながらに結構鍛えられている均整の取れた身体で、まあ悪くないというかむしろ良い。100点満点である。100点満点である(2回目)ので、タイプである。
とにかく、見た目は何もかもドストライクだった。そんなドストライクな男から、今、求婚されている。求婚、されている?
「初めて見たときから俺は貴女のことが好きだった。今も好きだ。結婚してくれ」
求婚されている。
「ずっと妻になってほしいと思っていた」
「えっ」
「だが、気が付いたら7年も経っていた。遅くなってすまない」
「えっ」
「ゾイが材料を集めに行くというので付いていったら、お前の死体があった」
「…えっ?」
「普段は付いていかないので、運命だと思う」
「えっ…♡」
「ゾイに頼んで蘇生してもらった」
「…………ん?」
「結婚してください」
理解が、追いつかなかった。救いを求めるようにゾイを見ると、彼は蘇生というには語弊がある、と言う。
「蘇生というか、君の身体をルスの血を使って組み直したんだ。手足はバラバラにされていたから少々骨が折れたけれど、臓器に損傷は少なかったから、そこは良かったかな。中々腕の立つ処刑人だったみたいだね」
「……え、ええ……?」
「うーん、何というべきかなあ……ああ、そう。フィズは人間と狼と蛇の合成獣、俺の最高傑作でね、どうだい美しいだろう?彼女こそ完璧な生命体、この世で唯一の存在だ。見てくれこの」
「ウウ!」
「あいた」
ぺしりと頭を叩かれて、熱に浮かされたようなゾイの言葉が止まる。叩かれた場所を擦りながら、ええと何の話だったかな、と呟く彼に、フィズは深い溜め息を吐く。
「ああそうそう、フィズは全てギリギリ生きてる素材を使ったから、君みたいなのは俺も初めてで、そうだな……」
虚空を眺め、暫し考え込む。何かを考え付き、ぱっと表情を明るくして、ゾイはこちらを見た。
「ゾンビだ」
にっこり、とまではいかないが、実に晴れやかな笑みである。ゾンビ。ルナマリアは脳内検索を掛けた。
ゾンビ【zombie】:何らかの力で死体のまま蘇った人間の総称。生ける屍。
ふっと意識が遠のいた。ずっと手を握って跪いていたルスヴィエートが、血相を変えて立ち上がったものの、支えるよりも早く横に傾いだルナマリアの身体は壁にぶつかり、そして。
首が落ちた。
「あ」
「むう。やはり完全には付着しないか。腐敗が進んでいたわけでもないのに口惜しい」
「!っ、ウウ……」
三人の声が遠くで聞こえる。ルナマリアは、頭部の無い自分の身体を見上げていた。肩や手首には縫合の痕があり、肌の色は青白く、血が通っているとは到底思えぬ色をしている。ゾイはペラペラと何かを言っていたが、フィズはおろおろしていた。不意に視界が浮上する。持ち上げられたのだ、と気付いたときには、深い海と同じ高さで目が合った。