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第82話 本戦 その7

「…退屈ね」


闘技大会も既に三回戦まで行き、既に一試合目の勝者が決定し、半壊したステージを大会側が雇った土属性魔法使い達が切磋琢磨に修復を行っている時。貴族専用観戦室にて、現人神ショウの隣に腰を下ろしたナビリスの口からポロリと言葉が零れる。


「そうだな」


「そうやのぉ」


彼女から零れた言葉に同意見らしいショウと銀孤も同時に頷く。二柱の神であるショウとナビリスは勿論の事この世界では圧倒的な強者である銀孤からしたら、この闘技大会は何処か物足りないのかもしれない。


「「「「……」」」」


同じ観戦室にて待機している奴隷達にも三名の話し声は聞こえていたが、彼等は何も喋らず、只々おだやかな沈黙が続いた。奴隷達の主人であるショウを筆頭に、鬼のメイド長、と通り名を奴隷達の中で広まったナビリス、そして九本の神秘的な尻尾を持った誰も耳にしたこともない狐族系の種族の銀孤。普段から鍛えられている奴隷達は大会に参加しているどの選手よりも、三名が強いと既に知っている。

ランキャスター王国最強と名高い第三王女エレニールを赤子の手をひねる如く実力を持ったショウ達を。


「そうね…。ねぇショウ、久しぶりにチェスでもしないかしら?」


ほんの少し考えたナビリスからそう隣に座る恋人に声を掛ける。すると、彼女のスカートの中から2色のマスに分かれたチェスボードと、金と銀で出来た駒が入った袋を取り出した。テーブルに乗せたチェスボードは大理石がふんだんに使用され、金銀の駒一つ一つ非常に細かく加工されており。特にキングとクイーンの駒には小さな宝石が埋め込まれた、正に王族の愛用品と言っても過言ではない見事なチェスセット。


「ああ、勿論」


「ルールはどうされます?」


袋から駒を取り出し、マスの上に置きながらルールの確認を尋ねるナビリス。


「そうだな…スピードチェスで勝敗を決めないか?」


「ええ、かまいませんよ」


あっという間に全ての駒をマスに置き終えたナビリスがルールを承諾した。


「じゃあ銀孤、開始の合図を頼む」


姿勢を正し、テーブルに置いたチェス盤に向かい合うように体勢を取ったショウ。彼の隣に腰を下ろしていたナビリスは既にソファーの反対側に設置された一人用の椅子に足を斜めに傾け、背中を真っ直ぐにし座っていた。


「しゃーないなぁ。ほな、はじめ」


退屈そうに大きな欠伸をした美女銀孤が開始の合図を発する。


「チェックメイト」


「負けだ」


「「「「…え?」」」」


開始の合図から数秒後。突如ショウが負けを認めた。思わずチェス盤のマスを見れば全ての駒が移動、又は取り除かれたいた。あんまりの出来事に彼等の様子を眺めていた奴隷達は驚きのあまりに目開いており、口もだらしなくポカーンと開いていた。


「…お、おい。見えたか…?」

「いや…全然見えなかった。一瞬手元が消えたら既に勝負が決まっていた」


入り口の扉を守護するショウが購入した戦闘奴隷の中でも一、二の実力を持つ二人の男が押し殺した声でぼそぼそと話す。


「もう一戦だ」


「ふふ、何回でも相手になりますよ」


ショウとナビリスの二柱は、そんな周りからの視線を気にすることなく数秒で終わるスピードチェスを三回戦が終了するまでやり続けていた。



『続きましては!カサ・ロサン王国からの挑戦者!?非常に珍しい召喚術士、これまでの試合では一歩もその場から動くことなく、易々と相手選手を屠って来たその確かな実力をご覧され!…個人的には仮面の下に隠された素顔も気になります。鉄球使いガーランド選手との対決ではどのような戦い方を見せてくれるのでしょうか、とても気になります!それでは、早速その名を呼びましょう!アルル選手ぅぅ!!』


ショウとナビリスが異次元スピードチェスを嗜んでいる時、闘技場では既にデトロアが破壊したステージは修復され、第二試合目が開始されようとしていた。

先にステージ台へ呼ばれたガーランドは二回戦目とは異なり始めから手に平には鉄球を数個、握っており。風属性の魔力を籠め、何時でも飛ばせる下準備をしている。

対してたった今ステージに上がったアルルは全ての肌を隠す紫色のローブを羽織り、フードを深く被っている。漆黒の仮面を外す瞬間は無く。大会の主催者側も彼の素顔は知らない。唯一彼の素顔を知る者はアルルと一緒にランキャスター王国に訪れた女性文官が一人、恰好をキッチリと着用し、頭には白と赤色のオーバー・チェック柄のターバンを巻いている。


『二人共準備万端の様子!?では早速!第三回戦、二試合目!開始!!』


「暴風となれ『ウィンドバースト』!」


颯爽とガーランドが仕掛けてきた。彼の表情にはディアナ・キャビンディッシュと戦った時の余裕な表情は見られない。故に彼は速攻で攻撃を放つ。


「部分召喚『大盾グレートシールド』」


アルルの意志を受けて中空に現れた小さめの魔法陣から、二メートルはある身の丈を覆い隠せる程の長大な白い盾を持った白い腕が召喚された。


ジャイロ回転でアルルに向かって一直線に向かって来た鉄球を正面から受け止めた大盾はピクリとも動かずその場で停止している。


「っち、どんだけ硬いんだよその盾。『魔力増加』!風よ『ブラスト』!」


攻撃が全くの無傷に思わず舌打ちをするガーランド。しかし、直ぐに魔力を増加させる魔法を唱え。追加の攻撃を放つ。


右に横移動し、左手から鉄球を放つ。再度真っ直ぐ飛んできた鉄球にアルルも又、大盾を持つ白い腕を召喚する。


しかし、真っ直ぐ飛んできたと思った鉄球は途中で突如カーブするように曲がり始めた。そう、ガーランドは鉄球を指で弾く際に、斜め前回転を加えていたのだ。


「部分召喚『軽剣ライトソード』」


だが、アルルも既に見越していたのか。再び誰も居ない空間から魔法陣が現れ、銀の片手剣を持つ銀色の腕が今度は召喚され、曲がりながら向かってきた鉄球を見事な太刀筋で真っ二つに切断した。


(あいつに遠距離攻撃は相性が悪い。ならこれはどうだ!)


次の策を考えたガーランドは両手を上へ伸ばし、魔法を唱える。彼の開かれた指の間には何個も鉄球が挟まっている。


「大嵐を吹き飛ばせ『ストームブラスト』!」


闘技場全体にばらバラ撒いた鉄球の嵐が高速の速度で襲う。風の魔力を籠めた鉄球同士がぶつかり合い

不規則な動きを見せる。


(なっ!?)


自身の周囲に風魔法『ウィンドウォール』で安全な場所にいたガーランドはアルルの方を見た途端、驚きで一瞬魔力の流れが乱れてしまう。


何故から彼は周りに十数個の大盾を一斉に召喚し、鉄球からアルルを守る騎士のように守っていた。


(これでもだめか!なら!)


腰のポーチから追加の鉄球を九個取り出し、全て一緒に宙に浮かばせる。


「集まれ 一つに 風を 汝を 破壊せんと『アクリーション』」


前に出した両手を組み、彼が出せる最大火力の魔法を唱えた。

磁石のように九個空中に浮かんだ鉄球が引き寄せ合い。ソフトボールサイズの球体と変化した。


「っはあぁ!」


組んだ両手を思い切り前へ広げる。


「武具召喚『連閃剣』」


強力な磁力を持った一つの鉄球を向かい打とうと、アルルの手に三日月の形状をした剣を召喚し、カサ・ロサン王国伝統の構えを取った。


「絶影」


一振りすれば白羽が稲妻のように輝き鉄球が八等分に分かれ。二振りすれば、冷たく光る刀身は離れたガーランドの首からぶら下げた魔道具が四つに割れた。


『おおっとお!ガーランド選手!魔道具の破壊を確認!勝者召喚術士、アルル選手うぅ!!』


その頃、とある観戦室では…。


「チェックメイト。これで162勝48敗ですね。まだ続けますか?」


「っふ、何分かり切った事を。このままおちおち負けたままでは紳士の名が腐るという物だ」


二柱によるスピードチェスの対決はまだまだ続く。

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