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第6話 オーウェンの町に到着

 無事に何の問題もなく、海のような平野が広がるマクリー大草原に戻ってくることができた。ただ風が吹き渡り、柔らかな緑の草がそれに合わせて音もなく揺れている。綺麗だ。一度神界に戻ったら、こういう草原を作ろう。自然を司る神々が気に入ってくれると思う。


『翔、魔王から助けを求められたら、本当に助けるのですか?』


 ナビリスが心配そうに聞いてくる。言いたいことは分かっているよ、心配するな。神が一つの種族に偏るなって言いたいんだろ。


『リッシュから言われた通り、絶体絶命の時しか手は出さないよ。もし侵略目的で助けを求められたら、天罰でも下すよ』

『その言葉を聞いて安心しました。貴方は自然発生した他の神々とは違い、人間から変化した神です。たとえ神の魂に変わり、人の価値観が変化しても、無意識に一つの種族に偏ってしまう可能性があるのです』


 なるほど…ナビリスから見ても、俺は神としては不安定ってことか。


『大丈夫だ、ナビリス。俺が神として動くのはこの世界が滅びそうな危機の時だけだ。逆に言えば、滅びそうにならない限りは神として一切動かない。それ以外は気に入った個体に加護を与えたり、気の向くままに冒険者として世界を歩き回るよ』

『ふふ、了解しました、翔。何かあったら全力でサポートしますね』


 感謝するよ、ナビリス。君のおかげで今の俺がいるといっても過言じゃない。ただ、それを教えたら調子に乗るから言わないけど。


『それじゃ、街に向かうか。初の異世界旅行、楽しみだな、ナビリス』

『はい!私も楽しみです!ところで、どこに向かうんですか?』


 …どこにしようか?目の前に半透明の地図画面を出し、じっくり見ながら指で移動させたり拡大したりした。


『…よし、決まった。ランキャスター王国内のビットラー領にある街、通称「冒険者の町オーウェン」に向かおうと思う』


 冒険者の町オーウェン。ビットラー辺境伯が治める街の一つで、下級ダンジョンが三つもあるとても恵まれた土地。ビットラー領は王都から南へ馬車で二週間の距離に位置し、領主邸のあるビットラーの街を中心に、オーウェンを含むいくつかの街や村があるらしい。マクリー大草原もビットラー領の一部だ。そして、隣接するカサ・ロサン王国との国境に砦を南に持ち、東には大型魔物が徘徊する危険な「魔物の大森」を抱えている。


『冒険者の町オーウェン。なるほど、冒険者登録するにはもってこいの町ですね』

『ああ、それにこの世界のダンジョンがどんな感じか見てみたいからな』

『確かに…異世界「カブト」にあったダンジョンは決して人類では攻略できないものでしたね』


 それは完全に同意するよ。一層目で邪神の手下が蟻の数ほどいたんだ。神界から見てたけど、俺でも無理ゲーだと思ったし。最終的に祖父によって世界ごと作り直されたくらいだ。


『さて…ここからオーウェンまでは徒歩で約1日程度。ゆっくり向かおうか』

『翔が作った乗り物は使わないの?それに乗ったら、数時間で着くけど?』


 俺が作った乗り物?…あぁ、ATVね。懐かしいな。


『せっかく異世界に降りたんだ。俺に寿命はないし、気楽に行くよ』


 俺とナビリスは神界やこれまで見てきた世界の出来事を語り合いながら、オーウェンを目指して歩き始めた。


・・・

・・


「おーれーはーひーまだーまーちーはーまだかなーるるるらららー」


はい、今、俺、歌ってます。神なのに音痴です。暇です。ゆっくり歩きながら景色を観察していたが、飽きてしまった。小説では異世界で町に向かう道中でイベントが起きると書いてあって内心ワクワクしていたが、結局何も起こらなかった。途中、森の中からゴブリンが四匹襲ってきたけど、目線を変えずに一瞬で火魔法を使って灰すら残さず焼き殺したくらいだ。絶望的な歌唱力で歌いながら数時間歩き続けると、立派な外壁が見えてきた。内ポケットから最高級のパシフィックパラディン製スケルトン懐中時計を取り出し、時間を確認する。針はちょうど12時を指していた。懐中時計をポケットに戻し、目の前に見える大きな壁とそれに相応しいサイズの城門に視線を移した。


「(やっと着いたか…次からスケボー使おう)」


 城門の列に並び、10数分ほどで俺の番が回ってきた。立派な門の前で、門番らしき兵士が槍を持ちながらこちらに歩いてくる。


「身分証を」


「持ってないです。田舎から来たので、冒険者ギルドで会員証を作成しようかと」


「そうか。入街税の銅貨5枚を支払い、この水晶に手をかざしてくれ」


 この世界に来てまだ二日目。当然身分証なんて持ってるわけがないので、田舎から冒険者になるために来たカバーストーリーを答えた。入街税の銅貨5枚を渡し。入街税の銅貨5枚を渡し、腰に掛けていた袋から取り出された野球ボールほどの水晶に触れる。言われた通り手を置いたが、何も起こらなかった。


「よし、通っていいぞ。これが仮身分証だ。ギルドで身分証を作ったら返しに来い」


「分かった。それで、さっきの水晶は?」


「ん?ああ、見るのは初めてか。あれは『真実の水晶』ってやつで、もし罪を犯して職業が盗賊とかだったら赤く光る魔道具だよ」


 ふーん、さすが人類。面白いものを作るね。後で俺も作ってみよう。


 門を通り過ぎ、冒険者の町オーウェンへと足を踏み入れる。途端に広がる異世界の街並み。神界から見ていただけだったが、自分の足で、目で実際に見ると、否応なしに気分が高揚する。


 ちなみにこの世界の通貨制度は、この大陸ではほぼ全て統一されている。もちろん国によって貨幣のデザインは異なるが、使用される白金・金・銀・銅などの量が統一されているため、どこの国の金貨を使っても問題はない。あとは通貨の単位として「ルセ」が採用されているが、普段はあまり使わないらしい。


銅貨1枚が日本円で100円。


銅貨10枚で銀貨1枚。


銀貨100枚で金貨1枚。


金貨10枚で白金貨1枚。




 神界で暇な時に色々な世界の貨幣を作りまくっていたら、いつの間にか白金貨で塔が作れるほどの量になっていた。経済を破綻させないよう気をつけよう…


 街中を歩いていると、良い香りがする屋台を見つけた。


「おっちゃん、その牛串を五本くれ」

「おうよ!銅貨5枚になるぜ」

「はいよ。それと、値段が張ってもいいから良い宿を知らないか?」


 金を渡し、牛串を右手に三本、左手に二本持つ。せっかくなので今夜泊まる宿についても聞いてみた。


「おいおい、どこかの坊ちゃんか?まあいい。そうだな、このまま真っすぐ向かって、大きな噴水がある中央広場の左側に金持ち御用達の『黄金の木』って宿があるぜ」

「そうか、ありがとう。それじゃ、串をもう三本くれ」

「あいよ!」


 屋台のおっちゃんに言われた通りに真っすぐ進むと、中央広場らしき場所に到着した中央広場というだけあって人混みは多く、様々な種族の男女が楽しそうに歩いている。そして左側を見ると、周囲の建物とは比べ物にならないほど豪華で大きな建物を見つけた。看板には大きな大理石に『黄金の木』と彫られている。扉を開けて中に入ると、そこは宿というよりホテルと呼んだほうがふさわしい内装だった。フロントに向かうと、制服姿の従業員が忙しくも落ち着いた様相で働いてる。立派な鎧やローブを身に着けた冒険者たちが団欒していた。洋風の高級ホテルの内装に急にファンタジー要素が混ざり合い、まさに異世界ならではの雰囲気を醸し出している。


「おおー、豪華だな」


「自他ともに認めるオーウェン一の宿ですからね」


 思わず漏れた俺の一言に答えたのは、カウンターの裏にベージュ色のスーツを着た渋い男性だった。


「そうか、じゃあ取りあえず普通の部屋を10泊で」


「ありがとうございます。合計で白金貨1枚になります」


 俺は内ポケットに手を入れ、インベントリから取り出した白金貨1枚を大理石のカウンターの上に置いた。


「ありがとうございます。白金貨1枚、丁度お預かりしました。それでは、こちらの名簿にサインをお願いします」


 従業員から魔力でインクを出す羽ペンの魔道具を受け取り、名簿にサインした。


「ショウ様ですね。こちらが鍵になります。お部屋は階段を上がった209号室です。お食事やお風呂などは、好きな時にご利用いただけます」


「どうも。よろしく」


 鍵を受け取り、一歩下がって右手を胸に、左手を腰の後ろに回して一礼する従業員に礼を言い、指定された部屋へ向かった。


 部屋の中は豪華だった。宿の部屋ランクで言えば中級だが、高級宿だけあって室内にはクイーンサイズのベッドが置かれ、調度品や絵画なども飾られている。魔力を使ったランプやジャグジーなども設置されていた。もちろん神界にある俺の私室と比べるのはナンセンスだ。


 一通り部屋を見て回ると、フロントに鍵を預け、早速冒険者ギルドへと向かう。


『ナビリス、冒険者ギルドへ案内してくれ』

『了解しました。それでは、この道を真っすぐ進んで右側に歩いてください』


 噴水の近くに設置されたベンチに空いた場所はなく、噴水周りの腰掛けにも大勢が座っている。さすが街のメインストリートだけあって混雑しており、人にぶつからないよう端の方を進んでいく。


『ここか、ありがとナビリス』

『いいえ』


 ナビリスの案内通りにしばらく進むと、大きめの石造りの建物が三つ並んでいる場所に着いた。扉の上には、左の建物に「大型倉庫」、真ん中の建物に「冒険者ギルド」、右の建物に「訓練所」という看板が掛かっている。字が読めない人でも分かるように、大きな盾に二つの斧がクロスした絵も飾られていた。真ん中のギルド会館では人々がひっきりなしに出入りしており、それなりに活気を感じさせる。さすが冒険者の町だ。


 感心しながら開けっ放しの扉を潜り、室内に入る。同時に包まれる喧騒の音。冒険者ギルド内部は騒がしく、受付が十ほど横一列に並び、その前方には大きな掲示板が置かれ、無数の冒険者たちが良い依頼を巡って取り合っている。右側にはテーブルやバーカウンターがあり、他の冒険者たちが談笑しながら酒らしき飲み物を酌み交わし、骨付き肉を頬張っている。武器すら持っていない俺が入ってきたことに一瞬視線が集まるが、すぐに興味を失ったのか、彼らは仲間との談笑に戻り酒を飲み始めた。


 そのまま受付の方へ向かう。複数ある受付のうち、「新規登録者」とカウンター上に書かれた窓口を見つけたが、すでに五人ほどの列ができていたので、近くに空いていたテーブルに座って待つことにした。新規登録の様子を見ていると、どうやらまず最初に書類らしき紙に記入し、次に渡された鉄製のカードに針で刺した一滴の血を垂らす。そして、口の形をした水晶の上に乗せると、登録者のステータスが表示されて登録が完了するようだ。


『ナビリス、スキルごみ箱から「隠蔽」をセットしてくれ』

『了解しました。そのままスキル「隠蔽」を発動させますか?』

『ああ。レベルを10にして、レベルに見合う剣術と魔法が少しできるくらいに設定してくれ』

『…完了しました。他に何か?』

『それと、「物理無効」の解除を。一滴の血をカードに垂らし終えたら、またオンに戻してくれ』

『…完了しました』

『ありがとう。できるだけ人類に神のことはバレたくない』


 別に目立つことに問題はない。目立つことは紳士にとって当たり前だからな。ただ、俺が神だとバレたら、めちゃくちゃ面倒くさくなる。そうなったらさっさと神界に戻ろう。


 20分ほど待つと皆が登録を終えたようなので、受付の前に移動した。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 金髪に狐耳がピョコッと微かに揺れている可愛らしい受付嬢が、座りながら丁寧に対応してきた。


「冒険者登録をお願いします」


「ええっと…登録ですね。あの…失礼ですが、武器や防具などの装備品は?」


 武器を持たず、防具すら一切着けていない俺を見て、狐耳を真上にピンと立て、怪訝な表情を浮かべる受付嬢。確かに、武器を持たず普通の布服を着た男が冒険者に登録したいと言い出したら、変人にしか見えないだろう。もちろんインベントリの中には神剣や伝説の防具などがいろいろ入っているが、いかんせん豪華すぎる。装備するのも恥ずかしいくらい豪華に装飾が施されいる。


「大丈夫だ。問題ない」


「は、はぁ…かしこまりました。では、こちらの書類に必要事項のご記入をお願いします。代筆いたしますか?」


「問題ない」


 そう言って書類を受け取った。


 名前の欄に「ショウ」と書き、特技は「剣術」。年齢は適当に「19」とする。出身地は「シンカイの村」と書いておこう。最低限しか記入する必要がないみたいだ。


「どうぞ」


「はい、ありがとうございます――ショウ様。それでは、血を一滴このカードにつけていただけますか。その後、こちらの水晶に乗せることで魔力がカードに登録されますので」


 針とカードを一緒に渡されたので、言われた通りに針で指先を刺し、血を確認してからカードに垂らした。カードが一瞬光を放った後、口の形をした水晶の上に乗せると、水晶の中に俺のステータスが表示された。


名前:ショウ

種族:人族

職業:戦士


レベル:10

HP:115

MP:90


攻撃力:105

防御力:89

体力:102

魔力:81

俊敏:76

器用:90

運:10


魔法スキル:

水魔法Lv.2 聖魔法Lv.1 魔力操作Lv.2

生活魔法


スキル:

剣術Lv.1 体術Lv.1 身体強化Lv.1


称号:(なし)



 俺の隠蔽したステータスを見て、受付嬢は狐耳をブンブン振って驚いていた。


「ええぇ!レベル10で既に剣術レベルが2!?しかも魔法は二属性持ち!?いやぁ、凄いですね!あ、ところで私、ベラと申します……今のうちに唾付けとこ」


 おいおい、大声で個人情報をバラしてるぞ。ほら、さっきまで俺のことなんか眼中になかった連中がこっちを見てるじゃないか。最後に聞こえた小声は聞かなかったことにしておこう。


 俺の呆れた視線に気づいた受付嬢ベラが、顔を赤くして照れながら謝ってきた。


「も、申し訳ございません。つい、びっくりしちゃって、エヘヘ」


 可愛いから許そう。


『………』


 ナビリスがの無言が怖いが、無視しとこう。


「いや、気にしなくていい」


 ここは紳士らしく答えよう。


「わあぁ~ショウ様って優しい人なんですね!…ッゴホン、気を取り直して。こちらがギルドカードになります。魔力を込めると名前とランクが浮き上がります。ランクが上がるたびにカードの素材も変わりますから、頑張ってください!新規登録者は最初Fランクからのスタートになります。ショウ様ならSランクになれると信じてます!それでは、冒険者についての説明は必要ですか?」


「ああ、お願いする」


 ちょこちょこ本音が漏れてるが、対応はちゃんとしてるので、このまま説明を聞こう。


「はい!せっかく長い説明を覚えたのに、皆さん詳しく聞いてくれないんですよね…っ!では、冒険者にはランクが存在しており、皆様最初はFランクから始まり、最後はSランクまであります。Sランクに関しては、現在冒険者ギルドで知る限り46名しかおりません。ランキャスター初代国王様はSランクのさらに上のエレメンタルランクでしたが、それ以降、誰もエレメンタルランクになった者はいません。カードの素材に関しては、Fランクは鉄から始まり、EランクとDランクは銅、Cランクは銀、Bランクは金、Aランクは白金、そしてSランクはアダマンタイトカードになります。エレメンタルランクのカードは精霊からの加護を受けた虹色に輝くカードと記録されています。昇格についてはそのうち分かります…はぁ、疲れた」


 異世界から召喚された勇者、ランキャスター初代国王。一度会ってみたかったな。


「……ゴクッ…ゴクッ…ッパア!水が美味しい!…依頼については、通常依頼、指名依頼、緊急依頼、オープン依頼の四種類があり、一般的には通常依頼となります。但し、ただし、高ランクに上がると依頼者からの指名依頼が出される可能性があります。指名依頼の内容が違法でない限り、断るのは難しいです。緊急依頼については、ダンジョンからの魔物氾濫によるスタンピードなどが挙げられます。他国との戦争についてはギルドは絶対的中立を取っていますので、各自の判断でお願いします。依頼中に未発見のダンジョンを見つけた場合、即座にギルドに伝える依頼になります。依頼中でなくても、見つけた場合は即座に伝えることが義務付けられています」


 すごいな。よく噛まずに喋ったよ。


「通常依頼は左側に設置されている巨大な掲示板に張り出されていますので、あのむさ苦しい中から剥がして受付までお持ちください。それに、依頼を受注せずとも魔物や薬草を納品してもらえばランクポイントは加算されます。パーティーを組まれる場合はこちらの受付で登録してください。ギルド内で冒険者同士の争いは感知しません。ただし、もし冒険者を殺した場合、問答無用で犯罪奴隷になりますので気をつけてくださいね!」


 丁寧に教えてくれた。すでにほとんど知っていたけど、美女と会話ができるなら何回でも同じ説明を聞くよ。


「では、ショウ様、頑張って最高位ランク目指してください!そして、デートに誘ってくださいね!――あ」


 最後の言葉に俺は笑顔で答えた。すると急に後ろから俺の肩に何かが置かれた。



 振り向くと、そこには一人の大男の手が俺の肩に置かれていた。よく見ると、さらに二人の男が大男の真後ろにいる。これは…伝説のテンプレか?おおー、すげぇ、感動だ。


「おい、クソガキ!お前、俺のベラと喋りすぎなんだよ!なぁ、ベラ!こんな武器も持ってねぇクソガキの相手してないで、俺たちと相手しようぜぇ!しかもこいつ、レベルたったの10だぜ!んなの俺たちが先輩として面倒みてやる…ぜっ!」


 俺の肩に置いていた手を一旦どけ、そのまま顔に向けて殴りかかってきた。それを最低限の動作で避ける。遅いな…。


「っち!このガキ、面倒見てやると言ったのに一丁前に避けやがって!おい、てめぇら!こいつに先輩方からの教育を見せてやれ!」


 大男の真後ろにいたチンピラ二人が俺の左右から殴りかかってくる。すでに面倒くさくなった俺は、早々に終わらせるため、それを避けようともせず、ある魔法を唱えた。


――時空魔法発動「停止(ストップ)


 その瞬間、世界の時間が止まった。受付嬢ベラが涙目になりながら両手で口を押えている表情も、チンピラボスの勝ち誇った顔も、酒を飲みながらこちらの様子を見て楽しんでいる顔も、地面に落ちている途中のフォークも、全てが止まった。


『ナビリス、スキルごみ箱から「仙術」をセット』

『…完了しました。私の分も存分にやっちゃってください』


 もちろん。仙術をセットし、俺は右手をチンピラたちの目の前に動かし、手の平を開いてスキルを発動した。


――仙術スキル発動「八系」


 瞬間、手の平から凄まじい衝撃波が起こった。その衝撃波をもろに受けたチンピラたちは数ミリ後ろに動いたが、それっきり動かなかった。


「ぐっぅ、ががあああぁあああが!」


 魔法を解除すると、ピンボールのように、俺の左から殴りかかっていたチンピラは冒険者たちが飲み食いしている方へぶっ飛び、テーブルを壊しながらバーカウンターに激しい音を立てて止まった。右から殴りかかってきたチンピラは掲示板のすぐ傍の壁に穴を開け、隣の建物に吹っ飛んでいった一番もろに衝撃波を食らったチンピラボスは、そのまま猛烈な速度で出口からメインストリートへ吹き飛び、宙を舞った。


いきなりの事態に一気に静まり返ったギルド内。誰も状況を理解できていなかった。


「ベラ。あいつらが勝手に吹き飛んで壊した壁とかテーブル壊した分の請求は、そいつらに頼むよ」


「へ?…え、ええっと…はい。わ、分かりました」


 未だ口をポカーンと開けているベラに挨拶をして、堂々と扉から出て、メインストリートのど真ん中で失神しているチンピラを横目に宿へと帰っていった。


「あ、あのガキ何者だ…?」



ギルド内では俺が出て行った後、混乱が広がっていた。



パシフィック・パラディン製の時計…うんカッコ良さそう。

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