第63話 破壊を望む者 その4
「見ない顔だな、王都には来たばかりか?」
王都の西側に設置された煉瓦式三階建て冒険者ギルドの裏側では大勢の冒険者が己の高みを伸ばす為、剣や槍での模擬戦、魔法での模擬戦、遠くに置かれた的を射抜く弓使い、走り込みだったり筋トレしてるグループもいる。
そこの訓練場で一際周りの冒険者から注目の目を集めている集団が一角に集まっていた。
訓練に励む他の冒険者と比べて身に着けている防具、腰や背中に装備した武器、エンチャントが付与された装備品が明らかに高ランク素材で作れらている。全てが一目で金を出して買うとなると高額な物ばかりであった。
自分だけ相変わらずのティーシャツ、ズボンに黒色の分厚いコンバットブーツ。そして腰に吊るした一本の剣、最後に黒革製のバッグ、と外に散歩に来た感じの恰好に別の意味で見られているが、気にせずに集まったグループへ向かう。
すると、近づいてくる俺の姿を目にした一人の冒険者が此方まで近付いてくると、いきなり話かて来た。
俺より十五センチ高く、身丈二メートル程の巨体の男性、茶髪のベリーショートヘアーに同じく茶色の目。歳は見た感じ30前後。引き締まった鋼の様な筋肉に覆われた肉体。
急所部分を守る革製の防具に青色に輝く金属製の胸当てには無数につけられた傷跡。防具の隙間からちらちらと見える傷だらけの手首が幾程の修羅場を潜って来た事を物語っていた。
「ああ、王都には数ヶ月前来たばかりだな。Aランクのショウだ、王都で受ける依頼は今回が初めてだ。色々教えてくれると助かる」
名乗ると同時に手を差し伸べる。
「って事はお前が呆れる速さで高ランクに昇格した例の『孤独狼』か!噂には聞いていたが本当に若いな」
「ああ、よく言われる」
はっはっはっはと大声で笑う冒険者に自認するかのように何回か頭を頷いた。実際は数倍以上歳を重ねているが。
「おっと、俺の紹介がまだだったな!俺はクラン『星斬り』サブリーダーのゴウテツだ。Aランク同士仲良くしようぜ!」
彼も自己紹介を終えると、俺が差し伸べた手を力強く握った。握り返した彼の手は分厚く、細かな傷で覆っている。
ゴウテツが結構な力を入れてもびくりともしない俺の手に興味深そうな笑みを浮かべ、その口を開いた。
「ヒュ~お前強いな、もしクランに入りたかったら俺の所まで来るといい。幹部に直ぐ入れてやる」
「ああ、感謝する。入りたくなったら教えるよ」
冗談半分の勧誘だったらしく、俺の曖昧な反応もゴウテツは「そうか!」と笑い、集合しているグループの元まで戻っていった。
俺も彼の後を追うように後ろからついていき、此方をジロジロ見ながら何やら話し合い中のグループへ集まる。
どうやら俺が最後の参加者らしく、先程の冒険者ゴウテツが周囲に言葉を発した。
「っよし、これで皆集まったか。それではまず発見されたダンジョンへ向かう前にそれぞれ紹介してもらう。既に知り合いのメンバーが多いが…内容は呼ばれたい名前、ランク、職業、使用武器を答えてくれ。今後の配置を決めたいからな」
流石大型クランに属しているサブリーダー。彼の言葉に一人の冒険者が名乗りを上げた。
「成程、理屈には適っているね。ソレじゃ僕から始めようかな。僕はAランクのユーリ、一応クラン『ドラゴンスケル』のリーダーを担当しているよ。職業は魔法剣士、だから片手剣に魔法攻撃が得意だよ。皆よろしく」
長い金髪を後ろで一束に纏めた二十代前半の冒険者、ユーリが名乗った。周りから『龍殺し』と言う声が聞こえてくる、それがユーリの二つ名か。
魔法が付与されたローブに身に着け、魔物の素材で作られた革鎧に茶色のブーツを履いている。しかし、ブーツの先には何やら金属板が装飾されている。
顔が整っている彼に憧れている男女が多いのか、周囲から熱い視線が送られている。
周囲の視線に気付いたユーリがあちらへ手を振ると何処からか「キャーー!」と潮の鳴るような歓呼のさけび声が聞こえてくる。
彼のパーティーメンバーらしき女性冒険者も彼に熱い目線を送っている。
と言うか彼以外のパーティーメンバー全員女性らしい。今回の依頼にはユーリの他に一人だけ参加らしいが、それでも珍しいハーレムパーティーだな。
それから役に立ちそうで役に立たない自己紹介が続いた。
二人目に名乗ったのは、ユーリとパーティーを組んでいる女性冒険者で名前はカノン。種族はピンと伸びた耳がチャームポイントのエルフ族。背中に背負った魔法が付与された弓矢と精霊魔法を使う。ランクはB。
三人目は白いローブ、首から金で繊細された十字架を下げた男性。ロードリヒと名乗った彼は聖魔法使いであり、ローブの下には急所部分を守る金属鎧を身に纏っている。腰に装備したメイスには悪を滅する聖属性が付与している。ランクはB。
四人目は頭から猫耳が飛び出た女性冒険者リディア、肩まで伸ばした黒髪に目は茶色。職業は探査や罠の解除を得意とする盗人、防具は音を立てず動きやすさに重視した革鎧の軽装備にフード付きのマントを被っている。腰には二振りのダガーをクロスするように装備し、太もものポーチにはポーションや投げナイフが詰まっている。ランクはB。
五人目は灰色のボロボロローブで身体全身を隠すように着た冒険者。フードで深く被り外見は口しか見えず性別は確認できないが、発した声は男っぽい低い声。マギウスと名乗った男?は不思議な事に何も武器を装備もしていない。どうやら港で名が通った魔法使いらしく、素顔は誰にも見せたことが無いらしい。得意魔法は土魔法だと。実力はAランクにと届くが、その極度な人見知りでBランクにとどまっている。
「うむっ!では最後にショウだな!!」
訓練場に集合した合計7名、そして今まで腕を組みうんうんと頭を上下に頷いていたゴウテツが俺の名を叫んだ。その瞬間、今までとは違い視線が俺に集まる。それまで周囲の女性からちやほやされていたユーリも真顔で俺の姿を見ている。ピリピリとした重さが俺に集中してくる。…実に、実に良い。
嬉しさに動かされて反射的に微笑む。神として感情が抑えられているから他者からみたら無表情のままだが。それでも笑えるなら悪戯小僧らしく、喉が枯れるまで笑ってみたい。
「俺はAランクのショウ、周りから孤独狼と呼ばれている。職業は戦士だが殆ど剣を使うから剣士と捉えても構わない。一応水魔法と聖魔法が使えるがやはり本職には叶わないな」
そう自虐して肩を上げる。
「「「…」」」
笑わせるつもりで冗談を言ったつもりだが誰も何も言わない、周りで訓練していた冒険者すら動きを止めて俺をジッと見ている。
しかし、この沈黙を破ったのは大声で笑うゴウテツであった。眉間に寄った皺を吹き飛ばすような笑い声だ。
「がっはっはっはっはっは!!っは…や、やべぇ!は、腹が!…っとすまねぇ……それよりショウ。お前がソロで塔の第五十階層まで辿り着いた偉業は皆知っているぜ!長距離通信魔道具で全冒険者ギルドに広まっているからな!」
誰も何も一言も発しなくなった理由を教えるとまたからからと笑い始めた。
「…そうか、まあよろしく」
「……」
すると、何故か猫耳少女リディアが俺の傍まで寄って来るといきなり顔を体に近付け、匂いを嗅ぎ始めた。それには俺以外の冒険者がいきなりの事に驚いている。
「どうした?何か匂うか」
丁度俺の胸の所にあった頭に手を置きそっと猫耳の感触を楽しみながら彼女に尋ねた。
「…んにゃ。何でもないにゃ、私の勘違いだったにゃ」
俺が頭に置いたを手を払い、何事もなかったかのようにグループの元へ戻っていった。しかし神眼で呼んだ思考では全く異なった。
「(何で…何で匂いが無かったの。人族特有の臭みが無い、どういう意味なの?)」
まあ、もし神が臭かったらそれはそれで信仰されないからな。匂いがしないのは当たり前だろう。
「おっと、ショウを宿に誘うのは依頼を完了してからだ。わっはっは、ソレじゃ早速ギルドから貸し出された荷馬車四台を引いて、ダンジョンが発見された近辺の村へ向かうぞ!」
どうやら今回の依頼はゴウテツが指揮を取るらしく、周りの誰も彼に文句を言わずに準備された馬車へ乗り込んだ。冒険者7人に荷馬車4台とは太っ腹だが、ギルドからしたら新ダンジョンで出来るだけ素材を獲得してこいとさ。
そんな裏話を一緒の馬車に乗り込んだゴウテツから話半分聞きながら、馬車は西側の門へ向かっていった。
東西南北に設置された合計4つの門。その一つ、西側の門を抜けるとそこには冒険者の恰好をした大勢の人々が列に並んでいた。冒険者ギルドが近くに置かれているため、西側の門前は何時も冒険者が並ぶ列で賑わっており、列の傍には商人達が露店を広げ食べ物等を売り、所には地面に座って酒を飲んでいるパーティーも見受けられた。そして、気短い冒険者だけあって数か所にわたって喧嘩も起きている。
俺達が乗った馬車はそのまま西の方角へ向かって進み続ける。
目的地である村までは馬車で約3日、それまでの退屈しのぎに数秒で創造したマジックバッグからトランプ、ダイス等取り出した。




