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第62話 破壊を望む者 その3

誤字報告ありがとうございます。

War Zoneが楽しくて遅れました。

冒険者ギルドにて、興味をそそる依頼を受けてから二日後。


 朝から大量に作られたナビリスからの愛が籠ったパンケーキを食べ、集合場所であるギルドへ向かう。依頼中にどんな出来事が起こるかと内心ワクワクしている。この気持ちだけは神となって、どれだけ長い時を過ごそうと、俺の本質は変わらない。


 俺が人間の頃から色々な趣味を探し家族、恋人、友人を巻き込んでバカしてきた。後ろ向きに振り向くことなんかないくらい充実した人生、いや神生と言うべきか。



 空に昇ったばかりの朝日を受けて街が朱鷺色に輝く。軽快な日光を全身に浴びながら俺は目を細めてギルドまで続く大通りを進む。しかし、向こう彼方の空へと見上げると、ぼんやりと鱗雲が横一面に広がっている、夕方ごろには雨が王都を包むように降りだすだろう。


 屋敷から徒歩で一般街へ続く門を潜り、冒険者ギルドがある西区へ繋がる大通りの歩く。途中、中央広場で屋台に寄りたこ焼きを注文する。神になって一番うれしいことは幾ら食べても、飲んでも腹に溜まらない事だな。


 3分もしない内に10個入りのたこやきを食べ終えた俺は、腰掛けた噴水から立ち上がりメインストリートの端側を歩きながらのんびりと西区へ進む。ギルドまで繋がる道を進むごとに、冒険者の恰好をした人々が見受けられる。


 思えば約一ヶ月前から、何時もより多く広がった露店や、前より溢れかえった人混みを眺めながら俺は一週間前の記憶を思い浮かべる。



 ある日、書類仕事をさっさと終わせたエレニールは俺の屋敷に遊びに来ていた。


 恒例となった摸擬戦後。俺達はテラスで二人注がれた紅茶を嗜み、チェッカーで遊んでいる途中、ふと一つ気になっていた事を尋ねた。

 …何時も長い時間入り口門前で待たされる侍女や部下の騎士達には可哀想だが、環境に馴染むしかない。


「なあエレニール、俺の勘違いかもしれないがここ最近王都に人が増えていないか?」


 俺がその事に気付いたのは些細な事だった。ナビリスに聞いても良かったが、折角なのでエレニールに聞いてみた。


「ん~。…ああ、そういえばもうすぐあのイベントが始まるから恐らくそのせいね」


 俺の駒を取ろうと、口を真一文字にして頭をフル回転させていた彼女が一旦ひっそりと停止して、目線を俺に向けた。話が変わるがいつの間にかに彼女の言葉使いが前に比べて女性っぽい口調へと変化していた。それでも部下や他の騎士団が近くにいる場合は前のような鋭く、力強い声だが。アンジュやナビリス、そして俺が傍にいる時には絹布の肌触りのような静かでやさしい語り口になる。


「イベント?」


 彼女が口にしたイベントに興味を持った俺は噛み付くように尋ねる。


「ええ、年に一回王都で行われる闘技大会が行われる。ねぇショウ…もしかして知らないの?」


 少し呆れた表情で彼女の駒を進み、俺の駒を飛び越えるとその駒を取った。ん~盤上に残った駒が少なくなったな。


「闘技大会の事は勿論知ってたが、何時始まるのかは知らなかった」


 そう言って俺も駒を進める。


「ふーん」


 盤上を睨みつけ、興味無さそうな返事をする王女様兼婚約者。


「そう言えばバンクス帝国に召喚された勇者の事は知ってる?」


 彼女が進めた駒が奥の列に進んだことによってキングと呼ばれる駒に成った。


「ああ、ギルドでそんな噂が広がっていたな」


 実際は彼等が召喚された瞬間から神眼で観察していたが。

 駒を進め、飛び越えた彼女の駒を取る。キングの数はあっちが多いが今の所俺が勝っている。


「私もここ最近耳にしたんだが、どうやらその勇者が今年の闘技大会に出場するらしい」


 その言葉に俺は手を止め、エレニールの顔を見た。そこにはニンマリした半端な笑顔があった。

 王都一美人と名高い彼女の笑顔は咲いたばかりの花のような生き生きとした美しさを感じさせる。

 勿論神眼で眺めていた俺は勇者達が来ることなんてとっくに知っている。それでも知らない振りをとった。


「へぇ~勇者様も闘技大会に出るんだな。目的は…勇者として経験を積む事と、優秀な人材発掘か?」


 彼女は帝国が勇者を召喚して理由など既に知っているだろう。人間至上主義の国である帝国は魔王セシリアが納める魔界の次に様々な種族が暮らすこの国を敵視している。

 敵意剥き出しの帝国にとっては敵対国から実力者を獲得できるなら本心はどうであれ、世界中からの猛者が集い、戦い合って頂点を競う武の祭典には出場したいよな。


「ああ、私もそう思っている。それでショウは大会に出場するのか?」


「いや俺は出ないよ、俺は出場選手に賭けながら試合を観戦するよ」


 既に勝利が決まった大会などヤル気が起きない。そういえば神界で始めた武道大会では何回か消滅させられたけ?


「そう…ショウの事応援したかったけど、仕方ないね」


 俺が大会に出ないと分かると彼女が悲しそうな眼を浮かべ顔が悲しげに曇る。演技じゃない寂しい顔を見せるエレニールの頭を撫でながら優しく語らう。


「俺が出場したら他愛も無く優勝してしまうだろ?そしたら折角の観戦しに来ているエレニールやアンジュを退屈させてしまうではないか。それなら一緒に観戦してナビリスが用意したお菓子でも食べよう」


「ショウ…うん分かった、大会中の殆どは王族専用の観客席でずっとは一緒に観れないと思うが、お父様に直談判して出来るだけ貴方と一緒に過ごすよう頑張ってみる」


 頭を撫でていた手を取り、そのまま恋人繋ぎえと持っていった。

 ふと視線を彼女から下へ向け盤上を見ると、先程まであった駒が消えてきた。…やられた。


「おい」


「ふふふ、どうしたのかしらショウ?何か困った事でも?もしかしてもう降参したいのかな」


 空いている手で口を隠して上品に笑う彼女に肩を落とし、しょぼたれる。


「…初めて出会った時はこんな関係になるとは思いもよらなかったよ」


 本当に。


「ええ、私も同じよ。政略結婚と言う形でショウの婚約者になってけど、私は後悔なんてしていない。非力で下種お坊ちゃまに嫁がなくて逆にショウには感謝しているわ」


 実力国家と名高い国にも腐った人種は何処にも存在する。


「そうか、それじゃ俺もエレニールの期待に応えるよう頑張りますか」


「ふふふ、それじゃまずカジノについてだが――」


「おっと、紅茶が空になってしまったな。ナビリス、お代わりを」


「………」



 色々思い出していたら目の前に冒険者ギルドの建物が見えてきた。


 神の俺は疲れなど無いが、屋敷を出てからここに着くまで三時間は歩いている。

 広大な土地を持つ素晴らしい発展を遂げた王都にも、幾つか住みにくい理由が存在している。

 その一つが広い過ぎる事だ。


 例えば、城壁から王城まで馬車を使用しても軽く2時間は掛かる。


 帝都にある魔導列車があれば王都中楽に移動できるが、建国してから千年以上経つ土地に鉄道を敷かるのは非常に困難。都市から都市を繋ぐ事も魔物や賊がいる限り不可能。

 しかし、遥か昔から異世界人を召喚し、彼等が持つ知識を吸収しまくった帝国には魔導工学の結晶である魔導列車と路線が配備され。帝都に住まう人々の移動手段として使われている。


 飛空船も勇者の持った知恵によって作れられた物の一つだ。


 魔導列車や飛空船は俺なら十秒で作り出す事が可能だが。それは下界に住む人類の仕事だ、俺はちょっかいを出さない。


 まぁこの国で名誉を上げる為魔除けの魔道具でも作成してエレニールに渡しておくか、王国で研究する錬金術師も作れる品を。


「未発見のダンジョン調査の依頼を受けたショウだ。集合場所は何処で?」


 ギルドに入った俺は真っ直ぐ受付カウンターへ進み、一番人が並んでいない列で待ち。俺の番になると受付嬢に依頼の内容を伝えた。


「お待ちしておりましたショウ様。他の冒険者様達は裏の訓練広場でお待ちしております。ご武運を」


 機械の様に対応してきた表情が読みにくい受付嬢に礼を言い。そのまま一旦外に出ると、集まる視線を感じながら裏へ回った。


 訓練所へ向かうとその一角に六人程、熟練の雰囲気を纏う冒険者の姿があった。彼等のすぐ傍には馬が繋がった馬車が四つも確認出来る。もしかしなくてもあそこが集合場所だな。


 …楽しい、楽しい依頼の始まりだ。


 ワクワクした気持ちを顔に出さず軽快に足を運んだ。

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