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第57話 そうだカジノを作ろう その4

「ふぅ…周りの騒がしい貴族共を気にせずに思いっ切り力を出せるとは良いことだな。っお?すまないな、タオルをありがとうナビリス」


「ふふ、流石王国最強と名高い王女様ですわ。日に日に動くが素早くなっていますわね。エンチャントの付与時間も前に比べ長く付けるようになりましたわね」


「…高速度で移動する私の動きをそうバッチリと捉えていることは釈然としないが、まぁ有難く受け取っておくわ。魔法詠唱短縮も様になった」


受け取ったタオルで額に浮かんだ汗を拭くと、手渡した相手に小言を吐き出した婚約者。しかし、彼女の言葉とは裏腹に喜びをほほに浮かべている。自らが確実に強くなっている事実に顔が喜びに輝く。この表情を他の男性に見せられないのが少し残念だ。


…それよりも。


「ナビリス、俺にはタオル持ってきてくれないのか?」


 一時間ぶっ続けで摸擬戦をしていた俺には何もないのか。折角水魔法で汗を掻く振舞いをしているというのに。これも高等テクニックなんだが。


「ご主人様のタオルは彼方に置いております」


 つまり自分で取れってことだな。


「ふふ、相変わらずだな二人は」


 メイド長として無責任は仕事をエレニールは咎めようとしない。彼女には俺とナビリスの二人はただの主従関係ではない事を知っているからな。


 俺の客人と紹介した銀孤は中庭で今も気持ち良さそうに昼寝をしているし。


「…それよりも、思っていたより早くカジノ建設許可が下りたな。最低でも数ヶ月は掛かると思ったが」


「ああ、本来なら貴族階級でもそれぐらい掛かるんだが、ショウの場合は私の婚約者で武力も知れ渡っている。国家からしたら不快を与えてお前を他国に渡したく無いのが今回の理由だな。でも、税はちゃんと払うように!例えショウが犯罪行為を起こしたら流石の私もそこまで庇う事は出来ないからな」


 成程そんな理由があったのか、流石実力国家。


「そうか、今の時点で他国に渡ることは無いが…有難く受け取っておこう」


「ふふふ、そうしてくれると私も此方まで来た甲斐があったな」


 いや絶対に本命は俺と摸擬戦をする事だっただろう、神眼を使わなくとも分かるよ。口には出さないが。


 第三王女でもある彼女が少数の騎士を連れてやって来たのは俺がカジノ建設予定地である土地を購入してほんの一週間が経った日だ。エレニールにも伝えたがこれほど早くカジノ商売の許可を出すなんて神の俺でも驚いた。今も無表情で彼女に紅茶を注いでいるナビリスは知っていた様子らしいが。


 それより建物の間取りも決めていない。間取りさせ決めていれば創造魔法で即座に作り出す事が出来るが、のんびりと過ごしすぎてしまったようだ。間取りは脳内でパパッと決めるとするか、一応ナビリスと銀孤にも要望を尋ねてみよう。


「それよりもショウが買った土地を私の部下に確認させたが想像していたよりも広い土地を購入したんだな。建築企業の手配とか私がしなくともいいのか?王家専属建築士を紹介しても構わないが」


「ん?…エレニールの提案は嬉しいが今回は気にしなくともいい。俺で何とかする」


 そう言ったが実際に創造魔法でいっぺんに作るつもりだ。内部も全て加えて片っ端から創造する。


「そうか…あ~後、念の為に商業ギルドへの推薦状をナビリスに渡しておいた。推薦状があると無いでは全く違うからな」


「ああ、感謝するよ」


 確かに王家からの推薦状なら効果も抜群だろう。何も心配しなくともいい。


「おっと、もうこんな時間か?ショウと摸擬戦をしていると時間が経つのが早いな」


 休憩を取らずに数時間ぶっ通しで戦っていればそう感じるだろう。

 外見は虫も殺せなさそうな整った絶世の顔をしているのに、とんだ脳筋だったな。そんな事は絶対に彼女自身に言えないが。


 俺もどんどん実力を伸ばしているエレニールの姿に人間の頃、神界で剣神は闘神に訓練を付けてくれた事を思い出していた。ボロボロになっても立ち上がる彼女に昔の俺の影を重ねていた。


「俺も楽しかったよ。玄関まで送るよ」


 彼女は俺の婚約者なんだ。これぐらいのお節介を焼いても構わないだろ。


 懐中時計を眺めて悲しそうに立ち上がった彼女の手を握り、玄関まで歩く事にした。いきなり手を握ったエレニールは驚いていたが、少ししたら頬をぽっと赤くし俺の手を握り返して来た。


 普段は凛とした姿で国民からも人気が高い王女様が、俺に少女らしい無邪気な笑顔を見せるこの状況が恋しい。


 この時間を大切にしたい二人は、門の手前に泊まった馬車へゆっくりと一歩ごとに足の下の石畳みの感触を味わう風に歩を進める。騎士達が護衛する馬車まで届けた俺は騎士から小言を言われたが、別に気にしなかった。



「さて、ナビリスに銀孤。今からカジノで働くスタッフを呼ぶ」


 門までエレニールを送り届けた俺はそのまま本館へ戻り、リビングルームに繋がる扉を開きソファーでだらけている銀孤と優雅に紅茶を嗜んでいるナビリスに本題を伝えた。

 いきなりの事に二人からの『お前何言ってんだ』目線が痛い。


 音を立てずに紅茶が入ったカップをテーブルの上に置いたナビリスが口を開いた。


「呼ぶって…どうやって?奴隷を買うの?私は構わないけど」


「奴隷は買わない。買っても業務内容を覚えるのに時間が掛かる。それに一からカジノの説明するのも面倒だから、既にディーラーとして熟練の人材を連れてくる」


 最初のスタッフはこちらに呼んで、後々更に人材が必要になったら奴隷を買う予定だ。


「あぁ、成程…」


「……?」


 ナビリスは俺が連れてくる者を思い当たったのか瞼を閉じると顔を天井に向け何回か頷いている。


 でも、銀孤は何の事か分からず頭の上に?マークで一杯になっている。


「銀孤も分かるよ」


 可愛らしく頭を掲げている彼女にその一言だけ言うと俺も瞼を閉じた。


 懐かしい感覚を感じ取り、俺の神力を糸の様に伸ばして祖父である創造神の神界へと繋げる。


 …繋がった。


 神界と接続を繋いだ俺は手を上へ掲げる。


「アポーツ」


 ポツリと一つの魔法を唱える。


 魔力とは根本的に異なる神力を使用して現れた魔法陣が掲げた手の先に出現する。


「フギャァ!?」


 すると何かの物体が現れるとそのまま床に落下した。変な声を出しながら。

 銀孤も床に落ちてきた物体に驚愕し、目開いている。長く生きてきた彼女も初めて目にしただろう。


「痛てぇっ…く無いけど!…あ、あれ?ここ何処!?…ってショウ様??何でショウ様がここに?」


 俺が召喚した物体があられもない体制からもぞもぞと身体を動かし、手を使わずに半身を起こし目の前に俺の姿を発見にした者が鉄砲丸のように立ちあがった。


 笛のように綺麗に澄んだ声と共に立ちあがったひまわりのような明るい少女。身体の線がきれいに出た丈の短い白いワンピースを着て、やはり白い艶のあるハイヒールを履き、パールのイヤリングをつけていた。身長は140センチを少し超えたくらいだろう。青色の髪はまっすぐで長く、同じ碧眼は澄んだ大きな目をしていた。ここまで説明すれば呼び出した少女は普通の人に見えるが…それは間違いだ。


 何故なら少女の背中からは広がった純白の3対の翼。超高濃度の魔力で構成された翼からは、火の粉のような光が流れている。


「遂に、遂にっ!私と子供を作りたくなったのですか!?あぁどれ程この日を待ち望んだか!ささっ寝室に連れていって貴方様の子種を下さいぃ!」


 3対の翼を激しく動かしながら俺に迫ってくる。


「落ち着きなさい」


――ゴンッ!


「イでぇ!ちょっ、今度は本当に痛かったですけど!!」


 騒がしい彼女の頭にナビリスがチョップを入れた。チョップにしては鈍い音を部屋中に響き渡せ、痛みで床に蹲ってしまった。まぁ痛みがあるのは神の攻撃だからな。そりゃあ痛いに決まっているだろう。


「サラーチェ、騒がしいですよ。熾天使程度の貴方は生意気な行動を慎みなさい、見苦しいですわ」


 おおナビリスが毒舌モードになっている。俺も神界にいる頃は良くあんな風に虐められたっけ。


「はぁ~?あんた誰よ――ってナビリス!?貴方ショウ様から身体を造って貰ったの?しかも賢神様だし…」


 頭上からいきなり言われた侮辱的な態度に怒りの表情を見せたサラーチェが睨みつけると、見知らぬ女性に何か言い返そうとしたが。ナビリスに鑑定を掛けたらしく痛みを与えた者の正体が判明すると驚き、更に下級神とはいえ立派な神となった彼女に驚愕していた。すると次の瞬間、彼女の胸に飛び込んだ。


「良かった!良かったねナビリス!願いを叶えてもらって。天使も皆も貴方の幸せを願っていたの」


 瞳から涙を零し、正に天使の様な表情で胸に顔を埋める彼女にナビリスも薄っすらと笑みを浮かべ子供をあやすように撫でた。何度も撫で続けた。



「……っていうことで、サラーチェには俺が下界で経営するカジノを取り締まってほしい。サラーチェには神界で作った巨大カジノで経験済みだろう?向こうと比べらたら王国は退屈になると思うが出来る限りのサポートはしよう。天界や神界に戻りたくなったら俺に言ってくれ」


 正常に戻ったサラーチェをソファーに座らせ俺の今後やりたい事を伝えた。


 俺が神界で神へと上がった頃、召喚魔法で初めて天使を神界に召喚したのが彼女だった。


 神界カジノでディーラー長として働いていた彼女にはカジノを経営する為のノウハウが蓄積されている。


「勿論です!ショウ様の頼みなら、私何でもします!文字通り何でもっ!」


 元気だな。まぁ彼女は昔から元気だったからな。


「それと、私からも一つ宜しいでしょうか?」


「ん?どうした」


「他のディーラーやスタッフも私が低位天使召喚で補っても宜しいでしょうか?私が知能を皆にトレースすれば一瞬で仕事が出来るようになります」


 いい案だ。他も人材を神界に住まう天使達を呼ぼうと思っていたが、それは楽だ。


「ああ、俺は構わないよ。ただ下界の住民には天使だとバレないようにステータス偽造と翼を隠して欲しい」

 

 もし従業員が天使だとバレたら『じゃあそのオーナーは何者?』と面倒くさくなる。それは本当に面倒だ。


「はいっ!あ、あと…」


 まだ何かあるのか?


「何だい?」


「…ショウ様との子供を……」


 おいおいいきなりぶっこんで来たな。ほら後ろで紅茶を注いでいるナビリスの気配が凄い事になっているぞ。でも長い間俺の為に精一杯従えてきたのだ、それぐらい了承しないと紳士としての名が腐る。


「ああいいぞ、でもナビリスが先だ」


 俺が許可を出した途端、ナビリスが手に持っていたティーポッドが欠片も無く粉砕したが、彼女の名を伝えた瞬間何事もなかったかのように元通りになっていた。


 さて…あとは建物を建築するだけだな。


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