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第53話 婚約

今晩俺の屋敷に帰宅した途端、おっかない女神に位が上がった元ナビゲーターとの話し合いに決定した事に何となく心が晴れない気持ちで一つ、ため息を付き着替えをする為待機室へ足を向けた。

観戦席から集中する視線を全て無視し、何処かおぼつかない足取りで待機室まで繋がる廊下を渡る。

廊下に引かれたカーペットが裸足を吸収のかと沈む感触を楽しみながら、俺が着替えを入れたロッカーまで辿り着いた。


この部屋に俺一人だと把握すると、近くに設置された長細い椅子に座り天井を眺めながら更にため息を付く。


『ナビリス、これからどうしようか?』


思いがけなかった状況に陥った俺はナビリスに助けの念話を送る。


『ん~大勢の貴族の前であの発言をした王女の勝ちよ』


彼女の言う通りだ。…あの瞬間、エレニールは他の戦いに完全勝利した。


『でも、もしショウの気が進まないのならこの国から出る手段もあるわ。その代わり、指名手配されるけどね。ふふふ』


…………。


『俺の負けだな。ナビリスに謝る事が増えてしまった。ごめん』


素直に俺の負けを認め、負担が増えるナビリスに俺は心から謝った。それが俺が今出来る事だ。


『…私は気にしないわ。貴方との子供さえ授かる事が出来れば正妻とかには興味ないわ』


『ナビリス…』


今の彼女の表情には慈悲深い感情が溢れているだろう。この前一人で神界に遊びに行った彼女は願望であるメティスを抱いた時から、彼女の表情が少し豊かになっていた。


『それに、王女様に訓練を付けるのも悪くないわね』


ふふふ、と笑う彼女に。俺はご愁傷と将来ボコボコにされるエレニールに祈りを捧げた。

それより、あれほど人間と言う種族を毛嫌いしていたナビリスも変わったな。やはり、メティスと一緒に時間を費やした事が大きいか…。

そんなことを考えながら着替えを終え、待機室の扉を開くとそこに俺の案内役を携わったメイドが入り口の前に待機していた。既に気付いていた俺は驚くことも無く、普通に部屋から出た。


「ショウ様。国王陛下が貴方をお待ちしております。こちらへ」


何処か棘がある喋りで俺を案内するメイドに従い、そのまま王城を進む。


「こちらとなります」


俺はてっきり謁見の間に通されると思っていたが、大きな門はスルーし。歩くこと暫し、案内された場所は王城の奥行った位置にあり。目の前には何も変哲も無い、普通の木製扉が一つあるだけであった。

しかし、扉を守るように立つ二人の騎士がいた。他の騎士とは違い煌びやかな鎧姿の騎士。国王を守る近衛騎士だろう。彼等のステータスを確認すると剣術レベル7や、身体強化レベル8等レベルも高い。それより上のエレニールが特別だっただけだ。


メイドと、その背後を歩く俺の姿を確認した一人の近衛騎士が扉をノックし、数秒後開かれた扉を案内したメイドは入らず。俺だけ中に入った。


部屋に入ると入り口にもう二人の近衛騎士がおり、正面のソファーに座る先程会場で見掛けた国王本人、横に爽やかな青年。年齢は二十後半か?彼の横には俺と同じく着替えたエレニールが頭にティアラを乗せ、機械のようなぎこちない動きを見せている。意外と可愛いと思った。彼等の背後にはスーツ姿をピシッと決めた顎髭を綺麗に整えた男性が立っている。

神眼で確認すると、入り口にいる近衛騎士隊長、国王、エレニール、王太子。背後に立つ男が宰相。

部屋の端には高そうなローブを羽織った魔法使いも待機している。


「よく来てくれた。座ってくれ」


国王に言われた通り、反対側のソファーに座り。身体全身を背に預ける。うん、ふわふわで気持ちいな。


「さて、エレニールからお前の事は聞いている。ラ・グランジ当主アレキシアからもな。礼儀作法を知らないそうだな?まあ今は公式の場では無いから俺は気にしない。力ある者、大いに結構だ」


服の上から膨れ上がった肉体をガッチリと、力強く口を開いた国王。

王都を見た限り恐らくは優秀な王様だと分かる。アカシックレコードでも彼の偉業を既に知っている。


「ありがたい。田舎育ち故、礼儀作法は習わなかったからな」


目の前のテーブルに置かれたクッキーを一口入れる。美味しいな。


「ふむ、そうか。そうしておこう。余計な検索で他国に逃げられたくないからな」


ははは、と腕を組みながら笑う国王。その姿に他の人は苦笑している。


「…では、エレニールとの婚約を認めよう。エレニール、お前もそれでいいか?」


国王が放った言葉に驚愕している他の人を他所に、向けられたエレニールはハッキリと頷いた。


「はい、私も構いません。私は全力で挑み完敗した身。それに…顔も他より良いですし」


最後の言葉には照れながら彼女も俺との婚約者になることを賛成した。


はぁ~。これで彼女との婚約が決まってしまったか。

まあ、幸いにして彼女自身は第三王女。王位継承権も第7位程度。それに俺も大国の長になる積りは無い。面倒だし。


「はははそうか、そうか!今日は良い日だ!そうだな折角だ。宴が始まるまで二人で中庭でも散歩してくるがよい。お互い知らない事が多いだろう」


他が驚愕している間にさっさと話しを纏めた王様。やはり賢王と名高い王だけあった頭の回転は速いな。


「畏まりましたわお父様。ではショウ、少し歩きましょう?私達は夫婦になるとはいえ、何時かの婚礼を迎えるまでは他人同士。これからの関係を良好にするためにも、ちょっとずつお互いの事を話しておくべくだと思いますわ。エスコートを頼むかしら?」


王の言葉にエレニールが立ち上がると、俺の前まで移動し。ソファーに座る俺に手を差し伸べた。


「ああ、そうだな。中庭が何処かは知らないが、喜んで」


そう言う事しか出来なかった俺は彼女の手を握り、彼女の道案内に従って部屋から出た。




ショウとエレニールが部屋から出た直後。背後で立ち止まっていた宰相が国王に近寄っていた。


「陛下、失礼ながらもよろしかったでしょうか?決闘で勝利しましけど、あのような素性が曖昧な男にエレニール様を…っ!」


国王に近付き、不服を申し立てようと彼の顔を見た瞬間、宰相の背筋が凍った。

そこには今まで笑っていた王の姿は無く、久しく見せてこなかった真面目な表情でショウが出ていった扉を見ていた。

その触れてはいけない雰囲気に何も言えなくなる宰相。

彼の横に座るランキャスター王国次期国王、第一王子ヴェルガも普段とは違う雰囲気を纏っていた。部屋の空気が重く感じる。


「親父」


「ああ…」


その異様な威圧感に宰相は諦め、元の場所へ戻った。


召喚された勇者の血を受け継ぐ二人には、ショウと言う男に秘められた計り知れない力を直感で感じていた。

他の者が変な気を起こす前に彼等は確実な繋がりを求めた。幸いショウの外見は良く、エレニールにもその気があったので、何も問題なく事を進めることが出来た。


「かの者は亡き父上の別荘に住んでいるようだ。念の為、遠くから見張りを付けて置け。絶対に国に留めておくのだ、万が一でも帝国に取られるな」


ポツリと王から言葉が漏れた。



「ここが自慢の庭園だ。どうだ?様々な花が咲き美しい場所だろう?」


俺がエスコートする羽目になったが、広い城の中など知らないのでエレニールによる道案内を頼りに中庭に辿り着いた。王城の中庭だけあって一つの村のように広大な広さ。

短く整えられた芝生に花壇に咲く色んな種類の花にあるかないかの風が花房をかすかに揺する。


「ああ、エレニールの様な美しい女性と合わさり更に美しい」


「あ、ありがとう」


俺のお世辞にも初々しい反応を見せる彼女が可愛らしい。まぁ先程の反撃と思っていてくれ。

それから俺達は柔和にお互いの身の上を語り合う。

エレニールは話上手で聞き上手であった。自身の兄達と弟を交えたエピソードを、そして妹がどれだけ愛しく可愛らしい思い出話を。情景が思い浮かぶように語り、俺も育ててくれば祖父の話を少し大袈裟に。自然と話を弾ませ、空気が重くなることが無かった。



「エレニール。両手を前に出してくれ」


中庭の中心に置かれたテラスでメイドが淹れた紅茶を飲みながら俺が塔で経験した出来事やエレニールに決闘を挑んだ馬鹿貴族等の話をしていると、気づかない内に時間が過ぎていた。


彼女と話していて思った事は、彼女は実に優しい女性であった。これならナビリスとも仲良く出来るだろう。


それと、ふと一つ思い出した事があるので彼女に尋ねた。


「うん?あ、ああ。分かった」


突然の事にエレニールも戸惑いながらも両手を前へ出した。


「ッツ!?」


その両手を俺は重ねる様に置いた途端。魔法陣が出現し、その周りから光線が魔法陣に集中し始める。

光線が消滅した彼女の両手には俺が決闘で使っていた剣、神剣プロメテウスのレプリカが握られていた。


「これは…」


驚きながら顔を上げ、俺と目を合わせる。それに俺はニヤリと笑った。


「あの決闘でエレニールの剣を壊しただろう?その代わりにこれを上げる。切れ味は保証する」


「…ありがとうショウ!」


俺が与えた剣を大事そうに持ち、満面の笑みで俺に礼を言う彼女は今までで一番幸せそうで、綺麗だった。


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