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第189話 新人教師の初日

 高等部における剣術指導の新教師に抜擢されたショウの自己紹介後は様々な情報が入れ混じり、講堂から出てきた生徒達は高等部から初等部へ正に混沌とした波紋が広がったまま、ホームルームの教室へ向かっていく。

 風格を目の当たりに武術初心者の年若い雛鳥、成人済みの早塾な女子生徒、普段は名門出身の威光を笠に着て高慢な態度を取る性格の持ち主である男子生徒にとどまらず全校生徒の脳裏に刻まれたショウという名は、一限目が始まる頃には知れ渡っていた。良くも悪くも…。


 ホームルームに戻った生徒達の興奮冷めやらぬ様子でショウの話題に花を咲かせていた。


「ねぇ、ショウ先生ってすっごくカッコ良かったよね!高等部だけじゃなくて、中等部でも剣術教えてくれないかな~?」


「うん、あの威風堂々とした立ち振る舞い、最初王族の方が学園へ見聞しに来られた勘違いしちゃった」


 中等部の教室で仲良しグループが揃って蜜蜂のように、余念なく喋りが絶えない所があれば。


「…っくそ。外見が良いからってチヤホヤされやがって…大体ッ!あの教師が本当に剣術の達人だときまったわけじゃねぇ。きっと…そうだ、権力者のコネを使ったに違いない!」


「ん~剣を嗜む者として彼の鍛え抜かれた体躯は敬意に表する程、長年の修練を物語っていたよ?足捌きすら超越された無駄のない動きに感じた。あの先生なら僕を更なる領域に上げれるかも」


「ッチ…剣聖の跡取りのお前がそう言うなら、今の所納得しとく。けど虚言だったらブッ飛ばすからな!」


「うん別に構わないよ。ん~今日まで退屈に過ごしてた剣術の授業が待ち遠しい」


 周りから起きた絶賛の嵐に嫉妬に駆られた高等部一年の男子生徒と、何やら腹に一物抱かえる剣聖を親に持つ少年の見込み。


 上級貴族令息、令嬢が集ったグループではこんな会話が繰り広げている。

 

「皆様気付いておいて?エレニール殿下のお相手があのショウ教師らしいわ。噂に違わぬ殿方でしたわね」


「ああ実は、彼の雄姿を僕は一度垣間見たことがあるんだ。そう…武闘大会の表彰式にて帝国の勇者が招いた暴走、狂った勇者の拳を軽々と受け止めた英雄が学園に配属されたショウ先生だったのさ!」


「そう言えば…夜会で騎士団長の叔父様が口を滑らせていたわ。決闘を申し込んだ王女殿下に対して、防具無しの軽装で挑んだ儀式。周りを圧倒させる実力を眼前で繰り広げた斬撃の美しさは、瞳に焼き付いて永劫忘れないって」


「あの騎士団長殿にそこまで言わせるのか…凄まじいな。剣を交わす機会が待ちきれんッ!」


「っこの威圧馬鹿!あんたのせいでリーちゃんの髪紐は解けちゃったじゃない!少しは周囲を考えろアホ!」


「あ、あわわ!ヨーコちゃん私はき、気にしないよぅ」


「おっと、すまんすまんガハハハ!剣に生き、剣に死ぬ道こそ本望を体現する儂が興奮するのも当然の定め!そう簡単に加熱した大鍋は冷めん!」



「はぁ~~!何で私の婚約相手が見た目ミノタウロスのアンタなのよの!あぁ王女殿下が心底羨ましいぃ」


 ともあれ、ショウの存在が学園全体に新たな風を吹き込み、生徒たちに希望と思惑を芽生えさせたのは確かだった。


 

 

 二週間に及ぶ秋休みが経過した冬の始業式、講堂での晴れ舞台を良好に成し遂げた俺の姿は室内訓練所にて静かに佇んでいた。前日に教員室で渡されたクリップボードと挟んだ課程メニューに目を通す。古の勇者が学園設立者の背景もあり王立学園の学校制度は日本と海外のシステムが混じり合った箇所が見受けられた。


 指導内容を読み進めていくと、最後のページに終業式間近、学園と分校で選ばれた代表者が競い合って覇者の座を目指す祭典の内容が書き綴られていた。

 学生のみ参加を許された祭典の名は『天雲祭』。王族が観覧される催し物で実績を残せば、誰もが志願する近衛騎士への道が飛躍的に開ける。

 名門中の名門と揶揄される学園側としては毎年、優勝盾を掴み取って当たり前だと熱い意識を固守しているが、どうやら三年前の天雲祭から一位の座を逃しているらしい。


 理由は単純明快。分校側に他より頭一つ、二つ突き抜けた実力者が現れ、圧倒的な強さで勝利を掻っ攫う生徒がいたためだ。式典に出場できる参加年齢ギリギリの若干13歳で天雲祭に出場した彼女は、あらゆる参加相手をばったばったと倒し、遂には無傷で優勝を手にした天才。遂には無傷優勝を果たした回数は三度。


 燦然と輝く黄金の髪に美貌を兼ね備え、不滅の業績を立てたその生徒は、尊敬と恐れをもって『純金剣豪』のエンリエッタと呼ばれた。


 要約すれば、学園長は優秀な剣術顧問を雇い入れ、学園の生徒を次の天雲祭が開催するまでに優勝できる程の実力を伸ばせと求めている、ということか。随分と俺に期待しているな。エレニールに挑んだ決闘の瞬間を目撃していた…か。


――キーンコーンカーンコーン。


 予鈴の鐘が室内訓練所に響いた。まぁ今考える事ではない。


「えーと…コッチで合っているんだよな」


「スケジュール表に書かれた教室番号が合ってれば――っあ、ショウ先生!」


「っうお!近くで見れば本当、顔整っているし!でも此処で間違いないな!」


その時、訓練所の扉が開き、数人の生徒が入ってきた。彼らは俺の姿を見つけると、緊張した面持ちで近づいてきた。


「ショウ先生、今日から剣術の指導お願いします!」


 元気一杯に挨拶を述べる生徒に俺も挨拶を返す。記念すべき初授業。


「ああ、こちらこそ今日からよろしく。授業が始まるまで時間がある。更衣室で体操着に着替えてくるように」


「「「はい!」」」


 彼らの合わさった声が広々した室内に響く。生徒たちは一斉に更衣室へと向かい、俺はその背中を見送りながら、今日の授業の流れを頭の中で再確認した。


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