閑話その14 私、乙女ゲームに転生!? 中編
遅くなりました…m(__)m
時は2020年、夏の終わりに新ゲーム会社が開発した新作恋愛ゲームが発売された。ゲームのジャンルは恋愛のみならずRPG、バトル要素も組み込まれたゲーム界に突如現れたダークホース、名は『天の川より、あなたへ』。クローズβは何時の間にか始まり、気づくと終わっていた。突如新参ゲーム会社より発売された乙女ゲームの始まりはとても静かなもので、その広告の無さから初週売り上げは900本と決してヒット作品とはならなかった。
事態が好転したのは作品発売初日に購入して五日後にクリアした人気動画投稿者がSNSに投稿した一つの書き込み。内容は実況者にありがちなゲームレビュー投稿、しかし問題となった投稿が絶賛塗れの高評価な点を除いて。抱腹空前絶後のコメディーシーン、全身に流れる血が滾らずにはいられない怒涛のバトルモード、そして迎えるヒロインルートのフィナーレでは、大人も涙腺崩壊する感動爆弾を投下してくる。
湖に落ちた一つの小石から波紋が広がり、やがて同じくゲームを購入した者達の同様に絶賛するゲーム情報に興味を引き寄せられた他の人達も徐々にゲームを購入していき、短期間で作品が波及していく。段々とネタバレ内容を含んだ感想がSNSに投稿され始めたある日、書き込みを流し読みしていた一人のプレイヤーによって衝撃の真実が発覚する。――それは。
『誰も同じエンディングに辿り着いていない!?』
SNSで噂が流れると、あっという間にゲームの売上げが跳ね上がり、噂を検証した結果…序盤に出てくる選択肢ですらストーリーが分裂していくゲーム内容となった。それから程なくとしてゲーム投稿を生業とする人気実況者が挙ってゲームを購入したことでグングン売上げは上がり、発売から一カ月で発売本数40万を叩き出す。恋愛ゲームにしては異例の大ヒット作品となった。
勿論、生前隠れゲームオタクだった私は、言わずもがなゲームを購入すれば一日で速攻ドハマりした。
ゲームメニュー画面を最初にする事は自分の分身とも言えるアバターのキャラクタークリエイト。しかし、恋愛ゲームとジャンル付けされた内容だけあって作れるキャラの性別は女性のみ。
キャラメイクが済むと次に、プレイヤーが降り立つ国が選べられる。
ゲームを始めた新規のプレイヤーが選べる最初の選択肢は三強大国である…ランキャスター王国、カサ・ロサン王国、バンクス帝国のどれか。
魔法と剣のファンタジーが舞台のランキャスター、高度な技術と科学が発達した帝国、国土の殆どが砂漠に覆われたカサ・ロサン。三つの国にそれぞれメインストーリーとヒロインが用意されている。
投稿された動画を見る限り何処の国を選んでも美麗なグラフィック、ゲームに吸い込まれる様な澄んだ音楽。ゲーム制作に然程詳しくない私でも見抜く程、作品につぎ込まれた開発費。
ランキャスター王国を選んだ私は休日の日は寝る間を惜しんでプレイ尽くした。
――何の因果か前世でプレイした乙女ゲームに輪廻転生を成した私、ゲームでは情報すら無かったラーヘム魔導国南東の領地を治めるミレディリック子爵次女『ヴィオレット・フランソワ・ミレディリック』に生まれ、スクスクと大きな風邪も引くことなく五歳の誕生祭迎えた私は教会に赴き同年代の子供達と一緒に成長の祝福を神に祈りステータス魔法を授かった。
別に必ずしも親に見せなければならない、とは無くステータス魔法を人と共有するかは己次第。だけど、『魔法』が代名詞であるラーヘム魔導国では魔力の有無が最重要とされている。魔力が高ければ高い程将来好ましい職業に就けるが、逆に魔力が低いと周囲から奴隷のように扱わられ、天寿を全うする事無く年若く命を絶つ。
教会から帰宅後、両親に見せる前に自室へ駆け足で戻った私は無性に緊張するらしく…心臓の音が、ドラムを鳴らしてるみたいに、身体中に響いていた。興奮した心を落ち着けるように肺に新しい空気を送りこんで井戸水のように落ち着く。
「ステータス」
決死の覚悟で――私は生死を掛けた魔法の言葉を呟いた。――ありがとう…一度死んだ私を転生させた上位存在の者、恩恵を授けてくれてありがとう――!。
「ヴィーちゃん?鏡をジッと眺めてどうしたの?」
「っふ、私の天女ような美貌に汚れが付いていないか確認してただけよ」
「えぇ~、ヴィーちゃんナルシストー。でも早く準備しないと食堂が閉まっちゃうよ」
鏡に映す自分の青く艶やかな髪、シャープな目元の中で宝石のように煌めいている美しい金色の瞳。きめ細かな真っ白い肌には汚れ一つない姿に思わず追憶に浸っていれば、背後より寄りかかって来る同じ寮で暮らす友人、シャリスが頬っぺたを指で突きながら自分をナルシスト呼ばわり。彼女の言い分も理解出来るから、「そうね」とだけ告げハンガーに掛けた制服を手に取った。寝巻きを脱いで下着姿へなった私は昨晩の内にアイロン掛けた白いシャツを被りボタンを留めてタイツを履いたら次にスカートを着る。
「…っあ」
「うん?どうしたの」
「なんでもないわよ」
スカートを広げた時、昨日受けた薬草授業で零した汁がこびり付いている。…見なかった事として無視しよう。シャリスに見つかる前にそそくさと履き私達の学年を示す緑色のネクタイを結べば、後は冬用のセーターに灰色の魔法ローブを羽織ると美少女魔女っ娘の完成だッ。可愛い娘を産んでくれた母様に感謝しよう、けど未だロリコン疑惑が晴れてない父様に感謝するのは何だか癪だから心の奥に留めておくけど。
「っうん完璧!それでシャリス、本日の授業は何かしら?」
「えーと確か…。1限目は妖精魔法の授業、2限目は飛行訓練の授業に3限目は実践魔法の訓練。4限目は…薬草学だったはず、…っあ!」
既に制服に着替え終えたシャリスの話を耳に入れつつ今日行われる科目授業の魔法書を鞄に放り込んでいると、何か思い出したらしく表情を変えてビックリした声を上げる。いきなり不意を突かれた私も思わずぎくりとする。
「急に叫ばないでよ、私も驚いちゃったじゃない」
「えーだってー今日の午後学園に他国のお偉いさまが立ち寄るらしいよ!」
「誰よ、その他国のお偉いさまって…?」
私が誇らしげに語る事柄じゃ無いけど、イヴァルニー魔法魔術学園は国の中核を補う重要な学園機関と断言出来る。故に子爵家次女の私、男爵家長女のシャリス等その他才能に恵まれた魔導貴族の跡取り達が日々学問に励む此処には毎日の如く要人達が訪れる場所。逐一報告する事じゃない気がするけど…。
「なーんと!訪問する人は…ランキャスター王国第三王女、エレニール・エル・フォン・ランキャスター様よ!」
「……え」
両腕を腰にやり、デデーンと背後に効果音が付いてそうな自慢げに語るシャリスが小川の清流のような音色で口火を開いて告げた名前に私の思考が片端停止した。
なんせ…前世ハマった乙女ゲーム『天の川より、あなたへ』に登場する重要人物だったから。




