表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/221

第123話 『無桜』

遅くなりました。

モチベーションが上がらなくて随分と掛かってしまいました…。

 魔物の襲撃から30分は経っている、俺等の周囲には大量の事途切れた魔物の死体が転がっているが攻撃は途切れない。向こうから槍を装備したホブゴブリンが狼系の魔物に騎乗しながら手綱も持たずに木の影を伝って疎かにした俺の首を狙いを定め大骨槍を突き出してきた。周りの雑魚とは違って一際巨体なゴブリンと使役する狼も全長二メートル程。見る限り魔物を率いる頭だろう。


「グギャッ!?ギャギャ――ッ!」


 魔力探知で奇襲を予期してした俺は槍の穂部分を剣で弾く事で真っすぐ腕を伸ばしきった突き攻撃を流して駆使する狼系魔物事、下段から円を描くように剣を振り上げ生体を縦真っ二つに斬り分ける。狼の胴体から飛び出た血が服と顔に掛かるがお構いなしに振り上げた武器を逆手に持ち替えて真っすぐ地面に突き刺せば土中に潜った魔物の濁った醜い叫び声が耳に届く。


 親玉だったホブゴブリンを狩っても魔物達による攻撃はひっきりなしに終わらない。それはまるで魔物が洗脳されているかの如く圧倒的な実力差を見せつけても狂ったように俺と背後で座り込んだ少女の命を刈り取ろうと攻撃凶器を振り回す。…案の定鑑定魔法で魔物を調べてみれば生き残っている魔物全てに『洗脳』と精神が支配されていた。つまり自然に起きたスタンピードじゃ無く人の手が加えられた知能犯の仕業…。これだから人間は。


 しかし、このままちまちま一匹づつ屠っていてもキリが無い。そろそろ癪に障ってきたし一気に終わらせそう。

 体内に巡回魔力を一時的に両手に集める。カウンターの型から胴体を前に傾け、剣を持つ右手に左手を重ね角度を付けて腰より後ろへ持ってくる。右足を地面に罅が入る程重く踏み込みからの水平斬り。


――剣神流七ノ太刀『無桜』

 

 千を超える不可視の斬撃が三日月模様の波動となって全方位に咲き割れる。伸びきった雑草が無数に刈られ、豆腐の様に周囲の魔物を切り裂いていく。地面に積まれた死骸に隠れて奇襲の機会を伺っていたゴブリン共は無桜の三日月を拝む事無く微塵斬りにされる。


 千を超えた斬撃が全て消えればその場は正に魔物達にとって地獄、半径50メートル以内に散在する生き物は背後でうずくまる小さき魔法使いを残して全滅。一応二千分の一程威力を抑えている。


「す…凄い」


 他の人間がこの光景を一目見れば散りばめられた臓器に溜池如くぶちまけた赤混じりの緑血に気分を悪くしてその場で嘔吐しそうだが、ゆっくりと後ろを振り向けば少女は穢れ無き純粋な気持ちを露わにしていた。俺が先程被せたマントを握り締め俺が引き起こした全景を目に焼き付けている。


「さて…気分はどうだ?今話せるか」

 

 鞘に剣を戻し地面に片膝を付き少女と視線を合わせる。あれ程怖がっていた少女の表情はさっきよりマシになっていた。


「もう一度名乗るが王都ランキャスター所属、A級のショウ。魔都ガヘムにてこの付近の村へ向かって冒険者が立て続けに行方不明になっている内容の依頼を受け、この地までやって来た。…辛い経験をしたかも知れないが、何が起きたのか教えてくれないか?」


「う、うん…。分かった。最初は私達が良く使いギルドで受けた依頼を――」


 生き残ったまだ歳いかない魔法使いの少女、否『マイシャ』は語り始めた。

 要約すると、事の発端となった村から近い町で依頼を受けたマイシャのパーティーメンバーが旅の支度を完了次第町を出発した。距離も然程遠くなかったので馬車では無く徒歩で向かったらしい。順調だった旅は目的地の村の手前で急変した、メンバーの一人で探知魔法が使える魔法使いによれば、人間は探知出来ず代わりに看破したのは魔物の軍勢。凶報を知ったリーダーは即座に依頼遂行を断念、町まで撤退し応援の要請を命じようとしたが見張りの魔物に見つかったらしく集団の襲撃を受けた。

 防戦しながら来た道へ撤退しようとしたパーティーだったが多勢に無勢、一人、また一人と最後を迎えた。リーダーは殿となってマイシャを逃がすが、彼女曰くリーダーがどうなったのかは目にしていないらしい。その後、森を駆け抜けていくマイシャだったが案の定迷子になり、森の中を彷徨いながら運よく見つけた洞窟で数日過ごす。しかし、森を探っていた魔物に見つかった彼女はがむしゃらに逃げ回り絶体絶命の所に俺の助けが間に合ったようだ。


「そうか、大変な思いをしたんだな。今まで頑張ったんだな」


「うん…わ、わだしぃ頑張ったよ!うぅ…、頑張ったよぉ!」


 俺に説明している間、涙をこらえるのに全力を注いでいたマイシャだったが、遂に我慢の限界が来たらしく、胸に飛びつくとぎゅっと引き締めるようにして、熱い涙がとめどなく流れ始めた。


「で、もっ!っ…あ、っ……、ぅあ……!」


 気持ちを収めるまで俺は静かに泣く彼女の背中をあやすようにさする、これぐらい一人間に肩入れしてもナビリスは怒らないだろう。…王都へ帰還したら小言を貰うかもしれないが、目の前に泣く人がこの世界を憎むよりはましだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ