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第102話 カミノジマ

短いです。

振り下ろされた斧は狙い通り薪の中心から二つに割る。朝から薪割りの作業を行っている、これが意外と楽しい。最初はアダマンタイト製の斧を振り下ろしたせいなのか、薪割り台事綺麗にバターを切り裂くより簡単に二つに割ってから村で購入できる鉄製の斧を使用している。それでも、結構力とステータスを意識しなけらば直ぐに又薪割り台二号もお陀仏になるだろう。


 更にもう一度手頃な大きさに適した薪を台に設置し、頭上に振り上げた片手斧の落とす。中心に命中した斧が薪を水平に真っ二つに割り、その辺で加工した薪割り台に突き刺さる。


「ふぅ」


 一滴の汗も出ていないが、何と無く首に巻いたタオルで汗を拭き取る動作を実行し、冷たい水が入った竹水筒を唇にそっと添えて喉の奥に流し込む。


 草縄で一つに括り付けた薪を担いで建てた別荘へ戻る。


 土で固めた道を進むと、目の前に二階建てのロッジが見えてきた。大きさはそれ程広くは無いが、一人で住むには十分すぎる広さ。玄関前に置いたマットで靴に付いた土埃や樹皮の落として開けた扉を潜る。


 リビングに設置したレンガ式の暖炉の傍に先程割った薪を置いて近くのソファーに腰を沈めた。俺の他には誰も居ない、ナビリス、銀弧も王都の屋敷で何かしら暇を潰している頃だろう。


 なら…俺は今何処に居るって?



 そこを見つけたのは日課でもある神眼で世界を眺めている時だった。


 この日はランキャスター王国より北方、海の向こう側の大陸を見渡している時に荒れる海に守られた一つの孤島。貝の蓋を閉じてしまったような形の島は周囲を断崖絶壁で船では決して上陸出来ない。その断崖が海に削られさらに険しくなり、島に来るものを仁王立ちで拒むような、そんな印象を与える。


 そんなロマンの塊とも言える無人島を俺は勿論無許可で占領した。


 魔物の影も無く、珍しい果実で溢れたこの島が意外にも気に入っている。


 それに、王都や都会と違って雑音が聞こえてこないのも良いポイントだ。いくら緑に囲まれた屋敷に住んでいても偶には一人になりたい時もある。

 

 そう言えば島の名前はどうしようか?飛空艇を持つ国は有れど、極寒の気温を防寒対策で長期間空の旅を生き延びなければ、この島まで辿り着く事は出来ない。その前に飛空艇が寒さで壊れる落ちだ。


 ん~面倒だから無人島の名前は『神ノカミノジマ』でいいか。人間がその島に着陸するにはもう数世紀掛かるだろう。頑張りたまえ人類よ。そして、困惑しろ。断崖絶壁な筈なのに人が住んでいた痕跡が存在する意味を。精々俺を楽しませてくれよ。


 ソファーから立ち上がるとキッチンに向かい熱々の釜に入った飯を茶碗に注ぎ、リビングからウッドデッキへと繋がる扉を開く。途端に凍てついた空気の風が全身を駆け巡り、手に持った茶碗から温度をもの凄い速度で奪う。だが神の身には通用しないので、心地よい風を帯びながらデッキに置いたロッキングチェアに腰を落とすと正面に広がる景色を思行くままに堪能する。


 四方を山に囲まれた盆地に建てたロッジから見える絶景を独り占めする。


 平地の土に根を張った灌木の枝に止まったこの島に生息する鳥の声がしきりに耳をつつく。王都では見ない種類だ。この島だけに生息する鳥か?鳥神に聞けば返事貰えるか?まあ、面倒だから別に良いか。


 それと、先程魔物が生息しない島と言ったが、よく見渡せば竜が生息していた痕跡を見て取れる。ボコボコに荒れた地面に半ば土に埋まった竜の鱗、人の背より長い爪。長年の時が経っても衰えを見せつけない竜の尖った牙。


 それがごまんと転がっている。国からしたらこの島は正真正銘、宝の島だろうな。この無人島の情報が流れば、特に資財が何時も欠けている微小国家は他国と争闘を起こし、理が非でも強奪するだろう。


 ま、陸の果ての海を渡れる手段と手口が有ればの話だが。



 ゆったりとした時間を過ごす。時間の存在そのものさえ忘れてしまうようなゆったりとした時間を満喫しながら空を見上げる。星一面の青黒い夜の色が頭の上にひろがる。故郷の地球とは異なる色と大きさの月が俺の瞳に映った。外の気温は更に冷え込んでいるが、神の身体に寒さは感じない。神が風邪でも引いたらそれこそ本末転倒だ。


 さて、そろそろ一人の時間の終わりが近づいてきた。


『ショウ、そろそろ戻ってきて。貴方の好物も沢山用意しているわ。早く帰って来ないと銀弧に全部食べられてしまうわよ。さ、孤独に黄昏る時間も終わりよ』


 ほら。言った通り。


『分かった、暖炉の火を消したら直ぐに空間魔法で帰る。それまで銀弧に俺の分まで取られないよう見張っておいてくれ』


『ふふ、それは出来ない相談ね。彼女、口から涎を垂らして今にでも料理に飛び出しそうにしているもの』


『そっか。なら早く後始末を終えて帰宅するよ』

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