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食能  作者: へーはちろー
1/7

深夜の呼び出し

平成と令和の狭間に投稿。


今回はホラーであり、苦手な一人称。

少し短めな話となっております。

どうかお付き合い願えたら……と思います。



深夜の電話に楽しい思い出がないのはどうしてだろう。

昼勤務での書類仕事に疲労していた私は、深夜を1分過ぎた頃にはベッドで熟睡していた。そこに携帯電話からの呼び出し音。習性からか、出たくもないのに目は覚める。

1時35分。殆ど寝ていないじゃないか。

途中で切れることを半ば祈りつつ、携帯電話に手を伸ばす。予想通り、職場からだ。

都内の所轄警察署が私の職場だ。

鳴り続ける電話の通話ボタンに、嫌々ながら指を這わせた。

『警部、ご就寝のところ申し訳ありません。少々厄介な事案が発生しました』

本当に申し訳ないと思っているのか怪しい調子だが、そこを突いても意味のないことだ。本当に緊急なのだろう。

「殺しか?」

近年増加する猟奇殺人を思い、私は思わず苦々しく吐き出した。

『いえ……器物破損……になるんですかね。それと暴行です』

やけにはっきりしない物言いだ。

『とにかく来てください。我々には手に負えそうもありません。署長から直々の命令です』

苦虫を噛み潰すとはこのことだ。専門分野の性格上、厄介ごとはことごとく私に回ってくる。荒事が苦手な私が、デスクワークメインの心理分析を選んだ時には、こんな事態は予想だにしなかったものだ。

「すぐ行く。関係書類を整理しておいてくれ」

電話を切って3分。意識を切り替えてからベッドより抜け出した。



2時10分、署に到着。

もっと時間をかけてやろう、という心理もあったが、どうにも名状しがたい不安が腹に居座り、車のアクセルは無意識に強めに踏んでいた。

駐車場に車を停め、入り口へ。コンビニより以前より24時間営業を実施しているとはいえ、深夜の警察署など来るものではない。薄暗く、雰囲気が悪いことこの上ない。その薄暗い正面入り口に、異例の出迎えがあった。

「早かったじゃないか」

高校の先輩でもあり、自分を心理分析官に仕立て上げた張本人、署長が待ち構えていた。

「早くしてほしかったのでしょう。何故あなたがこの時間に?そんな勤勉とは知りませんでした」

寝起きのため、多少機嫌の悪い私の言葉が署長に突き刺さる。案内するように先行する署長は、参ったね、と頭をかき回した。

「明日、本庁からの視察があってな。色々整理していたら、遅くなって……妙な物に出くわした」

「どうも事態がはっきりしていないようですね」

「だから、お前に頼みたい」署長は機動捜査課のドアを開けた。「後は連中から詳しく聞いてくれ」

事件の初動捜査で活躍するこの課の、3人の私服警官が顔を上げて敬礼を寄越した。

「後は頼む」

署長は自分を残し、早々に退散していった。


「警部、お待ちしていました」

この声は、電話の張本人だ。

「早速ですが……」彼はデスクの上に用意されていたファイルを私に手渡した。「詳しい内容をまとめてはありますが、自分が補足させていただきます」

何気なくファイルをめくり、まず気になったのが、動物の名前の羅列だ。

「なんだこれは……動物園で盗難でも……」

そこまで言って、ふと思い当たる事例に行き当たる。

「例の、動物園か?」

「さすがです。あの動物園です」

これで、電話での器物破損が繋がった。

都内の動物園での事件だ。園内の動物たちが、次々に殺されるという痛ましい事件。人間心理を相手にする自分には関係のないこと、と頭の片隅に押しやっていた。

概略としては、数ヶ月前より管轄にある住宅街での野良猫、飼い犬の変死。続けて付近の動物園で次々に動物が殺されていった。

「確か、動物が逃げたとか何とか推測して……」

盗むならまだしも、殺し、そして捕食の痕跡が確認された。しかも異常な数に上っていた。その為、人間の犯行と言うより、肉食動物の仕業ではないか……としていた筈だ。それに伴い、一部機動隊が猛獣捕獲用に準備していたような……。

そこまで思考した所で、斜め読みをしていたファイルの文字を二度見した。

「……象?ちょっと待て、象がどうした」

「死にました」

「病死じゃないのか?」

応えはNO。首は横に振られた。

「昨日です。殺されました」

象を殺すだと!?あの巨体を思えば、ライフルを以ってしても熊の方が容易く見える。

どうにも信じがたい。私の頭は混乱した。

「ちょっと待て、この町にはライオンの集団でも徘徊しているのか!?」

「必ずまた現れるだろう、と機動隊を配置しました。そこまでの猛獣だとしたら、人間に危害を加える……いえ、捕食し始めるのは時間の問題だ、となりまして」

呆れたものだ。ここまでの大事を、恐らくは体面の問題で隠していたのだろう。

そして……。

「人間にも被害者が出た訳か」

電話での『暴行』の文字が蘇る。

「動物園のスタッフの女性です。右大腿部を深く負傷しましたが、命に別状ありません」

人間が襲われた……となると。

「正体は確認出来たのか?」

「はい、出来たどころか、現行犯逮捕となりました」

私は再び混乱した。

「……逮捕?」

これは、人間に使う言葉だ。決して猛獣捕獲に、冗談以外では使わない言葉だ。

「名前は厚沢慎二、男性。国立大学の学生です」

混乱しながらもやっと、なぜ私が呼ばれたのか理解した。




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