8.はじめての模擬戦 中
ついに順番が来た、私とミリアさんは途中まで一緒に行き、舞台の前で別れた。
私の従僕であるセロと、ミリアさんの虫こと、キャピちゃんが舞台に上がる。
「本当に従僕か?人じゃねぇか。」
「剣もってるけど、なんか普通に人と魔物の戦いじゃ・・・。」
観客席からヤジが聴こえてくる。
「メリット、指示は?」
「え?ええっと・・・頑張って。」
「・・・具体的な指示はないのか?」
「お、お互いケガをしないように。」
「・・・わかった。」
セロが少し不満そうな顔をしたが、舞台の真ん中の方に歩いていく。
腰にいつも下げている剣を抜く気はないらしく、少しホッとした。
「それでは・・・ファァーーイ!」
試合が進むにつれ、気合の入ってきたダンディこと筋肉隆々の審判天使が大声を上げ、手をクロスする。
「いっけぇ!キュピちゃん!」
ミリアさんの声に「きゅー」と勇ましい?声を上げ、セロに突進するように前進するキュピちゃんこと大きな芋虫。
セロは動かず、立ったままだ。
「あっ!」
すると、セロが大きく驚いたような声をあげ、後ろ、ミリアさんのいた辺りを指さした。
何事かと見る私達と観客。
指さされたミリアさんは目をパチクリとさせ、「え、ええ?」と声を上げ、自分を指差している。
そして、見ていたのは私や観客だけではない、キュピちゃんもミリアさんの方を見ていた。
振り向くことができない体型であるキュピちゃんはほぼ全身を向けるようにミリアさんの方を見てしまっていた。
後ろからそっとセロが、キュピちゃんを持ち上げる。
「あ・・・。」
全員が気づいた時には、セロは両手でキュピちゃんを持ち上げていた。
ジタバタ暴れるキュピちゃん。しかし両手でがっちり掴まれていて逃げられない。
そのままテクテクとミリアさんの方に歩いていき、キュピちゃんを場外にいるミリアさんの方に投げた。
「わっ!」
慌てて受け取るミリアさん。
「じょ・・・場外!勝者、セロ!」
そこで勝敗が決した。
まさかの・・・ど汚い方法で。
呆気にとられる私とギャラリー。
「えー・・・ごほん。戦いの最中に意識を別に取られてはいけない。きちんと従僕を制御できていればあのような隙もうまれないのです。」
毎回のようにタメになる?話をするティーチ先生・・・苦しい。
「負けちゃいました・・・。」
そういって笑うミリアさん。
―ねぇ、天使ってあんな勝ち方していいの?
―正々堂々って確か天使族が伝えたって言葉だよな?
―腰の剣は飾りかよ。
―卑怯。
こそこそと周りから聞こえる声が痛い。
ま、まだ試合はあるんだし、汚名を返上しないと・・・。
<Selo>--------
ミリアの従僕との戦いはうまくいった。
これで、油断すればあっさり負けてしまうという教訓を与えられただろう。
教師もそう言っている。
さて、次はどうしようか・・・。
考えながらメリットの方へ行くと、なぜか不機嫌だった。
なぜだ?
「ちょっと、何よあれ・・・。」
「何って・・・お互い怪我はないぞ?」
「そうじゃなくて・・・次はちゃんとしてよ?」
「わかってる。同じ戦いはしないさ。」
次は違う教訓を与えないといけない。
メリットも教師の意図に気づいたらしい。
ならば、俺はメリットのため、教師からの評価をよくするため、教訓のある敗北を相手に与えようじゃないか。
次の試合は、シレーウルフという魔獣だった。
大きさは普通の中型犬程度、忠実で従えやすい魔獣だ。
1回戦とは違う勝ち方をといわれていたが、メリットから特にかわった指示はなかった。
「それでは・・・ファイ!」
気のせいか、あの土の天使、さっきよりやる気が薄れている気がする。
もう疲れたのだろうか?
「いけっ!ハヤテっ!」
シレーウルフの主の指示を聞き、左方向から回り込むシレーウルフ。
さて・・・では、次の教訓と行くか。
俺は腰にあった剣を抜き、まっすぐにシレーウルフの飼い主の方へ走り出した。
剣を振りかざして。
「「えぇ!?」」
メリットと相手の声が揃う。
と同時に、予想通り、驚いたシレーウルフが主人を守ろうと一直線に主人の方に方向転換し、突っ込んできた。
シレーウルフが俺と主人の間に間に合うかどうかの瀬戸際に速度を調整し、急停止、反転する。
こちらを目で追いながらも、急な反転について行けず、俺を行き過ぎるシレーウルフ。
その背中を少し強めに、剣を持っていない方の手で押してやった。
そのまま、場外にいる主の元に突っ込んでいくシレーウルフを確認し、俺はメリットの方へと剣を鞘に収めながら歩いて行った。
「しょ・・・勝者、セロ!」
メリットを見ると、口をポカンと開けていた。
「勝ったぞ。」
「・・・いきなりだったからびっくりしたわ・・・ていうか、まともに戦いなさいよ。」
「ルールは知っている。無視する分けないだろう?それにちゃんと勝ったじゃないか。」
「だからって・・・。」
メリットは納得いかないようだ。
なぜ?
「し、試合のルールを考えると、罠なのは明らか、従僕が理解できない以上、主の指示が必要な場面もあります。状況をきちんと判断し、正確な指示をださねばなりません。」
ティーチ教官はいいことを言う。
さて、あと3回勝てば優勝か。
周りにどのような教訓を与えながら勝利すべきか、あのティーチ教官の考えを汲み取らなければならない。
<merite>--------
私の従僕は、この模擬戦トーナメントで見事に決勝まで進んだ。
最初と2回戦の汚い勝ち方に加えて、更なる汚名を重ねながらだ。
3回戦目は、相手となる従僕の種族のことをよく知っていたのか、開始と同時に、何かの鳴き声をマネした。私達には何かまったくわからなかったが、それに相手の従僕が怯え出して、場外へ逃げ出してしまい、戦うこともなく場外。
4回戦目は、かなり従僕の扱いに慣れた子だったが、開始と同時に胸を抑えて苦しみ出すという迫真の演技を披露。優しい正確だったんだろう。状況から考えてどうみても演技なのに、相手の主は、大丈夫ですか?といいながら従僕に攻撃をやめさせた、そして、ティーチ先生に苦しみ出して!っと必死に訴える隙をついて動かない相手の従僕を外に放り出した。
―勝ちゃーいいのかよ。1度もちゃんと戦ってないぜ?
―卑怯すぎじゃない?
―天使にあんなことさせて恥ずかしくないのかしら。
―模擬戦なんだからちゃんと戦えばいいのに。
―貴族様ってそんなに結果が大事なの?
なぜか私がやらせている雰囲気になっている。
違う・・・私はそんな指示は出してない。
ただ、あまり怪我をさせないように、しないようにって言っただけなのに・・・。
そしてなぜあんなに誇らしそうなのか、セロに本気で問い詰めたい。
けど、すぐに試合だからそんな時間も場所もない。
そして決勝戦。
相手は・・・見た目ハリネズミ?みたいな魔獣だ。
「あれは・・・砂あらしか・・・珍しい神獣だなぁ。」
神獣だったらしい。それにしても、セロは相手の種族のことをよく知ってる。
本をよく読んでるからかな?
「セロ、次はちゃんと戦って、ちゃんと勝ってきて。」
「今までだってちゃんと戦ったが?」
どの口がそれを言う?
「正々堂々戦って勝ってよ。」
「・・・切り捨てていいのか?」
「・・・怪我させちゃだめ。」
「矛盾してることに気づいてるか?」
わかってる。けれど、これ以上の汚名は嫌だ。
「先にいっとくね。今までやったように変に気を引いて場外に押し出したり、声マネで威嚇したり、騙し討ちみたいに相手を動揺させて隙をつくやり方はなし!」
「・・・安心しろ。同じ方法はとらない。」
絶対にわかっていない気がする。
「じゃあ、命令するわ。剣の使用は禁止、小細工禁止、実力だけで相手に怪我させずに勝ってきて。」
「・・・むぅ。」
「返事は?」
「・・・・・・わかった。」
難しい顔をしながらセロが舞台に上がった。
私はただ普通に戦ってほしかっただけなのに、なぜ「無茶なことをいう主だ。」みたいな顔をされないといけないんだろう・・・。
若干納得いかない。
相手も準備ができたようで、中央にお互いの従僕が向き合う。
「それでは・・・最終ラウゥーンドッッ!ファァァァァーーーィイ!」
今までで一番、気合たっぷりにダンディが叫ぶ。
いつの間にか来ていた服の上半身を脱ぎ捨て、筋肉が露出していた。
「スティンガー!行け!」
「セロ!頑張って!」
こうして、このクラス最初の模擬戦、決勝戦の火蓋が切られた。
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