6.クラス発表
クラス分け発表の当日、私とセロは並んで、クラス分けの結果を貰いに行った。
朝、結果を貰い、入学式に出席したあと、それぞれのクラスに移動する。
私とセロは朝からお互いに暗い空気をまとい、セバスに元気づけられながらも、言葉なく、クラス分けの結果が書かれた紙を受け取った。
これには自分の成績、セロの成績、総合判定とコメントなど色々と書かれている。
一番最初にもらう成績表のようなものだ。
正直、見るのが怖い。
お互いの結果を報告し合った時に、セロの落ち込み具合はすごかった。
いつも最低でも私と対等の話し方、態度なのに、「申し訳ありませんでした。」と頭を下げたセロを見て、私は切なくなってしまった。
もちろん、私にも怒る権利はない、筆記試験は散々だったのだから・・・。
お互い慰めあい、Cクラスになろうとも、必ず上位クラスへの編入を叶えようと決意した。
「メリット、その・・・どうだ?」
「まだ見てない・・・そこで見よう?」
私とセロは受け取った試験結果を見るため、入学式が始まる大きな講堂の入口わきに移動した。
周りには似たように結果を見て喜んでいる女性や、落ち込んでいる男性がいる。
結果はもう変わらない。
私は勇気を振り絞って、結果を開く。
「・・・Bクラスだ・・・。」
「・・・さ、最悪は免れたか・・・。」
2人してホッとしてしまった。
貴族としてはBクラスでも落ちこぼれだが、Cよりはいい。
正直、最下位を覚悟していたので、むしろ少し嬉しかった。
結果をちゃんと見ると、私が筆記試験で半分以下の成績、しかしながら、魔力測定はA、B、Cの3段階でA判定だった。
セロの方は、種族別の試験は最低評価だが、天使(亜種)という点と、意思疎通もでき、基礎知識は高いことから総合的にB判定だった。
天使というのが高得点の理由らしい。
ていうか、亜種?
「ねぇ・・・この亜種って?」
「いや・・・なぜか”天使(亜種)”ということに・・・。」
「天使の輪と羽の色が原因?」
「だろうな、いろいろと議論されてたから。」
「まぁ仕方ないわね。にしても、種族別の試験で最低評価って・・・。」
「神兵と同じ試験内容だったんだ。よくわからないが信仰心を測る内容だった。」
「神兵って?」
「ん?知らないか?天使族で一番下の階位だよ。キューピットから進化して天使族になったばかりの者のことだな。」
「神兵と同じ扱いなのか・・・でも天使族って認められたならいいか。」
「まぁ・・・階位なしだからしかたないが・・・。」
「とりあえず、Bクラスだけど、特級を目指すことに変わりはないわ。」
「ああ、そのいきだ!俺も全力を尽くそう。」
「じゃあ、先にクラスの方に行っといてね。私は入学式だから。」
「わかった。それじゃあ後で。」
セロと別れて入学式が行われる大講堂に入った。
従僕は意思疎通ができるものはある程度自由に、意思疎通が難しいものは強制的に各クラス近くの控え室という名の檻に連れて行かれる。
入学式は偉い学長先生の挨拶や、来賓の挨拶、王女様の挨拶などがあった。
内容はあまり覚えてないけど、何か「頑張れ!」みたいなことを言っていた気がする。
だって、そういうものでしょう?
式の途中で目がいったのは、最後にルクセイン王国が召喚した土の天使様が前に立った時だ。
話す内容は似たようなものだったけど、その存在感はすごかった。
真っ白くて、大きな羽に、金色の天使の輪、そして神々しい雰囲気。
とてもガタイがいい天使様だけど、セロとは違ってどこからどう見ても天使だった。
見とれる人が多く、私みたいに憧れの眼差しを向けている魔法使いはたくさんいるみたい。
入学式が終わって、Bクラスに向かう。
この学園は騎士と魔法使いで校舎が分かれており、更に私達1年と2年でも分かれている。
そして、各クラスは特級とA、BとCが同じ建物になる。
もちろん教室は別々だけど、1階が従僕の待機室、2階が学び舎になっている。
特別な教室などもあり、4階建てだ。
2階に上がる前に、従僕の部屋を覗くと、すでにセロがいた。
・・・なんていうか、人型はセロだけで、あとはほとんど魔獣か神獣みたい。
従僕の部屋はかなり大きく、いろんな従僕が集まっている。
BクラスとCクラスの従僕だけで60体はいるはずだ。
もちろん世話をする専門の人、一般的にブリーダーやテイマーと呼ばれる職業の人が雇われていて、すでに世話に追われている。
ちゃんと見たわけじゃないけど、檻に入ったままの大きな”何か”や、その辺を走り回る犬のような魔獣?もいた。
なんていうか、半分以上放し飼いで、かなり混沌としてる。
ちなみにセロは隅っこに座って本を読んでいた。
友達はできていないらしい。
いや・・・そもそも意思疎通できるかあやしい面々だけど・・・。
そんなセロに少し同情しながら、私は2階への階段を昇り、クラスに入る。
席は教壇のところに張り出されていた。
どういう順番かわからないけど、書かれているように座る。
・・・そして戦慄した。
私はミリアさんの前の席だったのだ。
「わぁ!また会えましたね。メリットさん、しかも席が前後です!今日から1年間よろしくお願いしますね。」
「え・・・ええ、こちらこそ宜しくね。ミリアさん。」
偶然が3回も重なれば、私にだって感じるものがある。この子とは親友になるかもしれないとか考えるだろう。実際、ミリアさんはそうだったみたいで、嬉しそうに微笑みながら私に話しかけてくる。
でも、私は違った。
授業中、常に背後を取れる位置に天敵がいる。
そうとしか思えなかった。
すぐに教壇に初老の男性が現れ、ティーチという名前で、このクラスの担任だと短い紹介があった。
オールバックでかなり堅物そうな先生だ。
そのあとはお決まりの自己紹介、名前と、生まれなど、あとは従僕の紹介を手短に行っていった。
聞いていると、男爵家の子や私と同じ子爵家の子も数人いるみたいだけど、ほとんどは商家か、平民出の子達みたいだ。英才教育を受けずにBクラスということは優秀な子達なんだろう。
ということは、ミリアさんも!?
確か商家の子だと言ってた気がするけど・・・こんなほんわかしていて、実はしっかりしているのかもしれない。
私が自己紹介を終えるとクラスが少しざわめいた。
―天使の亜種ってなに?
―あ、下で見たけど天使っていうより普通の子だったよ?
―本当に天使?なのにBクラス?
―弟に羽つけて連れてきたんじゃねーの?
クスクスと笑い声が聞こえ、耳がいい私にはクラスの子達が何を言っているのかまではっきりと聞きとれた。気分は悪いがいきなり揉め事になるのも嫌なので、我慢だ・・・。
「ミリア・アキンといいます。アキン商会の長女です。従僕はキャタピラーという神獣になります。皆さんどうぞよろしく。」
ミリアさんの自己紹介で、場が更にざわついた。
私も知らなかったけれど、アキン商会といえば、王都だけじゃなく、他領でも有名な大手商会だ。
うちの領内にもいくつも店舗があったはず・・・そこの長女ってことは・・・。
私の予想通り、クラスの数少ない男子がミリアさんの方を熱い眼差しで見ていた。
美人な上に、玉の輿。間違いなくモテるだろうな。
けれど、私にはそれより驚くことがあった。
あの虫・・・神獣に分類されるんだ・・・。
別に虫なのに獣ってどうなのかというわけじゃない。それは偉い人が決めた分類だから仕方ない。
虫のくせに魔獣じゃなくて神獣なのが納得いかなかっただけだ。
クラスの紹介が終わったあと、担任教師はいきなり、教壇を叩き、こういった。
「それでは、まずは皆さんに殺し合いとしてもらおうと思います。」
・・・は?
クラスがしーんと静まり返る。
「・・・ノリが悪いな。もちろん冗談だ。殺し合いではないが、これから各人、従僕を用いた模擬戦を行ってもらう。毎年行っていることで、自分の実力やクラスのみんなの従僕を覚えるための恒例行事だ。君たちは指示だけを行い、実際に戦うのは従僕のみとなる。殺し合いをされても困るので、勝敗判定は私が行う。危なくなる前に止めるのでそのつもりで。場所は3階にある特別教室だ。自分の従僕を従えて移動してほし。大きさや意思疎通が難しい場合は、テイマーの人が補助してくれるので、1階で申し出るように。」
担任はかすかに頬を赤らめて、取り繕うように長文を口にする。
毎年同じことをいっているんだrとうか?そして、ウケているんだろうか?
とてもそうは思えない。
にしても、いきなり模擬戦か・・・。そういえばセロが戦うところなんて見たことがない。
私は誕生日が遅い方なので、それ以前にセロとの付き合いは短い。
誕生日が早い子と比べると、1年近い差は大きい・・・。
それでも、私は天使を召喚した子爵家の娘!
半端な結果は許されない。
私が意気揚々と立ち上がり、他の子達のように移動しようとすると、すぐ後ろで机に座って、うつむき、肩を震わせるミリアさんの姿があった。
いつもの彼女らしくないので、声をかける。
「ミ・・・ミリアさん、どうしたの?気分でも?」
すると、ミリアさんはビクっと一度肩を震わせてから顔をあげた。
「こ・・・殺し合い・・・いきなり、教壇をバンって・・・。」
口元に手を当て笑いをこらえているらしい。
いや、少し笑いが漏れてる・・・ていうか、さっきの面白かったの!?
どの辺が!?
独特の笑いのツボがあるらしく、やっぱりこの子とは仲良くできないかもしれないと思ってしまった。
<Selo>--------
従僕の控え室だと言われて来たが・・・なんだここは?
周りには魔獣や神獣が半分以上野放しで走り回っている。
「えっと・・・生徒の方は入学式の方に・・・あ、それともお預けですか?それとも様子を見に?」
・・・話しかけてきた女性には名札が付いていて、ブリーダーのサラーヌというらしい。
俺を生徒と勘違いしている?今は羽も天使の輪も出していないので無理もないが・・・。
「いや・・・従僕の控え室はここなのだろう?自由に座っていていいのか?」
「え・・・いえ、ここは従僕の方の部屋ですので、入学生の方は・・・。」
「いや、入学生じゃなくて、入学生の従僕なんだが・・・。」
「え?・・・すいません。ちなみに種族は?」
「天使族。」
「ああ!もしかして、天使族(亜種)のセロさんですか?失礼しました。」
「いや、慣れてるから・・・それよりそのへんに座っていても?」
「はい、というか椅子でもお持ちしましょうか?」
「いや、いい。適当に座る。」
「何かあれば声をかけてください。意思疎通できるのであれば私のようなブリーダーの方にお願いします。テイマーの方はたぶん従僕の子達かかりっきりなので・・・。」
そういって、檻の方をさすと、大きなトカゲのみたいな生物に首輪をつけ、必死に檻から出そうとしている男性が3,4人いた。
・・・大変そうだな。
「では、これから1年よろしくお願いしますね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
礼儀よく頭を下げると、なぜか嬉しそうに微笑まれた。
部屋の隅に移動し、持ってきたカバンから本を取り出して読み始める。
途中、なぜかメリットから生暖かい視線を投げかけられたきがするけど、きっと気のせいだろう。
一緒に授業を受けることも多いらしいが、それ以外はここで待機なんだろうか?
まぁ・・・ゆっくり本を読めるから悪くないが・・・願わくばもう少し静かにしてほしいものだ。
周りからは他の従僕どもの鳴き声が混ざりあい、その中で、たまにテイマーやブリーダーの怒声が聞こえてくる。
・・・ん?まてよ。
あいつらを黙らせれば、静かな読書空間が出来上がるのでは?
そう気づいたとき、ちょうどメリット達が2階から降りてきた。
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