5.クラス分け
はじめての学園に登校した日、私はいきなり試練に直面した。
今日は試験だけで、明日は休み、明後日にクラス発表と入学式がある。
なので、今日は知り合いにもあわず、ただ試験でいい点数を取ればいいだけだったのだけれど・・・。
話は少し遡る。
学園に着いた私とセロは着た順に渡される番号を受け取り、それぞれの会場に移動した。
私達入学生は教室に順番に座らされ、セロは別の場所で固有の試験を受けるらしい。
中にはいうことを聞かない従僕や、恐ろしく凶暴なものまでいるので、あちらの会場を取り仕切っている人達は、おそらく雇われた魔道士の方が大変そうだ。
私は教室に入って席に着く。ちょうど最後から2つ目の列の最後尾。
特にすることもないので、教室を見回したが、やっぱり知り合いはいない。
どちらかというと女性比率が高い気がするけど、魔術師の道を進む比率は女性の方が多いので、当然かもしれない。
学園には騎士志望も魔術師志望を集まるが、試験内容が違う。
共通問題もあるが、後半が違うらしく、学園に着いた順番かつ、魔術師希望がこの教室に順に座っていっている。
最後の列が埋まっていき、私の隣が次に埋まると何気なく考えていると、急に声をかけられた。
「あら?メリットさんじゃないですか?」
「え?」
私が振り向くとそこには以前であった、虫を従えた女性・・・ミリアさんがいた。
・・・同い年だったの!?
「偶然ですね。隣なんて。知らない人ばかりだったから心細かったんです。よろしくお願いしますね。」
ほんわかと挨拶されるが・・・私はそれどころじゃない。
彼女がもつカバンや身体に”何か”がいないか探してしまう。
冷静に考えれば前に見た大きな虫はセロと同じく従僕用の試験を受けに行っているはずだからいるはずは・・・いや、油断しちゃダメだ。
中には複数召喚する者もいるのだから、メインとなる従僕以外に補助として何匹か連れている可能性もある。
学園として登録するのはメインだけなので、今この場にいてもおかしくない。
注意深く私が見ていることに気づいたのか、ミリアさんが笑いながら答えてくれる。
「キャピちゃんなら従僕用の方ですよ?今はいません。安心してください。」
「あ・・・その・・・ごめんなさい。私の方こそよろしく。まだ同じクラスになるかわからないけど、学園は同じだから仲良くして下さい。」
私のウソの言葉にミリアは嬉しそうに微笑んだ。
できれば違うクラスがいいな。
・・・それにしても美人。
なぜこんな癒し系な人が・・・虫を・・・。
納得できないと思いながらも、私の思考はそこで中断される。
試験が始まったのだ。
試験が始めってからしばらくは問題なかった。
回答も順調。この調子でいけば主席まで狙えるんじゃないかと思えるほど快調だ!
半分ほどを終えて、私は一息ついた。
だけど、今思うとそれがいけなかった。
一息ついた時、ミリアさんが机にかけたバックの中から何かの視線を感じてしまったのだ・・・。
その視線は確かに私を見ていた。
姿は見えない。けれど間違いない。あの視線は私を獲物のように見据えている。
そちらに目線を向けるとぼんやりと、カバンの中から赤い何かが見えた・・・赤い・・・目?
それの1対じゃない・・・いくつもだ。
ミリア・・・この女、なんて姑息な手を・・・。
わかっている・・・ミリアさんに悪意はないんだろう。けれど私には効果は抜群だ。
気を取り直そうとしても、視線が気になる。
問題を読んでも頭に入ってこない。
それどころか、あのカバンの中から得体のしれない虫がいつ飛び出してくるかわからない恐怖は、私の精神を凄まじい速度で削っていった・・・。
鳥肌が立ち、寒気までしてくる。
途中異変に気づいた試験官が「大丈夫ですか?」と聞いてくれたが、「え・・えぇ」としか答えられなかった。
今退出したら間違いなくCクラスだ。
上位から順に、特級、A、B、C、と分けられるクラスで最下位のクラス。
いや、子爵家の令嬢としてはかなりまずい。
英才教育を受ける貴族ならA以上は普通なのだ。Bでも落ちこぼれ扱いなのにCは不味すぎる。
私は震える腕をなんとか抑えながら必死に問題を読み解こうとするが、どうしても頭の片隅に飛びかかってくる虫の想像が引っかかってしまった。
結局、私の後半の試験はボロボロで終わってしまった。
・・・セロ、どうかいい点数を・・・。私は涙を浮かべながら終了のベルを聞いた。
<Selo>--------
はじめての学園に登校した日、俺はいきなり試練に直面した。
今日は試験だけで、明日は休み、明後日にクラス発表と入学式があるらしい。
メリットに散々言われたが、この試験結果でクラス分けが決まるとのことだ。
基本は生徒の筆記試験結果で、従僕の方は普通にしていれば足を引っ張るようなことにはならないらしい。
俺が足を引っ張る訳にはいかない・・・。
そう意気込んでいたものの、さっそく試練にぶち当たった。
従僕は試験というよりは身体検査、知能レベル、特技などを審査するらしい。
まず身体検査だが、そこに問題があった。
話せる知識がある従僕は聞き取り調査される。
そしてその内容が正しいかどうかを魔力の流れや外見的特徴から調査するらしい。
「君の種族は?」
「天使。」
「・・・・・・。」
一発目からひっかかった。疑わしげな目を向けてくる検査官の人。
それは仕方がない。俺の姿はこの時、どう見てもただの人間だった。
「あ、そうか。」
急いで天使の輪と羽を出したが、それは新たな誤解を生む材料にしかならなかった。
「これは・・・?」
マジマジと俺姿を見る検査官。
羽と天使の輪を確認し、なぜか額や頭・・・髪を書き分けられて色々と見られた。
そして、上半身を脱がされ、羽の付け根なども確認される。
一通り確認した検査官は、何か唸っていた。
「しばらくお待ちを。」
少し話し方が丁寧になった検査官の人は、そのまま他の検査官を呼びにいってしまった。
ゾロゾロと複数の検査官が集まり俺を見る。
みんな難しい顔をしているし、確認する場所は天使の輪、羽、頭、頭はなぜか毎回髪の毛を掻き分けられた。
「もう一度・・・種族は?」
「・・・天使族。」
全員が難しい顔をする。
すでに何人かが魔力による種族の確認も行っているが、なんども試しても納得いかないという顔だ。
「て・・・天使であれば階位は?」
「・・・ない。」
「階位なし・・・?それはキューピットでは?」
「キューピットと天使族は別物だが・・・?」
俺の言葉にまた検査官達がザワザワと何か相談し始めた。
―階位なしの天使なんていない。
―しかし識別魔法では確かに天使と。
―キューピットではないのか?
―それならキューピットと出ます。
―特徴は確かに天使だぞ?
―しかし、色が・・・やはり堕天使では?
―いや、角やタトゥーはなかった。色以外は天使だ。
などなど、議論を始めてしまい、俺はずっと待たされている。
結論がなかなか出ないのか、かなり長い時間、他の従僕まで足止めを食らってしまっている。
人狼族だろうか、あからさまにこちらを睨んでいる奴もいるし、天使族のやつもいるな・・・。
確かにひと目で同じ種族には見えないだろう。
―前例はないが、天使でいいのでは?
―いやいや、天使ですよ?間違っていたら大事です。
―しかし・・・本人もそう言っているし。
―天使の亜種ということにしてしまえば?
―前例がないが・・・。
―他種族ではあるでしょう。天使族でもありえるのでは?
まだ議論は白熱しているようだ。
・・・かなり時間が立ち、最初に俺に質問していた検査官が前に進み出た。
「貴方を、”天使族(亜種)”と記録する。位階はないとのことなので、天使族の最下位になる。」
「・・・はぁ。」
ギリギリ天使族と認められたらしいが、位階がないと最下位らしい。
ということはあそこにいる、神兵よりも下か・・・これは・・・まずいかもしれない。
だが、位階がないのは確かなので、こればっかりは何も・・・いや、あくまでこれは身体検査だ。
試験できちんと評価を受けさえすれば・・・。
そう考えた俺が甘かった。
種族ごとに異なる試験内容。
最後にまっていたのは、神兵と同じ試験。
すなわち、信力という項目の測定。
神兵より下なので、同じ試験内容でいいだろうということになったらしい。
信力なんて初めてきいた言葉だったので、説明を求めると、どうやら信仰の力、神への信仰心を数値がするらしい。
他の神兵がやっているのを見たが、リングのようなものをもって、目を閉じ、祈るように瞑想すると数値がリングの中央に浮かび上がるみたいだ。
どういう原理かわからないが、これは非常にまずいのではないだろうか・・・。
本当の意味で信仰心を数値化しているのだとしたら、位階のない俺にそんな数値あるとは思えない。
正直に剥奪されたというべきだったか・・・しかし剥奪となると印象が悪い。
それに今更引けないか・・・。
俺の番がきて、リングを持って、目を閉じる。
そして俺は本当に何十年かぶりに神に祈った。
どうかいい数値がでますようにっ!
だが、神は俺の望みを叶えてはくれなかった・・・。
・・・メリット、どうかいい点数を・・・。俺は目を潤ませながら検査官から検査終了を告げられた。
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