4.図書館での出会い
久しぶりの街は、お祭りかというぐらい賑わっている。もともと住んでいた領地も賑わっているけど、さすがに王都は違う。なんていうか、空気が!
内心ウキウキしながら隣を見ると、私以上にワクワクしているセロがいた。
落ち着き払っている風を装いながらも、目だけはキョロキョロと回りを見渡してる。
頭の上についている天使の輪も高速回転中だ!
黒いせいで、天使の輪には見えないから、たぶん、このまま街中に入っても大丈夫だと思う。
騒ぎには・・・ならないわよね。
天使の輪を無視すれば、今のセロは背伸びしているだけの少年にしか見えない。
髪の色も同じだし、弟といってもバレないんじゃないだろうか。
「セロ、あの辺りに出店がたくさん出てたから行くわよ。」
「あぁ、わかった。」
トコトコと後ろを着いてくる姿はちょっと可愛い。
「ねぇ、セロはなにか欲しいものないの?」
ついつい、甘やかしてしまう母上の気持ちが少しわかる。
「・・・欲しいもの?」
「そう。例えば服とか、アクセサリーとか・・・羽の手入れする道具とか?」
「この羽はそういう汚れるようなもんじゃないんだけどな・・・欲しいものねぇ。急だな。」
セロはしばらく考えるような仕草をした。
だがその間もキョロキョロと周りの様子を伺っている。
注意しているわけじゃない・・・面白そうなもの、興味深いものが多すぎる。たぶんそんな感じなんだろう。微笑ましい。
それに真面目に考えている顔をしているけど、見た目が幼いせいで、大人の真似をしている子供みたいに見えて、それもまた可愛い。
「欲しいものはないけど、行きたい場所ならある。」
「どこどこ?観光名所かなにか?」
「図書館だ。大きなものがあると家令の人がいってた。」
私はがっくりしてしまった。なんて暗いんだろう。
思えばセロは実家でもかなりの本好きを発揮していた。セロに甘い両親は書庫の鍵を渡し、勝手に入っていいと許可まで与えていた。けっこう重要な書類もあるはずなのに・・・まぁ私の従僕だからおかしなことにはならないはずだけど。
1度、何を読んでるのか聞いてみたら、ほとんど歴史書や自伝だった。
何がそんなに楽しいのかわからない・・・。
ちなみに私は読書が嫌いだ。
「ねぇ、それは後にして・・・買い物しましょう?ほら、こういうアクセサリーとかはどう?」
「どうとは・・・身に付けるのか?ん?このアクセサリー、水の属性が。」
セロが見ているのは水色の結晶が入っているイヤリングだ。
「あぁ、それは水の魔石入りだよ。」
店の人が声をかけてくる。
私も知ってる魔石のことをセロが知らないのは意外だった。まぁ、さすがに作り方までは知らないけど。
「他の属性もあるのか?」
セロが店のひとに聞いて、イヤリングを進められている。
気に入ったんだろうか?
買ってあげないこともないよ?
「火は?」
「あんた、そんなことも知らないのかい?」
「ないのか?」
「いや、火の魔石もあるけど、かなり高額だよ?ほら。」
そういうと、店のおばちゃんは後ろの棚に飾ってあった魔石のイヤリングを見せる。けど、手渡してはくれない。それだけ高価ということだろうか。
「小さいな。」
セロがいうように、他のイヤリングについている魔石よりずっと小さいため、イヤリング自体も小ぶりだ。
「これでもうちじゃあかなり高級なもんなんだよ?ほら、火の魔石まで見せたんだ、何が買っておくれよ?」
「じゃあこれを。」
「あんた・・・これがいくらだか。」
「何枚だ?」
そういうと、セロがおばちゃんに手のひらを見せる。
「あ、あんた・・・いやぁ、貴族の坊っちゃんでしたか。ありがとうございます。今包みますね。」
「いや、いい。」
そういうと、セロは炎のイヤリングを受け取った。
なぜセロがお金を・・・というか、どこで大金を・・・。
「セロ、あんたお金どうし・・・」
私はそれ以上なにも言えなかった。
セロが買ったばかりのイヤリングを私に付けてきたからだ。
「セロ・・・これ、私に?」
「あぁ、やっぱりよく似合う。嫌だったか?」
「え、そ、そんなことないよ!ありがとう。と、図書館だったよね。行こっか。」
「もういいのか?買い物は。」
「うん。行こっ。」
まさかこんな高価なものをプレゼントされるなんて!
スキップしそうな勢いで私はセロの手をとって歩きだす。自分でもニマニマしてるのがわかるぐらいにやけてる。
やばい。気づかれないようにしないと。
<Selo>--------
やっぱり、彼女には赤い宝石がよく似合う。あま色の髪ととてもあうし、何より喜んでくれたみたいだ。
思い付きだったが、こんなに喜んでくれたなら悪くない。
ずいぶん高かったらしいが、以前貰ったお小遣いの半分も使わなかったし、他に使い道もないからちょうどよかった。
図書館にも早めに連れていってくれるらしいし。
連れてきてもらった図書館は予想以上の規模だった。
外観からしてかなり大きい。こんな大きな建物なら、いったいどれだけの本が所蔵されているのか・・・ワクワクする。
メリットもなぜかニコニコとこちらを見ていた。
てっきり本は嫌いだとおもっていたが、そうでもないのだろうか?
図書館の中に入ると、予想通り彼女の家の書庫なんて比べ物にならないほどの規模だった。
見渡す限り、本がギッシリつまった本棚、本棚、本棚。
なんとかここに自由に出入りできないものだろうか。
メリットが王都にいる間に入り浸りたい。できれば彼女が眠り、自由になる深夜に。
じっと見つめていたからか、メリットがこちらを見て、好きに見てきていいと許可をくれた。
許可待ちだったわけじゃなが・・・まぁ、ずいぶん機嫌がいいみたいだから、ありがたく本を見に行こう。
まずは歴史書を探す。
棚を順にみていくが、ふと後ろをみると、メリットがついてきていた。
「どうした?」
「別になにもないけど?」
・・・どうやらメリットは俺に付いてくるらしい。自分の興味のある本のところにいかないのだろうか?それともやっぱり本に興味はないのか・・・だとすると、あまりゆっくりは読めなさそうだ。
なにより、無理に付き合わせたなら悪いし、後ろでじっとみられていたらこっちも落ち着かない。後日一人で来る許可をどうやって得ようかと考えていると、突然メリットが震えだした。
「あ・・・あ・・・。」
何かに驚き、声も出ないという雰囲気だ。ちょうど俺の後ろを指差している。
何だろうと振り向くと、緑色の物体と目があった。
正確には猫ぐらいのサイズがある芋虫というのだろうか、髪の長い女性の頭の上に乗り、こちらをじーっとつぶらな瞳で見ている。
もう一度メリットを振り返ると、巨大芋虫を指差しているのは間違いなさそうだ。
・・・なんだろう。羨ましいんだろうか。
芋虫を頭に乗せた女性は本に夢中なのか、立ったまま動かないし、こちらに気づく様子もない。
そこで気づいた。
そういえばメリットは動物が好きだった。
野良猫を見ると声をかけ、餌をもっていれば与えていた。
うさぎを見ても触りに行っていた。
どうみても、この芋虫は野良ではなく、本に夢中な女性の持ち物だろうが、巨大芋虫も俺というよりはメリットに熱い眼差しを向けている。
相思相愛か。
メリットのことを思うと、仕方ない。
頼んであげよう。
「ちょっと失礼しますね。少しだけ触らせてください。」
そう巨大芋虫を頭に乗せている女性に声をかけたが、彼女は反応しない。
すごい集中力だ。だが、一応断ったからいいだろう。
俺は、メリットに熱い眼差しを向ける巨大芋虫を掴み上げ、メリットの頭に乗せてやった。
どうだ?幸せか?
次の瞬間、図書館にあるまじき悲鳴が上がった。
メリットの悲鳴を聞いたのはこれがはじめてだった。
<merite>--------
「あんた何考えてるの!!」
私はセロに向かってつっかかる。まだ頭に感触が残っていて、身震いしながら頭をゴシゴシと濡れたタオルで拭きながらだ。鳥肌はまだ収まらない。
図書館で巨大な虫を見つけて固まってしまった私。
その虫嫌いの私にまさかの暴行。
許せるものじゃない!
「いや、羨ましがっているのかと。」
「そんなわけあるか!!」
セロの頭を殴る。グーで。
「あのぉ~。」
「何よ!・・・ひっ!」
声がした方を見ると、私達と一緒に追い出された虫を頭に乗せていた女がいた。
今は腕の中で、猫でもあやすかのように虫を抱いている・・・どこかほんわかした美女だが・・・正気の沙汰じゃない。
「どういうことか、わからないのですが・・・キャピちゃんが何かしましたか?」
「い、いえ・・・すいません。うちの従僕が馬鹿なことをしたせいで・・・貴方まで追い出されて・・・。」
「いえ、もういい時間ですので、構いませんが・・・。本に集中すると周りが見えなくなってついつい遅くまで読みふけってしまいますので・・・あの、本当に大丈夫ですか?」
女性が心配そうにこちらに一歩近づくと私は反射的に一歩後ろに引く。
「はい・・・その、すいません。私は虫が苦手でして、うちの従僕の暴挙に声を上げてしまったんです。申し訳ありませんでした。」
「あぁ・・・なるほど。大丈夫ですよ。女性には苦手な方の方が多いので、普段はカバンの中にいるんですが、そろそろ帰る時間だったので、教えるために出てきてくれたんでしょう。」
そういって女性はカバンに大きな虫をしまう。
なぜだろう。カバンからもこちらをじっと見ているような気がして・・・寒気がする。
「私、ミリアといいます。図書館にはよく来るので、またお会いしましょう。」
「わ・・・私はメリットといいます。よろしく。」
そういって出された手を握る・・・そう、さっきまで虫を触れていた手と握手を・・・私は身体に鳥肌が立っていくのを感じる。
「では、また。」
そういうとミリアさんは手を振って去っていった。
私は、彼女が見えなくなったのを確認して、再度セロにタオルを洗いにいかせ、そのタオルで手や髪を拭き直した。
「さすがに握手した手を拭くのはどうかと思うが・・・。」
私は無言でセロのお尻を蹴り上げる。
イアリングで上がったセロの評価は現在、地を這うどころか、地表深く潜っており、私はそこにセメントを流したい気分だ。
その日は寝るまでセロに対して叱責と罵詈雑言を繰り返した。
芋虫と表現していますが、イメージはポケッ●モン●ター初代の序盤に出てくるキャ●ピーです。
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