1.本当に天使?
成人の儀、それは一応無事終わったものの、その後で私の周りは大騒ぎになった。
私の従僕として召喚されたのはセロという自称天使。
そう"自称"だ。
理由?そんなの明白じゃない。
黒い羽根の天使なんてどこにいるっていうの?
せいぜい堕天使だけど、堕天使には角があるはず。
お父様とお母様はそれほど驚いてはおらず、むしろいつも通りだった。
「天使を召喚するなんてさすが我が娘!」
「あなたの才能を受け継いだのね!」
「いや、君の才能さ。」
そういって抱き合っていた。
・・・もう慣れたけど、娘の一大事にこの反応はないんじゃないだろうか。
焦っていたのは魔術の先生をはじめとした家臣達だ。
そりゃそうだ。
小さな領地の領主といっても私は子爵家の令嬢。
今日成人の義を行ったことは領地の者達までみんな知ってる。
もちろん、召喚が終わったことを周りに発表する必要があるのだけれど・・・黒い羽根の天使なんてなんといえばいいのか。
当の本人は物珍しそうにキョロキョロと大広間の家具などを見回している。
召喚して時に出していた羽も今はない。
自由に消せるらしいのだけど、今はどう見てもただの可愛い少年にしか見えない。
・・・この子を召喚したなんて言ったら・・・笑い者になる予感がする。
それこそショタ疑惑まで立ちかねない。
いや、確かに顔立ちは整ってるし、可愛いけど・・・いや、可愛いけど!種族をはっきりして欲しかった!
一般的な天使の証といえば、人間の整った容姿と、純白の羽、そして白く輝く天使の輪。
セロの姿を見てみよう。
「ちょっと、さっきの姿に戻りなさい。」
「さっきの?羽とかか?なんで?」
「なんでもいいから!」
ちょっとさっきの状態に戻るように指示する。
なぜか、渋々といった顔で天使が召喚した時と同じ見た目になった。
人間のような容姿。うん、間違いない。しかも顔は整ってる。
純白の羽・・・白いところは見当たらない。
天使の輪・・・確かに頭の上に輪っかはあるけど、こちらも真っ黒だ。
色を除けば天使の特徴に間違いない。
念の為、頭に角がないかも入念にチェックしたが、角はなかった。
「もういいか?」
そういって、セロは羽と天使の輪を消し、ただの少年のような見た目に戻ってしまった。
他に天使の特徴といえば・・・神々しさという感覚的なものだろうけど、これは皆無だった。
なんというか、人間臭い。
今だって、お父様に高い高いされながら、お母様にほっぺたを・・・って!何やってるの!?
「ちょっと!お父様!お母様!何してるんですか!」
「どうしたんだ?メリット、急に怒りだして。」
「お腹が減ったの?」
何故か、私がおかしいみたいな言い方をされた!
「いや、一応、天使なんですよっ!」
「一応じゃない、天使だ。」
即、一応という言葉をセロが否定する。
だけど、全然説得力がない!高い高いされたままの状態でなぜそんな胸を張れる!?
「うむ、天使を召喚するなど、やはりメリットは優秀だ!」
「本当に、それもこんな可愛らしい・・・さすが貴方の娘だわ。」
そう言うとまた2人は抱き合う。
「お前の両親は変わっているな。」
解放されたセロの目が痛い。
「・・・あんたこそ、持ち上げられてよく平気でいたわね。」
「うん?人に持ち上げられるというのもいいな。目線が変わる。」
「あんた、やっぱり変。」
従僕に選ばれる種族がすべて人間より上の能力を持っているわけではない。
人間より弱い種族を召喚してしまうことだってある。
むしろ、はじめての召喚で優れた生物を部下にすることは難しいといわれている。
自分たちより優れた者を異世界から呼び出すには、才能、縁、魔力、本人の感情が大きく左右するらしい。
特に人語を理解し、寿命も長いエルフやドワーフ、お父様が使役する人狼などは高位の存在だ。
だけど、天使は次元が違う。
彼らは圧倒的上位者であることを理解しているため、不平等な従僕などとして出てくることはまずない。
天使を呼び出すには、多くの魔法使いが集団で魔力を注ぎ、求める対価を払って降臨してもらう。
そういった手順が必要となるはず。
従僕の召喚で天使が降臨したという話を少なくとも私は知らない。
・・・悪魔なら聞いたことあるけど。
なので、普通天使は人間に不遜な態度をとられると怒る。
高い高いなんてもっての他だ。
ほっぺをつねるのも論外。
本当にセロは天使なんだろうか。
いや、両親の暴挙をスルーしてくれるのはありがたいけど、ますます天使か疑わしい。
「あんた、やっぱり変。」
「2度も言うことないだろう。」
心外だとセロが眉をひそめる。
「お嬢様、少々よろしいでしょうか?セロ様もこちらに。」
予備に来たのは爺、私の魔法の先生だ。
爺は私の背に手をあて、魔力の流れを見る。
続いて、セロの方の背にも手を当てながら質問した。
「セロ様は天使様と伺っておりますが。」
「ああ、天使族だ。」
「確かに天使族の特徴的な魔力ですな。お嬢様とのつながりもハッキリと感じられます。少々お教え頂きたいことが。」
「なんだ?」
「階級はなんでございましょうか?」
「ない。」
「階級なしというのは・・・キューピットですか?」
「いや、あれは別種族だろう?」
「失礼しました。階級なしの天使族なのですね。それでは生まれいでてからどれぐらいになりますかな?」
「さぁ・・・数字と記憶力に疎いんだ。数えてないからわからない。人よりは長いかな。」
「・・・そうですか。最後に、人間界には何度か?」
「ああ・・・2回目だ。」
爺がセロお背から手を話し、こちらに顔を向けた。
「お嬢様、セロ様は間違いなく天使族です。そしてお嬢様に従属しておりますことを確認しました。」
「・・・そう。間違いなく・・・天使族なのね・・・。」
「なぜ残念そうなんだ?」
「別に・・・。それより、条件なんかはどうなってるの?」
割り込んできたセロを無視する。
「条件?」
「あるでしょ?食べ物や嗜好、衣服なんかも必要でしょう?」
聞いた話だと、天使もそうだが、魔獣などでも上位になるにつれ、気難しくなるらしい。
たとえばドラゴンなどを伴にしてしまうと、最低でも月に最高級の牛1頭。
多ければ何頭も必要になり、兄弟がそろってドラゴンを従僕にしてしまった家が傾いたという話も聞いたことがある。
実際、お父様の従僕である、人狼は鹿肉しか食べない。それも1度の食事になかなかの量を食べる。
「別になんでも・・・普通に人が食べるものでいいし、着るものも身体のサイズに合っていればいい。住むところも、別にどこでも、なんなら外でも文句はないが。」
「・・・食べる量は?」
「・・・人より食は細いかもしれない。」
「・・・もう一度聞くけど、本当に天使?」
「しつこいな・・・天使だ。」
やれやれとセロが溜息をつく。
いや、ため息をつきたいのはこっちだ。
本当に天使らしくない。
普通の使用人と同等かそれ以下の扱いでも問題ないという。
天使を召喚しておいて、その天使を冷遇し、外で放し飼いにしているなんて知れたら周りからなんと言われるか・・・まぁ安上がりだけれど。
結局、天使として発表することになったのだけど、セロの見た目を知る者は皆微妙な顔をしていた。
来週から王都に行くことになるのに、少し不安が大きくなった。
初日はクラス分けの試験に、連れている従僕の試験などがある。
「メリット、来週から王都というところに行くのか?」
寝る前に私が魔道書を読んでいると、セロが部屋に入ってきた。
服の採寸などが終わったらしく、執事のような服を着ている。
・・・傍からみたら私がショタ趣味に走ったように見えないだろうか。心配だ。
「そうよ。王都の学園で、2年間学ぶの。」
「何を学ぶんだ?」
「私は魔法学ね。あと貴族同士で横のつながりを作るのが目的らしいわ。」
「そうか、2年か。・・・俺は?」
「従僕なんだから連れて行くわよ。さすがにおいて行ったら何のために呼んだのかわからなくなるわ。」
「それもそうか。」
心なしかほっとしているように見えた。気のせいだろうけど。
「私の場合、2年じゃなくて3年ぐらいはあっちにいるかもしれないけどね。」
「そうなのか?」
「ええ、私は魔導に興味があるの。王都でないときっちり学べないから。まぁうちって領地持ちの貴族だから、婿養子をもらわないといけないし、どうなるかまだわからないけど。好きなことはできるうちにやっておこうかなって。お父様は気にするなっていうけど、そうもいかないわ。」
「魔導の研究といい婿を探そ。それがメリットの目的か・・・。」
「いや、そこまで明確なものじゃないけど、先のことはわからないわ。それに婿候補なら一応顔も見たことのないのがいるから、王都で会うこ途になると思うわ。」
「許嫁というやつか?」
「そう・・・ではないかしら。相手は伯爵家で、私は何人かいる候補の一人らしいから。」
セロは何か悩むような仕草をとる。
「なぁ、この国で一番偉いのは国王だろう?王子などはいないのか?」
「いるわよ。」
「年齢は?」
「えっと・・・確か16歳ぐらいじゃないかしら。」
「そうか・・・。」
それっきり、セロは考えこんで部屋の隅に移動してしまった。
私も特に用はなかったので読書の続きをする。
私が寝るというまで、セロは部屋の隅にいた。
別に用がないなら隣の部屋をあてがっているのだから、戻ってもいいのに。
変に律儀だ。
<Selo>--------
どうやら来週から王都というところにいくらしい。
まさかおいて行かれるのではとヒヤヒヤした。
メリットの従僕になってからまだ1日もたっていないが、悪くない。
今までは、只々遠くの木の上などから見守るだけだったのに、今は堂々と傍にいられる。
手の届く範囲にいるということはそれだけ安全が確保できるということだ。
そこで、俺は次の計画に移ることにした。
メリットはどうやら魔導の研究と優秀な婿を探したいらしい。
魔導はともかく、優秀な婿と結婚することは彼女の幸せになるのだろう。
ならば、最も優秀な婿は?どこにいる?
答えは簡単だ、一番偉い国王の縁者だろう。
国を治めるものが無能なわけがない。
「そうとも限らねぇぞ?忘れたのか?」
声に出ていたのか、つっこまれてしまった。
「黙っているんじゃなかったのか?セロ。」
「今は他に誰もいねーだろ?てか、セロがセロを呼ぶってややこしいなっ!」
「仕方ないだろう?とっさに思いつかなかったんだ。」
「まぁいいけどよ。で、話戻すが、王族が優秀とは限らねぇぞ?忘れたのか?」
「・・・愚かな王族はもう滅んだだろう?」
「愚かな者は時と共にでてくるもんだ。嬢ちゃんのことを考えるならきちんと見極めろ。」
「それはわかってる。まずはその、伯爵家とかいうところのやつだな。」
「一応聞くが、お前は本当にそれでいいのか?」
「何を言っている?」
「同じ顔、同じ声、同じ魂だぞ?」
「でも、彼女は違う。彼女はアンじゃない。」
「それがわかっていて、従うんだな。」
「従うさ。約束したのだから。」
「そうか・・・俺にはお前が従僕に選ばれた時点で、すべてが浄化された魂ってのは間違っている気がするけどな。」
「神の言葉を疑えと?」
「・・・いや、わからねぇが、それが人間だろう?神の予想を超えるために生み出されし者だ。」
「・・・そうだったな・・・。とにかく、うまくやるさ。」
「ほどほどにな。」
それっきり、相棒は黙り込む。
割り当てられた部屋はメリエットの部屋の隣、用があれば大声で聞こえるよう壁が薄く作られた部屋だ。
そんなものなくとも、従僕の契りがある限り、手にある魔方陣に魔力を込めるだけで呼び出せるはずだが。
月を見ながら、過去を思いやる。
やっとここまできたと、満ちた月を眺めた。
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