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私が召喚したのは天使なのだろうか!?  作者: 澤田とるふ
学園生活編
18/32

17.天使の力 上

 舞台ではライナが回復したスティンガーに泣きついている。

 本当によかった・・・スティンガーが助かって。ライナも大した怪我はしていない。

 あとは・・・。


「おい!すぐに試合でいいんだな?」


 そう、この私の従僕、セロが挑発してしまった場をどう収めるかだ。

 私が考えていると、セロが「構わない。」と答えてしまった。


「ちょっと、セロ!」


「ほら、舞台から降りろ、まだゴミ処理が残っている。」


 セロは本気で戦うつもり見たいだ。

 けれどさっきのスティンガーを見れば差は明らか・・・模擬戦でセロはスティンガーに勝ったけど、ギリギリだった。とてもじゃないけどダンガというホワイトウルフに勝てるとは思えない。


「すまない・・・メリット、助かった。けど、すぐに降伏するんだ。倒せる相手じゃない。」


 ライナが私に詫びてきた。

 シアやミリアも心配そうな顔をしている。

 でも、大丈夫、私もそのつもりだ。あとで面倒なことになるかもしれないけど、結果として友人が救われたんだから多少は我慢するしかない。

 ライナが救護の人たちと一緒に、部隊を降りて連れられて行く。

 ミリアも付き添うらしく、一緒に救護室についていった。


 そんな私の考えを無視するように、セロは驚く提案をしてしまった。


「従僕同士なのだから降伏はなしにしないか?場外と致死回避による転移だけにしよう。」


「お前、開始とともに場外に出るつもりだろう!?そうはいかないぞ!」


 いや、それはない。それが目的なら敗北宣言をなしにするわけがない。わざわざ敗北宣言なしにするなんて、セロは戦う気だということ?何を考えているの!?


「じゃあ、俺は舞台の真ん中でスタート、お前たちは3人で囲む位置からスタートにすればどうだ?」


「な・・・貴様!」


「全員でかかっても、1匹ずつでもいいぞ?」


「逃げないように囲むだけだ・・・1対1でケリを付けてやる。」


 どんどん不利になる状況。セロが何を考えているのかわからない。

 戸惑う私にセロは何も言わず、楽しそうにネットを挑発している。


「若・・・私のロドリゲスにやらせてください。ダンガ殿が出るまでもありません。」


 ネットのお付きであった女性の方が名乗り出た。

 確か、従僕はセロがオルトロスの幼生だと言っていた魔獣だ。

 彼女は制服の名札からAクラスだとわかる。特級よりはマシだけど、十分格上だ。


「いや、ここは私のガロンボサスに。」


 男の方も名乗り出た。神兵の従僕を持っている方だ。

 Aクラス2人の様子を見て、ネットは満足そうにうなずく。


「そうだな・・・わかったボアム、お前に任せよう。血祭りにあげろ。」


 そういうと、ボアムと呼ばれた女性の方が頭を下げた。


「おい、審判。はじめろ。」


 ネットの言葉にダンディが私の方を見る。


「構わないのであるか?」


 私はセロを見る。こんな状況なのに、なぜか笑顔だった。

 ・・・状況がわかっていないのか、何か考えがあるんだろうか?


「セロ?」


「メリット、問題ない。お前はただ相手を倒せと命令すればいい。」


 私は・・・セロの目を見て、そしてその目を信じることした。

 本来なら問いただすべきなのに、何も聞かずに送り出しても大丈夫だと確信のようなものを感じる。


「セロ、ライナ達の敵を取ってきて。」


「わかった。手加減はするか?」


「・・・必要ないわ。」


 私の言葉に、セロは舞台の中心に歩いていく。


「ちょっと、メリット、本気!?」


 シアの言いたいことも分かる。けれど、なぜだろう。

 はじめてセロを召喚したときのように、私の心は落ち着いていた。


 セロが舞台の真ん中に立つと、白けていた観客から歓声が上がる。

 ライナの時とは違って、すでに半分ぐらいは席を立っていた。


 ―なぁ、あれ従僕なのか?俺には人族に見えるが・・・。

 ―人族があの3人を相手に?無理無理、大魔導士でもあの力の差は無理!

 ―また無謀な挑戦じゃないかしら。

 ―ここまで来たんだし見てくか・・・にしてもダンディのテンション下がりすぎじゃね?


 観客になっている同級生や先輩の声がよく聞こえる。


「それでは・・・第二ラウゥゥゥゥンド!レディィィィィッッッッファイ!」


 ここにきて何故かテンションMAXのダンディの試合開始の掛け声、その上半身は既に裸で、筋肉の盛り上がりも最高潮。と観客の筋肉マニアと思われる人が言っていた。


「ゆけっ!ロドリゲス、まずは奴の足をかみ砕けっ!」


 舞台の外から命令が飛ぶ。

 命令を聞いた瞬間、ロドリゲスがまるで瞬間移動のように3分の1の距離を詰めた。


 タンッ


 と地面を踏みしめる音を残し、セロまであと3分の2に迫る。


 タンッ


 セロの足に食いつこうとしたロドリゲスが、そのまま地面を滑って反対側に滑っていった。

 何が起こったのかわからない私達。

 セロはもとの場所から動いていない。


「約束通り、先制攻撃は譲った。あるじから手加減はいらないと言われているからな・・・止めるなら今のうちだぞ?」


 そういうと、セロの頭の上に真っ黒な天使の輪と、背に大きく真っ黒な翼が現れる。


 ―何だあれ?・・・天使?いや堕天使か?

 ―馬鹿な従僕だぞ?・・・鳥族では?

 ―綺麗。

 ―悪魔族じゃないのか?インキュバスとか。


 セロの姿に私以外の全員が驚いているようだった。

 そしてそのセロは無表情にロドリゲスの主を見つめていた。


「ふ・・・ふざけるなっ!ロドリゲス!噛み殺せっ!」




<Selo>--------


 オルトロス独特の歩き方、瞬歩を見て少し感心した。

 幼生体のくせによく鍛えているらしい。

 将来が楽しみだ・・・だからこそ残念だ。


 そう思いながら、左足を少し後ろに折り曲げる。

 オルトロスが足を噛み損ねてそのまま後ろに滑っていった。


 ・・・やはりもったいない。

 忠告してやるか。


「約束通り、先制攻撃は譲った。あるじから手加減はいらないと言われているからな・・・止めるなら今のうちだぞ?」


 オルトロスの主に最後の忠告をして、天使の輪と羽根を出した。


「ふ・・・ふざけるなっ!ロドリゲス!噛み殺せっ!」


 残念ながら、聞き入れられなかったらしい。

 オルトロスも戦意が落ちていないところを見ると力を見誤っているみたいだ。


 俺は一度溜息をつき、突っ込んでくるオルトロスを避けて真横に移動する、そしてその無防備な横腹を思いっきり蹴り上げた。

 すると、攻撃が当たる直前に、オルトロスの姿が消えた。


 会場からおぉ!っと声が上がる。


 ・・・なるほど、これが致死攻撃による転移か。


 オルトロスは舞台の外に転がっていた・・・怯えた犬のように尻尾が腹側に丸めてこちらを見て伏せをしている。さっきまでの威勢はなくなっている。おそらく俺の攻撃の瞬間に死を予感したんだろう。やはり将来が楽しみだ。


「ど、どういうことだ!誤作動か!?審判!」


 うろたえているのはオルトロスの主の方だった。何が起こったのかわからないらしい。


「致死回避の術式が動いただけである。」


「な、どういうことだ、なぜロドリゲスの方が転移させられている!?」


「お主は何をいっておる?・・・そうか、見えなかったのか。死にかけたのはそのロドリゲスである。見ればわかるであろう。怯えきっておるではないか。」


 ダンディが筋肉を強調するポージングをしながら、オルトロスの主に説明する。

 女生徒は納得がいかない顔をするが、オルトロスの様子を見て、「馬鹿な・・・」とつぶやいていた。


 急に背後の気配を感じ、横に避ると、さっきまで立っていた場所を大きな槍が通った。

 両手で槍を持ち、こちらに襲い掛かってきたのは神兵だ。


「ハリソン!」


「ボアム、ロドリゲスの仇は俺のガロンボサスが取ってやろう!」


 ハリソンと呼ばれた男の従僕である神兵の槍を交わしながら、少し後退し、槍を左手で掴む。


「いい突きだ・・・だが、まさか同じ天使族で力量差が分からないのか?」


 俺の言葉を無視し、槍を引き抜こうとする神兵。

 もちろん、槍は離さない。

 必死に槍を取り返そうとしているが、こちらの言葉が分かっていないように見える。

 神兵なら会話も可能なはずだが・・・そう思い、フルアーマーに隠れた顔を覗き込むと、その顔は真っ青で、よく見ればガクガクと足も震えている。


 なるほど、主に忠実なだけか。

 こいつもいい進化をしそうだ・・・おしいな。


 そう思いながらも、さっき物理攻撃を行うと、一瞬で転移したオルトロスを踏まえて、ゆっくりと右手で相手の首を掴んだ。

 ゆっくり力をいれていく。


「ぐ・・・が・・・。」


 もう少しで首の骨が折れるというところで、首を掴んでいる感覚が消失し、神兵が消える。

 またしても転移・・・なるほど、徐々に力を入れても、致死の力を加えようとしたタイミングで転移するのか・・・。


 舞台に残ったのは俺と、ホワイトウルフだけになった。

 そして気づくと周りの声がやけにうるさくなった。


 ―すげぇ!Bクラスだろ?Aクラスの2人を簡単にたおしたぞ?

 ―なんであんなやつがBクラスに?

 ―ネットのやつ、このまま負けるんじゃねーか?

 ―さすが、特級の面汚し。


 観客が増えている?

 メリットの方を見ると、驚いた顔をしている。

 どうしたのだろうか?あまり目立たない方がいいのか?

 首を傾げると、メリットはグッとこぶしを握って、「頑張って!」と言った。


 うむ、頑張れか・・・俺が殺し損ねたことに対して頑張れ・・・要するに次は確実に殺れということか・・・。意外とメリットも過激なことをいう。


 さて・・・ここまでの経験を踏まえて、どうしたものか。

 できれば奴を婚約者候補から確実に引きずりおろしたい。

 そのためには、ホワイトウルフを消せばいい。メリットも頑張れと言っている。

 だが、致死攻撃は回避される・・・。


「ハリソン・・・ボアム・・・役立たずが。ダンガ!やつをひねり潰せっ!本気を出して構わん!」


 その言葉に、ホワイトウルフは口角を上げて獰猛な笑みを浮かべ、考え中の俺に向かって特攻を開始した。


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