10.従僕部屋の主 上
前後編です。後編は明日投稿予定!
模擬戦を終えた次の日、さっそく教室で変化があった。
入るなり向けられる視線。
その視線があまりいい意味のものじゃないのはすぐにわかった。
クラスメイトの中で私は、”勝つために手段を選ばない女”ということになっているらしい。
Bランクに満足せず、虎視眈々と上位を狙っている女、必要があれば誰でも踏み台にするみたいなことまでいわれていそうだ。
実際、ちかいものはあるので否定はしないけど・・・。
なので、クラスメイトで私に話しかけてくるのは3人だけ、1人は後ろの席のミリア、そしてもう1人はクラス順位一番、ようするにBクラス首席だった、シア・ナインツ。席は離れているけど、休み時間になるとよく話しかけてくる。なんで話しかけてきたのかはわからないけど、活発で性格のいい子だ。
見た目はショートヘアで、そばかすがむしろチャームポイントの女の子、騎士家の出身らしい。
そして最後はライナ・ステイ、ステイ男爵家次男で私と決勝を争ったスティンガーことハリネズミを従僕にもつ奴だ。いきなり「お前の従僕、本当に天使か?」と言ってきてむっとしたけど、そんなに悪い奴じゃない気がする。金髪でいかにも貴族という格好だけど、シアと同じく、誰にでも分け隔てなく接している。
そして昼休み、昨日は従僕と一緒にご飯を食べる人や様子を見に行ってから食堂に向かう人など、色々いた。私も昨日は模擬戦の真っ只中だったこともあってセロと二人で食事をとったけど、今日からは友達と一緒に食べることになりそうだ。
「メリットはお昼どうするの?」
「えっと、私はとりあえずセロのとこに行ってからかな。」
「あ、私もキャピちゃん見に行かないと。一緒に行きましょう?」
「・・・ええ、そうね。」
ミリアはいい人だと思う、気も合うし。けれど従僕が・・・虫なのが嫌だ。
そして朝からずっと気になってたあのリュックの中・・・何かモゾモゾ勝手に動いてる気がする。
絶対、他にも従僕がいる・・・そしてそれはきっと虫だ。
「あんたたち、お昼は?私はミントちゃんにあげてからになるけど・・・。」
シアも合流した。
「下に行くんだろう?僕も行こう。」
ライナも合流する。
「ちょっと、あんたがいるとガールズトークできないでしょう?」
「・・・君がいても一緒だろう?」
「それ、どういう意味?」
「君は女性には見えないということさ。」
「いったな、軟弱貴族。」
「いい度胸だ、男女。」
「はい、それぐらいにして早くいきましょう。」
「もう3回目になるわね。」
そう、3回目だ。シアがライナに絡んで、ライナが反発、喧嘩一歩手前でミリアが止める。
朝、登校してからさっそく1回、そして次の休み時間で更に1回と、むしろ気があうんじゃないかと思えるぐらいの掛け合いのテンポに私とミリアは笑ってしまう。
朝、話をした中で、みんな家の格式はあるけど、クラスメイトなのだし、呼び捨てでいこうということになった。言ったのは私だけど、この中だと一番家の格式は高いし。
4人で連れ立って1階に降りる。他のクラスメイトはグループを作ってる最中なのか、まだ1階には降りてきそうにない、だから私達がBクラスでは一番乗りだったみたいだけど・・・この状況は・・・。
「なに・・・この状況。」
「・・・えっと・・・。」
「どうなってるんだ?」
私だけじゃなく、他の3人も動揺してる。
そりゃそうだ。
1階の大きな従僕専用のスペースは真ん中が大きく空いていて、左右に綺麗に分かれてしまっている。
テイマーやブリーダーの人たちも必死に狭いスペースによらずに真ん中にこさせようとしているが、うまくいっていない。
「と、とりあえず、私達の従僕は・・・。あのぉ」
「あ、こんにちわ。えっと・・・すいません、今ちょっといろいろと問題が・・・。」
胸の名札にブリーダーと書いている女性を呼び止めた。
名前は・・・サラーヌさんというらしい。
「どうなってるんですか?これ。」
「いえ・・・少し問題がありまして・・・。」
「それにしても綺麗に分かれているな。」
「綺麗に?」
ライナが関心するように漏らした言葉の意味がわからない。
「わからないのか?種族を見てみろよ。」
そういわれて種族をよく見る・・・なんだろう?
「あ、神獣と魔獣に分かれてる!?」
「・・・本当ですね・・・。」
シアが気づいて、ミリアも目を丸くしている。
言われてみれば、ちょうど神獣と魔獣に別れて壁際に寄っている。
「それに、気のせいか、魔獣はえらくピリピリしてるな、神獣は逆にのんびりしているというか、安心しきっている。」
確かにライナの言う通り、魔獣は所狭しとひしめきあいながら、神獣側を注意深くチラチラ見ている気がする。そして、たまに尻尾が触れ合うなど些細なことで喧嘩を初めて、スタッフの方が止めに入っている。明らかにピリピリした雰囲気だ。
逆に、神獣は集まっているものの、一定の距離・・・というか気持ちよさそうに寝ているものが多く、リラックスしているように見える。
「いつもこんなにハッキリ分かれるんですか?」
「いえ・・・みんなはじめてのことで戸惑っていまして・・・原因は分かっているんですが・・・。」
「原因はわかっているのですか?では早く解決したほうがいい、神獣はともかく、魔獣はこれでは居心地が悪いでしょう。問題になりかねない。」
ライナのいうことは最もだ。幸い、私達は全員神獣側なので、そこまで気にならないが、魔獣側の人が見たら、この状況に不満を持つだろう。
「そうなんですが・・・とりあえず、セロさんの主の方が来られないとどうにも・・・。」
「え・・・セロが何かしたんですか!?」
「もしかして、セロさんの主の方でしょうか?」
サラーヌさんの声に魔獣側の仲裁をしているブリーダーやテイマーの人たちの視線が私に集まった気がした。いや・・・睨まれてる!?
「どういうことだ?」
ライナも首をかしげている。
「セロさんならあそこで・・・寝てますけど・・・。」
ミリアが差す方向にセロがいた。
昨日いた部屋の隅っこに陣取って、近くにはまた読んでいたのか本が置かれている。
しかしながら、今、セロは気持ちよさそうに眠っていた。
彼の背には大きな馬のような神獣、膝にはフライトボア、頭には砂アラシ、肩にはキャタピラーが乗っている。それ以外にも、色んな神獣が彼の周りに集まり、ひっついている。
冷静に見ると、神獣達の集まりの中心にセロがいる。
・・・あいつはいったい何をした?
「いや・・・実は・・・あ、ちょっと。」
何にか言おうとしたサラーヌさんを無視してズンズンとセロの方に歩いていく。
途中、何匹かの神獣が不機嫌そうに頭をあげてこちらを見たがそんなの関係ない。
セロの前まで移動し、息を吸う。
「セロ!!貴方!なにやったの!!」
久々に出した大声だったが、効果てきめんだった。
ビクっと跳ね上がり、頭の山アラシが落ち、膝にいたフライングボアも飛び上がる。
「ああ、スティンガー。」
「きゃーミントちゃん!」
ライナとシアの声が聞こえたが無視。
「え・・・あ・・・メリットか。おはよう。どうした?終わったのか?」
寝ボケまなこを擦りながら、セロがのんきに伸びをした。
その耳をつかんで引っ張りながら連行する。
「い、痛い!なんだ!?どうしたんだメリット!」
そのままサラーヌさんの前まで移動し、頭を下げた。
「すいません!うちの従僕が何かしたんですよね。申し訳ありませんでした!」
サラーヌさん含め、他のブリーダーやテイマーの人たちにも頭を下げる。
「えぇ!?俺は何もしてないぞ?」
「ウソおっしゃい!この状況を見て・・・え?」
セロをサラーヌさんのところに連れてくるということは、この部屋の中心に来るということだ。
そして、それにあわせて、魔獣側が更に壁際に寄ってしまっていた。
まるで怖がるように・・・。
「あ、あんた!ほんとに何したの!?」
「お、お待ちください。セロさんは神獣をかばっただけで、悪いことはしていません。」
「え、かばった?」
「どういうことだ?にしても、スティンガーがこれほどなつくとは・・・。」
「私のミントちゃんも人見知りなのに。」
「キュピちゃん?あれ・・・キュピちゃんはどこに・・・。」
砂アラシを抱き抱えながら話に入ってくるライナ。
シアもフライングボアを抱っこしてこちらに駆け寄ってきた。
ミリアだけがキョロキョロとキャタピラーを探してる・・・あれ?さっきまでセロにくっついてたはずなのに、見失ったんだろうか?
「実は朝、そちらのフライングボアのミントちゃんが、魔獣達に追いかけ回されてまして・・・今年は魔獣の数が多いので、気の荒い魔獣達を制御しきれず・・・すいません。ちょうどそこで、本を読んでいたセロさんが魔獣達を叱ってくれたんですが・・・その・・・魔獣達がそれ以降怯えてしまって・・・。」
「セロを避けていると?」
「はい・・・なだめてはいるんですが、なかなか落ち着いてくれなくて・・・。申し訳ないのですが、魔獣達と和解してもらえませんか?もう怒っていないと分からせてくれるだけでいいんです。」
「・・・何度もいったが、めんどくさいから嫌「わかりました!」」
セロの口を閉じ、代わりに答える。
私の答えに、サラーヌさんはホッとしたように胸をなでおろした。
「でも、何をさせればいいんですか?」
「はい、その辺で怖がってる魔獣の誰かの頭を撫でて貰えれば、それでわかると思うので・・・お願いできますか?」
「セロ、やりなさい。」
「ちっ!」
舌打ちするセロの頭を小突く。
叩かれた頭をさすりながら、一番近くで身を小さくしていた狼?のような魔獣に近づいていった。
不幸な狼はセロが近づいて来るのを見ると、ビクっと震えて逃げようとする。
しかし、後ろや周りには他の魔獣がいて、動けない。
セロが更に近づくと、観念したのか、ゴロンとお腹を出して転がった。
・・・犬が服従を誓うような仕草をしてる。
そして、その狼の周りの魔獣は後ろに下がり、お腹を出した狼の魔物だけ取り残されていた。
セロがしゃがみこんで、狼のお腹を撫でる。
狼が震えているように見えるのはきっと気のせいじゃない。
しばらく、お腹を撫でられると、狼は安心したかのように立ち上がり、セロの手を舐め、頭を擦り付けた。
その様子を見た他の魔獣達も怖々とセロに近づいて行き、頭をこすりつけたり、手を舐めたりしている。
魔獣達の緊張が解けたんだろう、他のスタッフの人達も安心したように息をついている。
「これでいいか?」
セロは立ち上がりこちらに歩いてきた。
「はい、ありがとうございました。すいません。ご迷惑を・・・。」
「いえいえ・・・元々こいつが悪いんで、気にしないでください。」
サラーヌさんに笑いかけると、シアが頭を下げてきた。
「ごめんね。私のミントちゃんを庇ってくれたって・・・。」
シアは申し訳なさそうにしているが、なぜか抱き上げられているフライングボアのミントちゃんは鼻息荒く、魔獣達を威嚇しているように見える。
・・・人見知りっていってなかった?もしかして、喧嘩をふっかけたのはその子からなんじゃ・・・。
「大丈夫よ。気にしないで。」
「セロもありがとうね。」
「・・・あぁ。」
セロが少し驚いた顔をしたけど、たぶんあれは照れてる。
「あのぉ・・・メリット、キュピちゃんを返してもらっても?」
「返す?どういうこと?ミリア。」
ミリアが申し訳なさそうに、私を・・・いや、私の肩の方を見ている!?
「うん?気づいてなかったのか?それはミリアの従僕だろう?」
ライナが私の肩を指差す。
私は・・・ギギギと、音が出るように左肩の方を振り返った。
「キュ~♪」
そこには・・・ご機嫌にウネる巨大な虫がいた。