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国民ノ保護ニ関スル情報  作者: ゾンビーノ
1/1

はじまり

万が一読む人とかいたら次話上げます。

07月28日06:00

某地方中堅都市


ピピピピピピピピピ

――バシッ


 目覚ましを壊れるんじゃないかという勢いで止める。

 季節は夏、こんな時間だってのにもう暑くなり始めている。

 今日は高校の終業式の日。

 やっと夏休みに入れる分、目覚めもいつもよりスッキリしている。


 宮本優也(18)

 アメフト部所属で、自称進学校に通っている。 

 今は親の仕事の都合で某地方中堅都市に一人暮らしをしている。

 慣れた手つきで朝食を作り、朝の身支度をなんやかんやとしているとすぐに学校へ行く時間になる。

 溜まったゴミを袋にぶち込んで駆け足気味に家を出る。


「優也くん、おはよう」

「おはようございます、行ってきます」

「はい、気をつけてな」


 ゴミ捨てをしながらいつもの通り、お向かいさんがいたので挨拶を交わし、電車に乗るために最寄り駅まで歩く。

 イヤホンからはお気に入りの曲が流れている。


「竣貴、おはよ」

「うっす!」


 北島竣貴(18)

 高校は違うが、毎朝同じ電車に乗るから自然と仲良くなった。中学は同じで、何かと話が合うやつだ。


「今日も暑いな。お前の高校は今日終業式か?」

「終業式は昨日。今日から夏期補修だよまったく」

「まじか笑俺は今日終業式だよ」

「そっちはいつも1日遅いよな」


 そんな他愛もない話をしているとホームに古めの電車が入ってくる。


「なあ優也、良いよな中央行きの電車はよお?」

「あー最新車両か?ズルいよな、あっちばっかり」


 ここは地方中堅都市だが、車両は国鉄時代の物を今でも使っている。

 冬は豪雪地帯のこの地域では東京で走っているようなドアが自動で開くタイプの車両だと、停車駅ごとに不必要な寒い思いをするとの理由で手動式のこのタイプが重宝されている。

 それゆえに、都会から来た人はいつまで経っても開かないドアの前でずっと待っていて、後ろの人に開けてもらうという驚きとちょっぴり恥ずかしい思いをする事が多い。


「でもまあ、俺達の学校の方が田舎だから仕方ねえか」

「ま、そうだな。それにあんなギュウギュウ詰めの満員電車よりも、座れるこっちの方が夏は快適だろ?」

「それもそうだ笑」


 最寄り駅を出発して何駅か過ぎるとすぐに田園風景が広がる。

海に面したこの都市はそこそこな規模の地方都市ではあるが、山や海の自然に恵まれ、中心部以外ではまだ多くの豊かな自然が残っている。

 ビルなどの建物が乱立している都会ではまず見れない光景で、俺は結構気に入っている。

 

「じゃあな優也!」

「おお、夏期補修頑張れよ(笑)」

「るせー笑」


 そういって竣貴と別れる頃には乗客の数もだいぶ少なくなってしまっている。

 この駅から先はさらに田舎なので当然だろう。

 車内を見渡すと、同じ学校の学生達と会社員がほとんどだ。


(さて、駅までネットでも見てるか…)

 そう思ってスマートフォンを取り出そうとした時、車内で一斉に聞いたことの無い音が鳴り響く。


「なんだなんだ?」

「ビックリしたぁ」


 一斉に、それも聞いたことの無い不気味な音がしたので車内がざわつく。

 どうもスマートフォンから音がしたようだが、地震速報とは少し違う音だった。

 俺も少し動揺しながらも画面を見て、硬直した。



………………………………………………………         

国民保護に関する情報


7月28日07時15分


政府発表


内容

緊急情報。緊急情報。現在、テロ活動を含む暴動が発生している模様です。


事象: テロ・広域災害

範囲: 日本全土


屋外にいる方は屋内に非難し、不必要な外出は控えて下さい。

建物の窓を施錠しカーテンを締め、扉を塞ぎ、可能な限り外からの侵入を防いでください。

また、テレビ・ラジオをつけ、政府の発表する情報に注意してください。



……………………………………………………………


「なんだよこれ…」

 

 周りの乗客達にも同じ情報が来たらしく、様々な憶測が飛び交う。


「暴動って…テロか!?」

「中国か北朝鮮が攻めてきたのかもしれないぞ!」

「それだったらミサイル情報とかだろう?」

「範囲が日本全土ってどういうことだよ!?」


 その時、一人の乗客が窓の外を見て叫ぶ


「お、おい!なんだあれは!!」


 電車の進行方向、つまりこれから俺達が行こうとしている街からいくつもの黒煙が見える。

 この時はまだ知る由もないが、全世界の主要な都市は既にパニック状態に陥り、日本でも警察や消防などの社会機能は完全に麻痺した状況であった。


(テロ?いや、こんな田舎町が襲われるわけない。しかし外からの侵入って?……まさか!?……)


『バリン!!』

  突然大きな音がしたのでそちらの方を向くと、運転席のある車両前部の連結部分、その扉の窓ガラスが割れている。

 その扉の向こうに見えたもの、それはまさに地獄絵図その物だった。

 乗客同士が乱闘している。

 いや、それは乱闘というには程遠く、一部の乗客が一方的に他の乗客に襲われているようだ。

 その乗客は悲痛な断末魔を叫び、それに吸い寄せられるように他の乗客が群がっていく。


 「人が人を…喰ってる!?」


 こちらの車両のある女性がそう言った。

 その瞬間、その声の主は悲鳴をあげ、車内に血しぶきが飛び散った。

 隣に立っていた男がその女性に噛みついたのだ。

 車内で一気にパニックが加速する。

 逃げようとする他の乗客が後ろの車両へ行こうとするが、そちらでも同じ事が起こっていた。

 

 車両の前後両方を塞がれ、退路を断たれた乗客達の緊張は限界に達した。

 ある者は泣き出し、ある者は奇声をあげながらここから出してくれと叫び出す。

 まだ耐えている乗客達はどうすることも出来ないでただ呆然としていた。

 勇気を出して、暴徒化した乗客達を止めようとした一部の乗客は暴徒達に捕まり、あっという間に血まみれになる。


「まるでゾンビだ!」


 そう。その通りだった。

 映画やアニメの中でしか存在しないはずの、死者が蘇って生者を喰らう。あのゾンビだ。

 人であった者が人を喰い殺している。

 そんなフィクションな光景が今目の前で起こっている。


「早く駅に到着しないとヤバいぞ!」

「運転士さん!早く降ろして!!」


 乗客達は次々と叫びだす。しかし、もうすぐ駅だと言うのに電車は一向にスピードを緩めない。


「おい、この電車、駅で止まるのか!?」

「これって、加速してる!!はやすぎるわ!!」


 電車はコントロールを失い、通常では有り得ないスピードで走行していた。

 それもそのはず、前方の暴徒、いや、ゾンビ達の中に運転士の制服が見える。


「マズい!もう駅だぞ!」

「そうだ!」


 俺はとっさに思い出し、後部連結部分へ向かう。

 扉の向こうでは今もゾンビ達が生きた乗客達を貪っているが、お構いなしに壁についている非常レバーを引いた。


 『キイーーーーン』

 甲高い金属音を鳴り響かせながら、電車は急制動をかけ、ゾンビや生きている乗客達は前方に吹き飛ばされる。

 

「イテテテ」

 

 レバーを引いた俺も吹き飛ばされ、ボックスシートに派手にぶつかる。

 電車は駅のホームに差し掛かった辺りで停車した。

 周りを確認すると、前方のゾンビ達は車両一番前の壁にぶつかって動かないようだった。

 後方も、ガラスは割れているがゾンビ達の姿は見えなかったので恐らく同じだろう。

 生きている乗客達は無事なようだが、何人かは怪我をしたようで血を流している者もいる。

 俺も何とか起き上がって乗客達の元に戻る。


「大丈夫ですか?すぐに電車から出ましょう!」

「あぁ、私はなんとか。それよりそこの彼女を」


「誰か手伝って下さい!ドアを開けます!!」

「わかりました、あなたは非常ハンドルを…!」


他の乗客達がドアを開けてくれるようなので、俺は床に倒れている女の子の元へ駆けつける。


「君!大丈夫?どこか怪我は!?」

「……」

「おい!大丈夫か!?聞こえるか!?」


 何度呼びかけても返事がないが、呼吸はしているようなので恐らく気絶したのだろう。

 外傷は無いか確認しようと顔を起こしてみると、見覚えのある顔。

 

佐倉結衣(16)

 高校の同じ部活、アメフト部のマネージャーで2つ年下の一年生の後輩だった。


「おい!佐倉!聞こえるか!?」

 もう一度呼びかけてみるが結果は同じだった。

 諦めて外傷を確認する。

 脳震盪や骨折などが心配だったが、血は出ていないので恐らく大丈夫だろう。


「ドアが開いたぞ!」

「みんな出るんだ!!」


 他の乗客達がドアを開けるのに成功したらしい。

 この時俺は正直焦っていた。

 もし今起きているこの状況が本当で、そして彼らがゾンビそのものになっていたとしたら、事態は一刻を争うからだ。

 急いで乗客達のところに戻り、動けない人を手伝う。

 最後の乗客を外に出すのを手伝っていると、後ろから嫌な呻き声がする。


 恐る恐る振り向くと、車両の最後尾に同じ学生服を来た人――――だったものが立っていた。

 腕は明後日の方向に曲がり、内臓が飛び出てて、顔面は左半分が無くなっている。

 片方残った目は全体が青紫色に変色しており、口からはよだれなのか血なのかわからないが、赤黒い液体が滴り落ちている。

 しかし、しっかりと二足の足で立ち、一歩ずつゆっくりではあるがこちらに近づいている。


「あぁ…やっぱりか…」


 俺はこの時確信した。

 これはもうゾンビなんだと。

 人間ではないんだと。

 そしてこうも思った。


       逃げなければ!!!!


 体中の全神経が全力で最上級の警報を鳴らしている。

 目の前にいる『アレ』は危険だ。

 生命に危機が及んでいると直感が告げている。


 ゾンビ物の映画や漫画・ゲームなどは好きなので、ある程度の免疫は付いてるし、万が一こういうことが起きてもアニメみたいに対処できると思っていた。

 世界中にゾンビが蔓延した時の妄想だってしたこともある。

 しかし、今現実として目の前にいる『アレ』は、その想像を簡単に否定した。


 (映画やゲームと現実は違う!!!!)

 

 等身大の殺人マシーンと化した元人間を目の前にして俺の手足は震えた。

 

 (ゾンビがいる現状を簡単に受け止めて、順応して、頭をかち割るなんて決して簡単なことではない!!!!)

 

 そう、現実は甘くないのだ。

 だが着実にその距離を詰める『アレ』から逃げなくてはならない。

 何度か深呼吸をして自分の体を落ち着かせる。

 呼吸が落ち着き、体も動きそうだ。

 ボックスシートの陰で隠れていたので、『アレ』はまだ俺に気がついていない。

 さて逃げようと姿勢を低くしながらドアに向かって歩き出して気付く。


(佐倉がまだ中にいる!!??)


 反射で確認すると、『アレ』から約五メートル手前のボックスシートの陰に佐倉が横たわったままになっている。

 幸いにしてまだ気絶しているようで、『アレ』も佐倉に気づいていない。

 一度窓からホームを確認してみるが、他の『アレ』は見当たらない。

 先に降りた乗客達はというと、駅前にある交番に向かったようだ。


 『アレ』はどうやら一体だけ。

 佐倉と俺の距離は約二メートル。

 走って行ってすぐに担げばなんとか間に合うだろう。

 しかし、俺の知識はすぐに動いてはいけないと警告していた。

 ゾンビは体の機能として残されたものによってタイプを分けることができるのだ。



①知能が残っているタイプ

②知能は無いが、体の機能は残っているタイプ

③知能も体の機能もほとんどないタイプ

 

 一番厄介なのは①のタイプだろう。

 いわゆる自我を失った殺人鬼であり、目や耳などの五感は勿論、走ることもでき、知能があるので道具を使うことができる。


 次に厄介なのは②のタイプ。

 知能は無いので道具を使ったり、他のゾンビと連携して待ち伏せなどは出来ないが、身体機能は問題ないので走ったりは勿論、下手をしたら壁なども登ってくる。

 

 最後に、一番ありがたい?のは③のタイプ。

 知能も体の機能もほとんど無いが、耳だけ聞こえたり、目だけ見えるのでそれを頼りに生者を追いかける。

 バランス機能を失っている場合が殆どで、走ることは出来ない。

 


 映画やゲームに出てくるゾンビは大方このようにまとめられるが、腕力などの筋肉が物凄く強化されていて、一度捕まったら逃げられない場合もあれば、某ゲームや漫画のように音だけに敏感で個体差はあるがほとんどが歩くことしか出来ない場合など、様々である。


 ゆえに、今目の前にいる『アレ』がゾンビでいうどのタイプなのかを把握していなければ助けるどころでは無い可能性もあるのだ。

 仮に①のタイプだとすると厄介だが、その場合佐倉や俺はすでに殺られているだろう。

 すなわち、目が見えている可能性は低い。

 また、耳が良く聞こえて走れるタイプだと、彼女を担いで走っても逃げられない。

 ここで彼女を見捨てて逃げることも可能だが、それは…後輩を見捨てられないよな…。

 まてよ、タイプ②か③ならまだ希望はあるかも。

 

 頭をフル回転させ、ある決断にたどり着く。

 俺は立ち上がり、乗客の誰かが飲んでいたのであろうお茶のペットボトルを拾い上げ、『アレ』の後方に投げてみる。

 ペットボトルは壁にぶつかり、音を立てた。

 『アレ』は進むのを止め、真っ直ぐに俺を見つめる。


(しまった。目が見えるタイプか!?)


 俺は全力で逃げる体勢を取り、横目で退路を確認する。

 一瞬の静寂が場を支配する。

 来るか!?と思ったその時、「ヴヴ、ァァア″」と声を出しながら『アレ』は反転し、車両後方に向かって歩き出した。


(助かった…)


 深いため息をつきそうになるが、ここで声を出してしまったら元も子もないので我慢して、音を立てないよう慎重かつなるべく急いで佐倉の元へ行く。

 小声で話しかけて見るが返事はなかった。

 様子を確認するが襲われた形跡はなく、無事なようだ。

 とりあえず安堵し、未だに気絶している彼女を肩に担いで電車から脱出しようとしたその時、不意にイェーガーなメロディーの着信音が車内に鳴り響く。


 (ヤベェ……マナーモードにするの忘れてた……)

  

 後悔先に立たず、自業自得とはよく言ったものだ。

 案の定『アレ』は、しかも凄いスピードでこちらを向き直し、歩くより速いスピードでよだれを垂らしながらこちらに近づいてくる。

 俺のスマートフォンから丁度サビの部分が流れたあたりでその曲は止まった。

 

 (こんな事では本当にこっちが駆逐されてしまう。)

 

 ちっとも笑えない状況の中でアホウは冗談を一人呟いた俺は、このどうしようもない状況で逃げることをあっさり諦めた。 


 (こんな状況じゃいつできるかわかんないし、仕方ないがいつかはやらなきゃいけないんだよな。)


 そう自分に言い聞かせ、急いで鞄の中からあるものを取り出す。


 『U.S.Navy Mk3-MOD0』 

 オンタリオ社製で、ベトナム戦争や湾岸戦争時にアメリカ海軍が正式採用していた汎用ナイフ。

 ハンドルエンドは金属製でハンマーとしても使用可能で、最近ではダイビングナイフで多く使用される有名なナイフである。


 なぜそんなナイフを、しかも通学時に持ち歩いているのか。

 それは親が特殊な職業ということもあるが、単純に護身用として隠し持っていたのだ。

 最初からこのナイフでゾンビを倒すように頭を刺してしまおうかとも思った。

 しかし、前述のように力が超強力かも知れないし、ゾンビと同じように頭部への攻撃が有効なのか不明であった。

 何よりも、何が原因でゾンビ化したかわからない今、不必要に血に触れたりするリスクは避けたかった。

 だが結局は、この最悪な状況がいつまで続くかわからないこと、そしていずれは倒さねばならないことも理解していた。


 佐倉を椅子に下ろし、戦闘態勢に入る。

 (目の前にいるのはもう人間じゃない。)

 (やらなければやられる。)

 (戦え!戦え!!戦え!!!)

 何度も何度も自分に言い聞かせ、体の震えを抑える。

 顔半分が無くなっていただけでもまだ人外なものと認識出来るのでマシだった。

 『アレ』はドンドン近づいてくる。

 アメフトをやっているのもあって、迫ってくる相手には慣れているつもりだったがこの恐怖は別物だった。

 戦法を頭の中で繰り返しイメージする。

 

 三メートル

 二メートル

 一メートル

 …

 意を決して左手でナイフを持ち、低い姿勢のまま一気に前進して右肩で『アレ』を膝下からカチ上げる。

 そのまま近くのボックスシートに投げ飛ばし、ナイフを両手に持って『アレ』がうつ伏せになっている隙をついて後頭部から一気に振り下ろす。

 頭蓋骨を貫通する手応えを感じたが、それでも手を止めずに今度はハンドルエンドで頭部を殴りまくる。

 この間わずか五秒ほどだが、時間は長く感じられた。

 攻撃を極力短くしてすぐに『アレ』から距離をとる。

 その際外のホームや車両前後の状況を確認するのも忘れない。

 

しばらく様子を見たが、『アレ』は動きを止めたようだ。

 距離をとりながら足で『アレ』を仰向けにすると、見事に顔面までナイフが貫通していた。

 どうやらゾンビと同じように、頭部にダメージを与えれば倒せるらしい。


 ナイフの状態を確認すると、少し刃こぼれしたような気もしたが大した傷はなかった。

 

(流石ミルスペック)


 そしてハッとする。

 ゾンビのようであれども、元は人間だ。

 しかも同じ学生服を来た同じくらいの年であろう人間。

 自らの身を守るためとはいえ、その生涯を実質的に終わらせてしまった。

 しかし、想像していた程のショックや罪悪感は感じられなかった。

 むしろ思ったよりも簡単に、『アレ』を倒した自分自身に驚いた。

 俺は静かに黙祷し、側にあった上着を彼の顔にかけてあげた。


(花でもあればいいんだけどな。許せ。)

 「君の分まで懸命に生きるよ、俺は。」


 しっかりと声に出して彼に話しかける。

 聞こえているといいなと思いながら。


 外からは悲鳴やクラクションが聞こえ、遠くの方からヘリコプターの音も聞こえる。

 俺は佐倉の元に戻る。

 まだ気絶しているようだが、今意識が戻られてもそれはそれで大変なので結果オーライとしておく。

 自分の体を確認するが、後頭部から攻撃したので返り血はほとんどなかった。


(さて、これからどうするか。)

 この先の一抹の不安を感じながら、少しワクワクしている自分に気がついて嫌気がさした。

(何がイェーガーだ、畜生)


 忘れるとこだったと、スマートフォンを取り出してマナーモードに設定し直し、佐倉を肩に担いで電車を降りる。

 ホームには人の気配は無いが、駅舎に『アレ』がいたら面倒なのでホームの低めの柵を乗り越えて駅から脱出することにした。




 7月28日07時35分

 今日はまだ始まったばかりだ――――――



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