チープスリル 第14話(完結)
第14話(完結)
ディスプレイの前に、泣き疲れて眠ってしまったミッキーがいる。
彼がかけていた音楽が、地下シェルター内にただ流れていた。
その音源は、ミッキーがエバーグリーンのデータベースから掘り出した母なる母星「地球」の音楽ライブラリからのものだった。
エバーグリーンの人間たちは、もう「古い歌」は聞かない。
この星で生まれた新しい歌が好きなのだ。
新しい回線で流通しているその音楽を、ミッキーは手に入れることが出来ない。
だから仕方なく昔の音楽を聞いている。
今流れている楽曲を歌っているのは、若い白人女性だ。
絞り出すような、悲しくそして不思議と力強い声が印象的だった。
原曲は、ジョージ・ガーシュウィン作曲、デュポーズ・ヘイワード作詩の「Summertime」。
皮肉な事に、この歌は子守唄だった。
外の殺風景な光景にまったく似合わない高級車のだだっ広い後部座席で、ロックロウは目覚めた。
頭全体が痺れた感じで目眩もした。
「まだ、じっとしてた方がいいな」
今や聞き慣れたカサノバベックの声が、彼の側から聞こえた。
「ここは天国か?いや、俺が天国にいけるわけがないな、、。」
「おいおい、本気で言ってるのか。ここは俺の車の中だよ、」
「俺を助けてくれたのか?」
「助けちゃいない。たまたま、お前さんが例の場所近くで倒れていたのを見つけて、拾って来ただけだ。」
「たまたまなぁ、、しかし、何で俺が生きてる?」
「知るかよ」
カサノバベックは楽しそうに笑った。
「ただ、お前さんの頭の側に弾頭の潰れたのが落ちてた。よっぽど石頭なんだな。」
今度こそ駄目だと思ったが、又、ベルトに命を救われたワケだ。
ミッキー。おまえ、最高だぜ。
「、、そうか。今度の勝負。スネークの勝ちだな」
「いや、そうでもないかも知れないぞ、コイツを調べに走らせてみたんだが、丘の上に大量の血の跡があったそうだ。」
カサノバベックが、若い運転手に顎をしゃくってから言った。
運転手が軽く頷いたのがロックロウにも見えた。
「・・・俺のも当たったか、、、」
「みたいだな。引き分けってところじゃないのか。しかしこれで奴も、そう派手には動けなくなるだろう。お前さんにとっちゃ、引き分けでも、奴の評判上の評価は2敗目だ。まあ、ああいう奴は、地下に潜ったら潜ったらで、又、厄介だがな。いや、もう諦めるかな?あんた、奴の仲間を全員絞め上げたんだろう?」
「ああ、締め上げすぎた。でもスネークは諦めないだろうな。誤解が解けるまでは、、。」
「誤解、なんの事だ?」
「・・・いや、なんでもない、」
そう言ってロックロウは車外の光景を黙って眺めた。
世の中に「誤解」なんてものは、ないのかも知れない。
誰かのせいで、ああなったとか、こうなったとか、皆、後付の理由だ。
結局、人は自分がそう思いたいように思い、そう生きるものだ。
道の遥か遠くに、クルナギ大聖堂の尖塔が小さく見え始めていた。




