チープスリル 第12話
第12話
この音には聞き覚えがある。
まさか奴ら、高機動野戦タンクまで持ち込んでいるのか?
ロックロウが、恐る恐る、壊れて出来た倉庫の穴の陰から外を見てみると、今まさに、社屋の壁をぶち破って高機動野戦タンクがその姿を表し始めていた。
優秀なブロンズコネクターが操縦すれば、中軽量の昆爬と互角に戦える兵器だ。
いくらなんでもコイツ相手に戦えるのかと、ロックロウは思った。
思った矢先に、タンクの主砲から放たれたと思える風圧が来た。
実際には、砲弾がまともにロックロウの頭上を掠めて通過していたのだ。
轟音と共に背後に残っていた倉庫の屋根が見事になくなっている。
飛んで逃げるしかなかった。
重力制御の飛行は、スピードがそれほど出なかったが、少なくとも地上を走って逃げるより何倍も早い。
主砲がロックロウを追尾してくる。
だが移動速度こそ見劣りするが、重力制御の飛行ルートは自在を極める筈だ。
ロックロウは、それを意識して昆爬フェアリーのように逃げ回っている。
このタンクは、標的追尾機能が弱く、その弱点を昆爬に突かれて、戦いの後半は劣勢に追い込まれた機体だ。
なのに何故か、まだ追尾できている。しかもかなり正確な追尾だ。
まさかマーカーか?
昆爬との闘いで劣勢に追い込まれたこのタンクは、苦肉の策で、高速移動する昆爬に初弾で電磁マーカー弾を打ち込み、それを追尾して射撃していた。
だが外界では、小規模の磁気嵐が起こっただけで、その作戦も頓挫し、、、
えっ?ひょっとして俺もマーカーを打ち込まれた?
さっきの、肩か、、?
万一、致命傷を負わせられない一撃だったとしても、その弾にマーカーを仕込んでおけば、次の攻撃に望みを託せる。
しかし人間相手に、昆爬に対応がする如く、何故ここまでやる?
しかも奴らの戦いぶりは、各々、一人ひとりが、仲間の為の囮になっている。
一人が死んでも、それで戦いが有利になれば良いと考えているようだ。
なぜそこまで出来る。
単に、金の為に結びついたチームではないのか?
『ひよっとして俺が彼らと同じ元兵士だからか?しかも俺は世間一般では第二世代兵士の英雄だ。、だからなのか?』
『そんな人間が、正義ヅラして、自分たちを潰しに来た。だから、こいつらは、何が何でも俺を、、。』
『違う、違うんだ。俺だって英雄じゃない、軍隊自体に裏切られれ軍隊から放逐された人間なんだ』
ロックロウは、いつにもなく混乱していた。
そう叫んで見ても、その声が届く筈もなく、ランダムに飛ぼうとしていた軌道もいつの間にかパターン化して、先が読めるようになり、、、駄目だ、撃ち抜かれる。
バリヤーで直接のダメージは避けられても、砲撃被弾によって、身体の中身はグチャグチャに潰されるだろう。
分厚い外骨格を持つ昆爬たちがそうだった。
昆爬!、昆爬?、昆爬ならこんな時、どうした?
ロックロウの頭がフル回転する。
思い出した。
昆爬の闘い方では、小さなフェアリーが、主砲の穴の中に自ら飛び込んで、砲身の穴を潰してしまうのだ。
その時、砲弾が発射されれば、昆爬は勿論死ぬが、砲身も破裂する。
砲座も吹っ飛ぶ。搭乗員は即死だ。
あれをやるしかない。
飛行を一時止めて、そのタイミングで何か適当なものを、ベルトの遠隔操作で素早く砲身に詰めこむ。
無論、タンクは、飛行を止めたロックロウにすぐさま砲弾を発射するだろう。
その時にドカン!だ。
ロックロウの視野の中に、採石残りの手頃なサイズの岩が見えた。
高機動野戦タンク内に、格納されていた弾薬類が誘爆を起こし、更にそれが敷地内に仕掛けられていた様々な火薬類を連鎖爆発させ、採石場跡は火の海と化していた。
ベルトの力で辛うじてその場を凌ぎ逃れたロックロウは、足を引きずりながら、バギーの止めてある丘に向かった。
スネークロウは仕留めていないが、彼がもしあの採石場に残っていたとするなら、生き残っている可能性は0だと思えたからだ。
戦況分析には慎重な筈のロックロウが、そう断定する程の壊滅ぶりだったのである。
身体中がボロボロだった。
精神力も底を付いていた。
家に帰りたい。ベッドで死んだ様に眠りたい。いやベッドで気持ち良く寝れるならそのまま死んでも構わない。
、、ここはあの戦場と何も変わらない。
そう思いながらトボトボと歩くロックロウの曇った視野の一点に、光る小さな点が一瞬瞬いた。
スネークだ!。
奴は、俺が最初に潜んでいたあの丘にいる!
もしかして、最初からか?
お互いがお互いの存在を認めた瞬間、本当の対抗狙撃が始まった。
人間の通常の認知から反応に至るまでの時間を飛び越えようとする戦い。
時の流れが煮詰まったような時間の流れの中で、ベルトへの指示も滞る、まさにコンマ数秒の戦い。
たが専用ライフルと、多機能ライフルとの差が出た。
ロックロウは額を強い力で弾かれたように、仰向けに弾き飛ばされていた。




